9 脅威の不死者軍団!!
武器・防具屋のドワーフのオヤジ『ドノバン』さんからミスリル製のメリケンサックを仕入れていると、なぜか冒険者ギルドのアンナさんが店に駆けこんできた。
「よかった!!卓也さんとシルビアさんを見つけました!!
すみません!至急、街の外の共同墓場へ急行していただけますか!!
変異スケルトン等の凶悪なモンスターが突然街へ襲い掛かってきたのです。
やつらは動きが遅いのでまだ被害は出ていないのですが、数がすごく多いので、今のままでは町が壊滅する可能性すらあります。
優秀な戦士の卓也さんと女神シルヴィオの神官のシルビアさんがいていただければうちギルマスやサブマス以上に不死者には強力な戦力になってくれます!!」
アンナさんの言葉に従い、俺たちは現場に急行することにした。
その間にギルマスとサブマスは冒険者ギルドでアンデッド用のパーティを集めて、俺たちのサポートに回るつもりらしい。
俺たちが衛兵隊長さんに連れられて街の外をしばらく小走りに移動していると、大量のスケルトンやゾンビがゆっくり歩いてくる手前に一〇人くらいの街の衛兵たちと僧侶の服を着た老人が向かい合っていた。
「世界維持の神・シルヴィオよ!我に退魔の力を貸したまえ!!」
老僧侶が呪文を唱えると、あたりに凄まじい閃光が拡がった。
あまりのまぶしさに思わず目を閉じてしまったが、しばらくして光が薄れるとスケルトンやゾンビはその姿を消していた。
「す…すごい…。」
衛兵隊長は呆然としながら状況を見ていた。
だが、俺とその僧侶は気付いていた。
スケルトンやゾンビは消え去ったものの、その後方にとんでもない集団がまだ残っているのを。
片や全身を包帯のようなものでぐるぐる巻いたマッチョな大男の集団、約五〇人。
一番後ろにいる大男は身長は二メートルを軽く超え、凶悪な筋肉は間違いなく実戦仕込みのものだ。
もう一集団は全身を黒タイツ、黒覆面を被ったやや細マッチョな男の集団が同じく五〇人だ。
顔面にドクロ、体の前面に骸骨上の蛍光塗料を塗ったキワモノ集団だ。
一人残らず全身にまとう戦闘オーラはただものではあり得ない。
「さすがは女神シルヴィオの教皇だけのことはある!あれだけのアンデッドを一網打尽にするとはな!だが、我ら魔王軍の精鋭はそんな退魔魔法では退けることはかなわぬぞ!
俺は魔王軍随一のレスラー・マミー男だ!!」
マッチョなミイラ男がポージングをしながら教皇に近づいていく。
「そして私が魔王軍随一のボクサー・スケルトン男です。私のハードパンチに耐えられる人間などはいはしないのです!」
細マッチョなスケルトンペイント男がボクサーポーズでゆっくりと前進してくる。
最初のスケルトンやゾンビはともかく、こいつらはかけらも不死者じゃないよね?!!
「お前たち逃げろ!!」
教皇が衛兵たちに向かって叫ぶ。
「あいつらは想像を絶する怪物だ!お前さん方では盾にすらなれない!わしが食い止めている間に援軍を呼んでくるのじゃ!」
「しかし、教皇様を置いていくわけには!!」
「心配するな、こう見えてもシルヴィオ女神様に仕える者の中ではわしはいちばん強い。
女神の司徒と勇者様が助けに来られるまでは何とか持ちこたえられるじゃろう。」
教皇はそう言うと衛兵たちに下がるように伝える。
すごいよ!教皇さん!!そんな覚悟ができるとはただものではない!
そしてそんな人を見殺しにするわけにはいかない。
俺は衛兵隊長さんに街に援軍を求めに戻るよう告げると、彼が街に走り出すと同時に懐から仮面を取り出した。
そして、仮面を被ろうとした時に『それ』が起こった。
下がろうとしない衛兵たちにマッチョなミイラ男たちが迫った時、教皇の姿が消え、数体のミイラ男が後方に吹っ飛んでいたのだ!!
衛兵たちの前には上半身裸で、筋肉隆々の老人の姿があった。
「神敵滅殺!!!」
大山倍達先生もびっくり!というくらいの戦闘オーラを纏って、教皇はカンフーのような構えを見せてミイラ男たちと対峙してる。
教皇様、ぱねええっす!!!
「何をしておる!お前たちは足手まといだ!早くもどらんか!!!」
教皇が衛兵たちに向かって叫ぶ。
衛兵たちも言われて気付いたのだろう。自分達にできるのが戻って街の門の守りを固めることくらいだと。
一斉に門に向かって駆け出し始める。
「破邪断裂拳!!」
教皇は凄まじい速度の拳撃をミイラ男たちに見舞い、どんどん吹き飛ばしていく。
「お前たちやめい!!」
マミー男がミイラ男たちを制して前に出てくる。
「お前たちではこいつは相手にならん。
しかし、グレゴリオ教皇がまさかこんな最前線に出てくるとは驚きだな。
まあ、私とスケルトン男の両方を相手にしては勝ち目はないがな。」
「ふ、それはどうかな?」
俺の声に全員が驚いてこちらを向く。
「貴様らはこの俺が引導を渡してくれる!!
