5 スパーク・ライト
「卓也、見て見て!卓也がやっつけた怪人や戦闘員たちが消えた後に光る石が落ちているよ!!」
シルビアが嬉しそうに光る石を拾っている。
「ほお、これはすごく大きな魔石ですね!!魔石の大きさは魔物の強さと比例しますから、変異コボルドは本当に強かったのですね。この大きさなら人食い鬼どころか、ミノタウロスにも匹敵するくらいです!」
スパークがシルビアと一緒に魔石を拾いながら説明している。
ううむ、ミノタウロスといえば、頭が牛の大男で迷宮の主だったりするのだよな…。
ゲームでは初級モンスターだったりするコボルドがミノタウロス並みに強化されるとか、ものすごくパワーアップしていたのだな…。
「それで、こっちがボスの魔石だね♪」
「シルビアさん!待ってください!この魔石、ドラゴンのものより大きいじゃないですか!!一体どれくらい、強い奴だったんですか?!!」
「ほら、あそこの大木とか、岩とかあの怪人がハンマーでぶっ壊したんだよ!それをあっさり倒すんだから、卓也は強いよね♪」
「…ええと、待ってください。確かに卓也さんは纏っている雰囲気から間違いなく一流の冒険者であることは間違いないのですが、ドラゴンクラス以上のモンスターをお一人でおっしゃるように『あっさり倒す』ことができるレベルとまでは思えないのです。
正直なところ、私でもこの魔石を持つクラスのモンスター相手では簡単ではないと思うのです。」
「…ええとね…ええとね…。」
まずい!さすがは一流の冒険者だ!俺が仮面を使ったことを話さないとつじつまが合わなくなる!!
「実は大変言いにくいのだが…。」
「わかった!冒険者機密というやつだね。その『切り札』があるからこそ、あっさり倒せたということだね。」
俺が仮面のことをどうやってごまかそうかと話し出すと、スパークが俺をじっと見ながら言う。
「それならばわかる。そして、一流の冒険者は命を掛けてもいいくらい信頼できる仲間以外にはその『機密』は明かさないものだ。だから、無理に話さなくてもいいよ。
……ただ、もし、私がもっと信頼できると思えるようになったら教えてもらえると嬉しい。」
あっさり引き下がってくれました。
「スパークさん、ありがとう!!」
「いや、冒険者として当然の礼儀を尽くしただけさ♪遠からず卓也の心からの信頼と親愛を得られるよう精進したいと思うよ。」
シルビアが本当に嬉しそうにお礼を言うと、スパークは歯をキラッと光らせながら語った。
うん、信頼はともかく、『親愛』は勘弁してください!!
「ところで、シルビアさん。魔石を手に持ったままじゃなくて、何処かに仕舞われた方がいいのでは?」
「…それが、ちょうどいい入れ物がないの。」
「なるほど…では、よかったらこれをお使いください。」
スパークは懐から上品な刺繍の入ったきんちゃく袋を取り出してシルビアに渡す。
「…ええと、これは?」
「ええ。アイテム収納袋です。入れる時意識しておけば、自動的に区分けして見かけの一〇〇倍以上のものを魔法的に収納してくれるのです。
友達になれた記念に差し上げますので、よかったらお使いください。」
「ええええ!!!いいの?!!ありがとう!!!」
シルビアが大喜びで、持っていた魔石を入れていく。
「待ってくれ!そういうマジックアイテムはものすごく高価じゃないのか?!!そんなものをもらうわけには??!!!」
俺は慌ててスパークに詰め寄る。
「いやいや、これくらいの品は他にもいくつか持っているから。
使わないまま死蔵するよりは友人に喜んで使ってもらった方が道具の方も喜ぶというものだよ。むしろ、使ってもらった方がありがたいくらいさ。」
会心の笑顔でスパークが告げる。
ううむ、俺が女性だったら完全に惚れてしまっているかもしれない所作だ…。
それでも何もなしというのはあまりにも気が引けたので、コボルド戦闘員を倒した魔石の一つと交換という形を取らせてもらった。
後でギルドのアンナさんに確認したら、『アイテム収納袋』の方が十倍以上の価値があることが判明して、ひどく叱られた。
スパーク!恐るべし!
