7 ゴブリン軍団を殲滅せよ!
「卓也!やばいよ!鑑定したけど、兵士たちもコボルド戦闘員たちより強いし、その他の連中もコボルド男より強いよ!すぐに変身を!」
シルビアがすぐに女神鑑定してくれたようだ。
おれは懐から仮面を取り出して装着する。
「変身!!」
俺は仮面を顔にあてがうと、またもや自然に口が台詞を紡ぎ出す!!
『前回レベルアップしたので、今回は『通常変身』と相手に合わせた『ケイスバイケイス変身』を選ぶことができます。どちらがよろしいですか?』
おおっと?!またもやナビゲーターの声が頭の中に響いてくる。
「それでは、『ケイスバイケイス変身』で!!」
『了解しました。それではご武運を!』
俺が『ケイスバイケイス変身』を選択すると、俺の全身を光がつつみ、衝動のままに空中に身を躍らせる。
俺は二〇メートルくらい上に舞い上がると、ふわっと地面に舞い降りた。
「世紀末仮面勇者参上!!」
俺は全身を黒を基調としたメタリックなパワードスーツ状のものに覆われ、顔を金色の巨大な複眼状のものに覆われたマスクを被ったヒーローになっていた。さらに気のせいか、俺の体が変身前よりずっとマッチョになっており、全身にすごい力がみなぎっているような気がする。
そこにいる戦闘員や怪人殿なんざ敵じゃあねえ!!
どうやら俺の全身から戦闘オーラと呼ぶべきものが滲み出しているのだろう。
先ほどまで自信満々であった、それなりの強者であるゴブリン兵士どもが俺を見てたじろいでいる。
「馬鹿者ども!!それでも貴様らは栄えあるゴブリン軍団の兵隊か!!?もっと気合を見せてみろ!!!」
ゴブリン伯爵が喝を入れると、ゴブリン兵士どもは震えるのをやめ、俺に向かって一斉に突っかかってきた。
全身に殺気を纏ったマッチョなゴブリン兵士どもが突っ込んでくる様は以前の俺なら裸足で逃げ出したであろうくらいの迫力だ。
◎の拳のひゃっはーなモヒカンたちが突っ込んでくるよりもずっと怖いだろう。
だが、今の俺は世紀末仮面勇者だ。そんなものに心を揺るがされることなどありはしない。
「オリャオリャオリャオリャオリャオリャ!!!!!!!!」
戦闘オーラを纏った俺の拳の連撃でコブリン兵士どもの次々に吹っ飛んでいって動かなくなる。
「勇者百裂拳!!!」
最後のゴブリン兵士を吹き飛ばすと、俺はゆっくり前進を続けた。
「さあ、次はだれが俺の相手をしてくれるんだ?」
指を鳴らしながら俺は変異ゴブリンたちを一瞥する。
「それでは俺様が相手をしてやろう!!
俺はゴブリンフッド!!ゴブリン軍団一の弓の名手だ!!」
細マッチョの男はいかにも射手といった緑色の衣装を着こんでおり、ロビンフッド・ゴブリン版といった風情だ。
「喰らえ!!漆黒の矢!!」
ゴブリンフッドは凄まじい魔力のこもった巨大な弓で真っ黒な矢を俺に向かって撃ちだした。
漆黒の矢は弾丸のごとく猛スピードで俺の顔面に向かって放たれたが、俺が動かした右手の人差し指と中指に挟まれて、その動きを止めた。
「なかなかの腕前だ。だが、それくらいではこの世紀末仮面勇者の歩みを止めることなどできん!!」
俺が投げ返した漆黒の矢はゴブリンフッドの額を貫き、ゴブリンフッドはそのまま倒れて動かなくなった。
「く、化け物め!!俺の魔法を喰らえ!!!
爆炎球!!!」
黒いローブをまとったゴブリンの魔法使いが杖を振るうと、真っ赤な火の玉が俺に向かって飛んできて大爆発を起こす。
「やったか?!」
燃え盛る炎の中から無傷の俺が歩き続けるのを見て、ゴブリンの魔法使いは再び魔法を唱えようとする。
「勇者火炎闘気拳!!!」
未だに燃え盛っている炎を俺のオーラで魔法使いに向けて撃ち込むと、そのまま吹っ飛ばしてしまう。
「く、やるな!!だが、このゴブリンバーバリアンの一撃を喰らって無事ではいられまい?!」
ゴブリンバーバリアンは巨大なハンマーを振りかざすと猛スピードで俺に向かって振り下ろした。
ガシッ!!
