6 冒険の後始末と…
俺たちが冒険者ギルドに戻った途端、大騒ぎになった。
無事に戻ってきたことをびっくりされたのかと思ったら…。
「変異コボルド達を卓也さん、お一人で退治されたんだそうですね?!!
スゴイです!!!」
…ええと、いきなり美人受付嬢のアンナさんが叫んでおられるのですが…。
「ささ、スパーク様から話は伺ってます!!事情をお伺いしたり、依頼達成の報奨金の受け渡しを奥の部屋で行いますので、お二人ともいらしてください。」
俺たちはアンナさんに案内されて、ギルドの二階に会談を上がっていく。
「やあ、お帰りなさい。お疲れ様です♪」
「あれ?なんでスパークさんがそっちに座っているの?」
応接セットの向かいのソファにアンナさんとなぜかスパークが腰かけているのだけれど…。
「うん、ギルドマスターと副マスターが変異ミノタウロスにやられて治療中なので、私が代理をさせていただいているのです。」
「…じゃあ、先に戻られたのは…?」
「お二人が無事なのをギルドに伝えるためと、その後の事務処理を迅速に行うためです。
私は個人移動魔法はいろいろ持っているのですが、『多人数移動魔法』を持っていないので、先に一人で帰らせていただいたのです。」
スパークはニコニコしながら俺たちに語りかける。
「それ、先に言ってくれればよかったのに。」
「いや、『第三者として』変異コボルド退治の話を聞いておきたかったのです。
結果的に騙すようなことになって申し訳ない。」
スパークが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ということで、任務達成の報奨金が金貨二〇枚になり、あとはコボルドの魔晶石や装備などの買い取り処理を行わせていただくことになります。」
「報奨金はアンナさんの言う通りで、今からお二人はC級冒険者に昇格となります。」
おおっ?!いきなり大きく昇級しちゃったよ!!
その方が活動しやすくなるのならありがたいことだ。
「あの、スパーク様。確かに卓也さんは変異コボルドをお一人で退治されたので、規定にしたがって、いきなりC級でも問題ないとは思いますが、シルビアさまは今回はほぼ何もされなかったそうですよね…。」
「アンナさん。確かにシルビアさんは今回の戦いに於いては直接は何もされていないようだけど、回復魔法が非常にチートで、レベル以上の実力者ではないかと推測されるのですよ。シルビアさんといろいろお話しましたが、疲労が酷い人に掛けると元気溌剌になる回復魔法をほとんどかけ放題という人は初めて知りました。」
ええええ?!!駄女神様、スパークとそんな話をしてたわけ?!!
「スパークさん、疲労回復魔法はそんなに珍しいのですか?」
「ええ、シルビアさん。私にも先ほど魔法をかけていただきましたが、疲労が大きく回復して、いわゆるマジックポイントが大きく回復しました。それでいて、シルビアさんは魔法を掛けられてもほとんどお疲れになっていないですよね。
つまり、シルビアさんは強力な魔法使いと組まれると『魔力タンク』のような役割を果たすことができるということです。
それだけでもすごいのに、ご自身に掛けられてもご自身のマジックポイントが回復されるようですね。そんなチートな話は今まで聞いたことがありません。」
スパークさんの話を聞いてもシルビアは『そうなんだあ♪』みたいにニコニコしているけれど、事態の重大性に気付いたアンナさんと俺の顔色が変わった。
ゲームだったら完全にゲームバランスを崩す存在だよね?!
