10.たからもの
サーは、ひさしぶりに一人の時間を満喫しました。
いつまでもゴロゴロと寝そべっていても、好きな時に好きなものを食べても、誰も何も言いません。
食べ物を取り合う相手も、聞いてもいないウンチクを話し続けてくる声もありません。
ぽろり、ぽろり、
「あれ、?」
ぽろり、ぽろり。
サーの目からは、涙が溢れ始めました。
胸の中がぎゅうっと締め付けられるみたいに苦しい。たりないものを、体中が探しているみたいです。
「なんだ、これ」
目元を触ると、泣き虫なエミーと同じ。同じです。
苦しい。止まらない。溢れて、胸が引き裂かれたように痛い。怪我なんてしていないのに。
これはなんだ?問いかけても教えてくれる物知りは近くにいません。
こんな感情、知りたくない。知りたくなかった。
一人でも大丈夫だったのに。こんなふうに苦しくなることなんて、涙が流れることなんて、一度もなかったのに。
こんなに苦しいなら、知りたくなかった。
うれしいも、たのしいも、笑いあうことも、知りたくなかった。
サーに溢れた感情の名前を教えてくれるリウウも、隣にいた、よく泣く弱い生き物もいません。いないのです。
そう思うと、サーの胸はとても苦しくて毒を飲んだように痛くなるのです。
「う、あ……」
思わず声を漏らしたその時、ふわりと目の前に落ちてきた光。
その中には、ポロポロと涙を流しながら、にっこりと笑うエミーがいました。
後ろでは、リウウもはにかみながら笑っています。
2人の笑顔があまりにもきれいで。
エミーの涙も、太陽の光を受けてキラキラと宝石のように輝いていて。
「サー!」
エミーが自分の名前を呼ぶだけで、胸がいっぱいになるような幸せな気持ちになりました。
これはマボロシキノコで見る夢だろうか?そう思ったサーでしたが、ぎゅっと抱きつくエミーの温かさは本物のようでした。
「どうやって……」
「忘れたのかい?魔法の鳥からもらった羽を使ったんだよ」
サーの呟きに、リウウがふふふと笑いながら答えてくれます。
……ひとふりで願った場所へ行ける力。
「サー、ごめんなさい。あいつらに好き勝手言われて……私分かったの。何がいちばんの宝物なのか」
言いながら、ぎゅっと強くサーを抱きしめるエミー。
リウウはニコニコしながら、エミーとエミーのなすがままになっているサーの背中を撫でます。
ぽろり、ぽろり、
一度は引っ込んだはずの涙がまた溢れ出しました。
「あ、れ……?」
もうどこも痛くないのに、なんだか胸がきゅっと苦しくて、熱くて、お日様を浴びたみたいにポカポカとして……
「サーもまた会えて嬉しい?」
「これが、うれしい……?」
「それは嬉し泣きと言うんだよ、サー」
嬉しくて幸せになると勝手に流れてしまうんだ。と、いつものようにリウウが教えてくれます。
「エミー……!リウウ……!」
キラキラしてて、とてもきれいで、とても大事なもの。
サーも自分だけの宝物を見つけて、にっこりと2人に笑い返しました。
(おわり)
ここまで読んで頂いてありがとうございました。