俺はそれを両手でがっちりと受け止める。
「驚いたな?!!そこまでやるとは…。だが、このまま押しつぶしてくれる!!」
ゴブリンバーバリアンはさらに力を入れて、俺を押しつぶそうとする。
「人間は普段は持っている力の三〇%しか使わないという。
この仮面は付けた人間の力を大きくアップさせる上に、世紀末勇者は普段人間が使わない潜在能力・残りの七〇%を引き出すことができる。つまり『火事場のくそ力』を活用できるのだ!」
俺の筋肉がさらに膨れ上がり、次第にゴブリンバーバリアンを力で圧倒し始める。
フンッ!!
ハンマーごとゴブリンバーバリアンを吹っ飛ばした後、俺は全身の戦闘オーラを膨らませると右腕に込めてゴブリンバーバリアンの顔面に叩きつける。
「勇者両斬波!!!」
俺に頭蓋骨をかち割られてゴブリンバーバリアンは倒れた。
「驚いた。まさかヒーローがここまで強いとはな?!だが、この『ゴブリンの大剣』を受けてみよ!!」
ゴブリン伯爵が俺に向かって大剣を叩きつける。
俺はそれを左手で受け止める。
「なっ?!!」
「|勇者《ブレイブ昇竜波!!!」
俺はゴブリンの大剣を撃ち砕くと、そのままゴブリン伯爵を吹っ飛ばす。
十メートル以上吹っ飛んだゴブリン伯爵はしかし、強い目をして立ち上がった。
「恐るべし!仮面勇者!!我が全力をもって貴様を倒して見せよう!!」
ゴブリン伯爵の全身から凄まじい戦闘オーラが立ち込めると、全身の筋肉が爆発するように膨れ上がり、着ていた衣装が吹き飛んでしまった。
そして、ゴブリンバーバリアン以上のマッチョなゴブリンがそこには立っていた。
「行くぞ!ゴブリン拳法を受けてみよ!!」
先ほどとは比べ物にならないスピードでゴブリン伯爵は俺との間合いを詰めてきた。
そして、俺とゴブリン伯爵の拳が交差し……。
「ギルドマスター!変異ゴブリンの集団が街に向かって攻めてきたので、街の騎士団、そして昨日変異コボルドを退治された『タクヤさん』が迎撃に向かわれました!」
「なんだと?!だが、今回は数が非常に多いのだな?!!」
受付嬢のアンナの話を聞いて、四〇くらいの精悍な男性・ギルドマスターと、一緒にいた三〇代半ばくらいの女性魔術師・サブマスターが顔を見合わせる。
「冒険者たちは街の衛兵と共に城門で防衛に入れ!俺とサブマスターは騎士団と『タクヤ』という冒険者の援護に入る!」
マスターとサブマスターはギルドを出て、変異ゴブリン迎撃に向かった。
(ク、クロスカウンター?!)
俺とゴブリン伯爵の拳は双方の顔面とボディを捉え、双方とも一旦後ずさった。
しかし、再び俺たちはその双眸に闘気を宿し、お互いに狂ったようになぐり合った。
強えええ!!!こいつ強ええええ!!!
俺の、そしてゴブリン伯爵の中に闘気が迸る。
しばし撃ちあった後、お互いに少し距離を置いた。
『卓也さん、新必殺技が使えます。』
ナビの指示に従って、俺は必殺技を発動させるために自身の戦闘オーラを大きく高める。
「む、貴様、勝負をかけてくる気か?!よかろう!ゴブリン爆雷拳!!!」
「こちらもいくぞ!勇者ダブルロケットパンチ!!」
えええええ?!!またもやロケットパンチですか?!!
凄まじい戦闘オーラのこもった俺の両拳は俺に突っこんでくるゴブリン伯爵を捉えて、ぶっとばした。
「み、見事だ…ヒーローよ…。まさか武術を極めると両手を体から切り離すことができるとは…。貴様のような強者に敗れて悔いなし!!」
ふらふらと立ち上がったゴブリン伯爵は最後に叫ぶと爆発四散した。
うん…武術を極めたのではなく、仮面の力デス…。
「卓也~!騎士さん達を回復させたよ。もう少ししたらみんな目を覚ますと思うよ♪」
いつの間にか、シルビアがゴブリン軍団に蹂躙された騎士たちの手当てに回っていたようだ。駄女神様、回復魔法はすごいからな…。
「あれ?あの人たちも応援に来てくれたのかな?」
両手が元に戻ってきた俺がシルビアの言葉に振り向くと、そこには四〇代の戦士風の男性と三〇代位に見える女性の二人組が俺を見て呆然と立ちすくんでいた。
「も、もしかして君らは『タクヤ』くんとシルビアさんか?!」
固まっていた男性が口を開く。
ヤバい!もしかして戦闘シーンを見られていたよ?!!