まあ、一応女神なんだから、それくらいのチートは当然かもしれないけど。
「というわけで、この件は『極秘』でお願いします。特にシルビアさんはご自身に余計な危険が降りかかってこないように御発言にはお気を付け下さい。
もちろん、卓也さんは一歩先を見据えて配慮してあげてください。」
真剣な表情で俺たちを見据えるスパーク。
俺も真剣にうなずき、シルビアは…わかったようなわかってないような感じで相変わらずニコニコしている。
後で、しっかりとレクチャーする必要がありそうだ。
「魔晶石買い取り金が金貨三〇枚になりますので、よろしくお願いします。
…しかし、変異コボルドの魔晶石は本当に大きいですね…。」
金貨を渡してくれながらアンナさんがため息をつく。
俺たちも受け取りながらへえ…という感じだったが、あとで物価と貨幣価値に気付いて仰天した。
この世界の金、銀の価値はこちらの世界とほぼ同じで、金貨が一枚一〇万円!!!で、銀貨が1枚で一〇〇〇円相当になるみたいだった。
つまり、今回の変異コボルド退治で金貨五〇枚ということは『五〇〇万円の収入!!』になるそうだ。
なお、貨幣は (大金貨)>金貨>小金貨>銀貨>小銀貨>銅貨 が流通しており、それぞれ10枚で次の貨幣になるそうだ。なお、大金貨はあまり使われることがないのは『江戸時代の大判と同じ』らしい。
「しかし、今回の変異コボルドやうちのギルドマスターたちが撃退された件などから考えると、変異モンスターたちは予想以上に強いのだね。
魔王軍の尖兵ということなら思っていた以上に危険ということだし。
報奨金も大きく引き上げるようギルド本部に至急掛け合う必要があるね。」
スパークがアンナさんといろいろ話をしている。
「そうか、今回の相手は思ったいたより強かったんだね。」
「シルビアさん、そうなんですよ。ですから、お二人のご活躍は我々の予想よりも重要なのです。おそらくですが、任務の危険度の見直して、追加の報奨金が入ると思います。
もし、この町を出られるようでしたら、あらかじめどちらの街に向かわれるかを知らせておいて頂けると行かれた先のギルドで追加報酬を受け取れるようになると思います。」
アンナさんが俺たちのギルドカードに今回の案件を記録後、返してくれた。
「さて、明日にはギルマス達も復帰される予定になっていることだし、私は王都の方へ行かなければならない。ギルマス達がやられた変異ミノタウロス退治をお願いされているのでね。
卓也君、シルビアさん!名残惜しいが、今度こそさようならだ。
またお会いできることを楽しみにしているよ。
そうそう、この町の武器・防具屋や道具屋、宿屋に君たちのことを知らせておいたので、よかったら装備を見て行ってみないかい?」
歯をキラッと光らせながら、スパークが笑っている。
それを見て、アンナさんが陶然となっている。
女性はみんなこの笑顔にやられるのだね…。
俺たちは武器・防具屋と道具屋を回ってみたのだが、スパークが声をかけてくれていたことで、店主たちが非常に好意的に接してくれた。
武器・防具屋の頑固一徹といった感じの無愛想なドワーフのオヤジが、スパークの名前を出した途端に満面の笑顔になったのだ。
もともと頑固だけれど、気のいいおじさんだったのだろう。
オヤジの勧めで俺の装備はミスリル製のロングソードにミスリル製のチェインメイルと外套になった。
魔法銀は鉄より丈夫で鉄より軽いというチタン合金のような存在だが、チタンとの違いは『魔力の通りやすさ』だろう。
うまく自身の『気』や『魔力』を通してやると攻撃力や防御力がさらに上がるのだ。
ミスリル製の武器や防具は普通のものより桁違いに高いのだが、オヤジが半値近くまで負けてくれて、一式で金貨三〇枚で済んだ。
駄女神様やその護衛である俺が奇襲などでぽっくりいったら『世界の維持・管理の女神』が不在になって文字通り世界の危機になるのだ。
ここは金を惜しんでいる場合ではないと、親父の勧めに素直に従うことにした。
相当安くしてくれたのに途中で気付き、かなり遠慮したのだが、『スパークが見どころがあるから厚遇してくれと言ったんだ。それを使って活躍してくれることが俺やスパークへのお返しになると思ってくれ!』とサムズアップされた。
スパークの人望、まじぱねえっす!!
道具屋は二〇代半ばくらいに見えるけだるい感じのお姉さんが店番をしていた。
俺たちが店に入ってもほとんど反応しなかったのだが、スパークの名前を出した途端に、興味深そうに俺たちの方をじろじろ見た後、すごく丁寧にいろいろなことを俺たちに質問しだした。
野営やいろいろできるようなセットを見繕ってくれた後、さらにいろいろ説明してくれた。
そして、お奨めの体力や魔力の回復薬セットを買おうとしないので、不審に思ったお姉さんが俺たちに問いただした時、駄女神様がうっかり、『回復チートをばらした』ところ、お姉さんは血相を変えて叫んだ。
『それを間違っても人前で言うんじゃないよ?!!各国から付け狙われる羽目になるからね?!!』
お説教が三十分くらい続いて、さすがに駄女神様も学習したようで、この後、回復チートのことを人前で話すことはなくなった。
姉さん、ありがとう!!