聖なる仮面勇者参上!!」
俺の声がなんだかカリスマ性を帯びているような気がする。
今回はデザインはいつもと同じだが、色が白を基調にして、ところどころ金と銀を使っていかにも『聖なる感じ』に見えるように仕上がっている。
「あ…あなたは女神の司徒たる仮面の勇者と……シルヴィオ女神さま?!!」
俺と、そしてシルビアを視認した教皇は愕然としている。
…教皇だけあって、シルビアを司徒ではなく、女神本人だと見ぬいてしまったようだ。
「…ま、まさか、わざわざ私を助けていただくために勇者と共にお越しいただけたのですね?!!」
教皇が感激のあまり涙を流している。
…ええと、二人とも偶然来ちゃったことは秘密にしていた方がよさそうだね…。
「ええと…、そんな感じです。」
駄女神様は明らかに不自然に笑っているが、感激している教皇はそのことに全く気付いていないようだ。
よし、このままなし崩し的に戦闘に入ってうやむやにしてしまおう!
「聖なる仮面勇者流星拳!!」
輝くオーラの拳の連撃が細マッチョスケルトンボクサー軍団にさく裂し、連中が次々に吹っ飛んでいく。
「く、さすがは伝説の勇者!やるな?!お前たち引け!」
スケルトン男の指令で、細マッチョスケルトン軍団が後退していく。
同時にマミー男の指令でマッチョなミイラ男軍団も後退する。
そして、俺とスケルトン男、教皇とマミー男が激突する。
「スケルトン・マッハパンチ!!!」
「聖なる仮面勇者疾風拳!!」
スケルトン男と俺の拳がともに相手にさく裂し、双方が後方に吹っ飛んでいく。
同時に教皇とマミー男が両手を合わせて組み合っている。
プロレスでいう『力比べ』をしているが、双方拮抗していて、動きが少ない。
「スケルトン・ムーンサルトパンチ!!」
「聖なる仮面勇者雷神拳!!」
俺とスケルトン男、教皇とマミー男の戦闘はしばし続いた。
「魔王様!大変です!!コボルド男とゴブリン伯爵が倒されたようです!!」
暗闇の中で黒ローブをまとった暗黒のオーラを纏った存在の前でアサシン風の女性が跪いて告げる。
「どういうことだ?奴らを倒せる冒険者や騎士など存在するとは思えないのだが…。」
傍らに立つ巨大な剣を背負った大男が怪訝そうな顔をする。
「スタートの街の冒険者ギルドでコボルド男とゴブリン伯爵を倒したのは女神の司徒と仮面の勇者ではないかという噂を冒険者たちがしているのだ。間違いはないようです。」
跪いたまま女性が報告を続ける。
「魔王の種を…さらに強力な魔王の種を作る必要がありそうだね…。」
ローブをまとった存在が中性的な声でつぶやいた。
「燃えろ!!俺の聖なるオーラよ!!!
聖なる仮面勇者十字拳!!」
俺の闘志を込めた一撃はついにスケルトン男の防御を突破し、そのまま吹き飛ばしていった。
スケルトン軍団やミイラ男軍団も十字拳の戦闘オーラに巻き込まれてそのまま吹き飛んでいく。
「魔王様万歳!!」
スケルトン男は叫ぶと爆発・四散する。
「教皇バスター!!!」
ほぼ同時に教皇が某有名アニメのパクリ技のような技をマミー男に決めると、マミー男はそのまま動かなくなった。
「二人ともスゴイです!!」
シルビアが大喜びで俺たちに近づいてくる。
「女神様!勇者様!助けていただいて本当にありがとうございます!!」
膨れ上がっていた筋肉が元に戻った教皇(それでも細マッチョだったけど…)が僧侶服を着直すと、俺たちに頭を下げる。
「どういたしまして♪」
偶然来たことなど頭から消え去っているような駄女神様がニコニコしながら教皇に笑顔を振りまいている。
「そうだ、グレゴリオさんは先代勇者と共に魔王の残した怪物たちと戦っていたんだよ♪」
俺の方を見て、シルビアが嬉しそうに言っている。
それはスゴイ話なんだけど、『初耳』だよね?!
後でじっくり話を聞く必要がありそうだ。
そして、俺の脳内にレベルアップの効果音が鳴り響くとナビゲーターの声が聞こえてきた。
『おめでとうございます!!さらなるレベルアップです。
では、召喚する乗り物は『足こぎ白鳥さん号』でよかったですよね♪』
『ユニコーン号!!』
『ちっ!わかりました。では、ユニコーン号と足こぎ白鳥さん号を呼べるようになりましたので、次回からはおっしゃっていただければ両方とも召喚できます。』
結局足こぎ白鳥さん号は呼べるようになっているのだね…。
『さらに今までの『陸戦用』だけでなく、『空戦用』、『水中戦用』、『宇宙戦用』とモードを使い分けられるようになりました。』
『空戦用』、『水中戦用』はまだわかるんだけど、『宇宙戦用』て俺に何をさせるつもりなの?!
ファンタジーから、いきなりSFになっちゃいましたとかないよね?!!
レベルアップするたびに俺の不安が増大するのは気のせいじゃないよね?!!