ただ、『避妊薬を思い切り奨める』のはやめてほしかった。
人前で本当のことを言うわけにはいかなかったので駄女神様にみつからないよう『サンプルを五つ』ほど受け取ることになったが…。
なお、宿に入った時に駄女神様がそれを見つけ、
「あれ、『どうしてもの時』は避妊薬は必要ないよ。神通力で『一〇〇%避妊』したり、逆に『一〇〇%受胎』させることもできるからね♪
どうしても我慢できない時は『要相談』だからね♪」
ねえ、この駄女神様何を言ってんの?!!
道具屋を出るといい時間になったので、俺たちはスパークお奨めの宿に向かった。
宿屋は中年の気のいい夫婦が切り盛りしており、基本接客は小奇麗な奥さんが、食堂の料理はオヤジがやっており、一〇代前半くらいの可愛らしい娘さんが掃除などの手伝いをしているようだ。
俺たちがフロントに入った途端に『スパークさんから話は聞いているよ。』と奥さんから言われた時はビックリした。
この人、プロだよね?!!
そして、娘さんに案内されて部屋に行くと、ゆったりした『ダブルベッド』が部屋の真ん中に一つ置いてあった。
固まってしまった俺が何とか首を娘さん・エリスちゃんに向けると、ドヤ顔でサムズアップしてるんですが?!!!
その『わかってますから、大丈夫♪』みたいな顔はやめて!!
さらに駄女神様が
「うわーー!!豪華できれいなお部屋だね♪」と
嬉しそうに言うものだから、エリスちゃん、さらに得意満面です!!
違うう!!恋人じゃねえ!!俺は『保護者』だ!!!…という俺の魂の叫び声は当然誰にも届かなかった。
料理もうまいし、風呂まであるし、お値段も良心的だし…で、宿自体には文句のつけようが…うん、宿を出る時、『夕ベはお楽しみでしたね♪』こそ、言われなかったものの親子で『サムズアップ』するのだけはやめてほしかった。
翌日は朝一で冒険者ギルドに向かった。
俺たちは変異モンスターに対応できるということで、なるべくこまめに顔を出してほしいというギルドからの協力要請があったのだ。
俺たちがギルドに入り、受付に向かおうとした時、街の衛士たちが駆け込んできた。
「大変だ!!変異ゴブリンの集団が街に向かって進軍してきているのが発見された!
ギルマス、サブギルマスと、昨日変異コボルドを退治した冒険者に至急来てもらいたい!!」
なんだって?!いきなりかよ!!
俺たちは衛士に案内されて、街の外に小走りで向かう。
「街の騎士団が迎撃に向かって行ったんだが、他の変異モンスターの件からもどれくらい強いのかが見当もつかない!変異コボルドを倒したあなたたちになんとかしてほしいのだ!」
三〇代位の衛士さんが案内しながら伝えてくる。
しばし、走ると、前方から金属音や怒号などが段々大きくなってくる。
どうやら、騎士団と戦闘になったようだが…。
「卓也、これやばいよ!騎士団が壊滅したようだよ!」
女神鑑定で透視したらしいシルビアが顔色を変える。
「戻って下さい!!あとは俺たちが何とかします!!」
衛士さん達を急いで戻らせて、俺は『奴ら』に向き合う。
金属鎧を着こんだゴブリンらしいマッチョな兵士たちが三〇人くらいおり、その後ろに三メートル以上あるかと思われる大柄なゴブリンぽい大男が巨大なハンマーを持っている。
さらに、ゴブリンぽい細マッチョの弓を担いだ男や、ゴブリンぽい魔法使いの男、そして、ゴブリンぽい貴族のような服を着た大剣を持った男が最後尾にいる。
「男女の二人連れにコボルド男は倒されたと聞いたが、さてはお前たちの仕業か?!
我らゴブリン軍団は無敵だ!!貴様らを倒し、コボルド男の無念を晴らしてくれる!!』
貴族ぽいゴブリンが大剣を構えて叫んだ。