そして、ちょうどお昼ご飯の時間になったので、俺たちがご飯を炊いて、スパークがおかずをいろいろ作ってくれて一緒に昼食を取った。
「日本からの転生者や召喚者はご飯が大好きで、よく振る舞ってもらったよ。
最近は私もパン食よりご飯の方が好きになってきてね♪」
スパークが箸を上手に使いながらご飯を食べている。
「スパークさん!おいしい!!めちゃめちゃおいしい!!」
シルビアがスパークの作ったシチューやサラダ、肉料理をぱくついている。
俺もついつい、無言で食べるのに夢中になりそうになる。
「いやあ、そんなに褒めてもらえると恐縮するなあ。」
「教えて!!今度料理教えて!!」
「わかりました。お嬢様♪」
なんだか悔しい気もするけど、シルビアの料理の腕が上達したら、いざという時の食生活が大いに完全するからなあ…。
「ほおら、この湖と近くのお花畑はスタートの街の郊外の憩いの場みたいなものなんだ。
『安息の日』にはよく家族やカップルがピクニックに来ているんだ。
今日は安息の日ではないけれど、何組かの姿が見えるよね。」
「うわーー!綺麗綺麗!!」
スパークがシルビアを肩車して、街から一時間くらいの場所にある、湖近くの草原を駆け回っている。
街までの帰り道、スパークは俺たちに同行しながら冒険者の常識全般と、スタートの街やその近辺の常識に付いていろいろと教えてくれた。
シルビアが疲れたら、すぐに肩車しながらそのまま帰り道を歩き続けてくれた。
気が付くとシルビアはスパークに完全になついてしまい、『精神年齢は小学生』の駄女神様が近所の『子供好きのお兄さん』に完全にあやされている姿はどう見ても優しい兄と天真爛漫でわがままな妹にしか見えなくなっている。
というか、時々、『兄』の方も夢中になって、あちこち駆け回っている。
俺も花蓮をあんな風にあやしていた時もあったなあとなんだか懐かしい気分になる。
「さて、本当はもう少し付きあいたい気分なんだが、そろそろ私も次の依頼に備えて動かなければいけないもので。
名残惜しいが、また会えるとうれしい!」
うん、正直、いろいろお世話になりました。だから、名残惜しそうに俺の両手を握りしめるのはやめてくれる?!
「では、お二人とも、また会おう!!」
スパークは風の精霊の魔法を唱えると、吹いてきた風に乗って飛び去っていった。
ううむ、魔法は便利なんだな…。俺は魔法は使えないから仮面の力でユニコーンとか呼べるようにならないと、旅に出るのは大変かもしれないね…。
「わーい、すごく楽しかったね♪スパークさんと友達になれてよかったね♪」
飛んでいくスパークを見ながらシルビアがいつまでも手を振っている。
「…その件なんだが、確かに今まで見たところスパークは全然悪い人には見えないけれど、俺たちの立場を考えるとあまりにも信用し過ぎたら危なくないか?」
「ああ、それなら大丈夫。コボルド怪人を倒した後会った時、『女神鑑定』の能力を使ったら『ものすごくいい人』だとわかったから。」
「わかっていたなら先に教えてくれ!」
「ごめん、ごめん。スパークさんの話があんまり楽しいから、ついつい夢中になっちゃって♪
でも、今の卓也なら相手のオーラを見たら、善人か悪人かの区別くらいは付くと思うな。」
「いや、その話も初耳だし!
それから、最初に冒険者ギルドに入っていったとき、例の絡んできた四人組を『問題の多い冒険者』だとシルビアは気付いて無かったじゃん!」
「うん、あれは失敗です。しばらく街のお人よしの人とか、卓也みたいなすごいお人よしとしか接していなかったので、油断してました。
あの人たちが卓也に吹っ飛ばされたとき『女神鑑定』したら、いい人度を一〇段階で鑑定すると三しかなかったです。ちなみに、いい人度が五で人並です。」
うわお!!いい人度まで鑑定できるのか?!!
「…ちなみに俺はどれくらいになるんだ?」
「卓也はめっちゃ人がいいからいい人度が九になります。
勇者の仮面を使えるのはいい人度が七以上ですから、卓也は十分すぎるくらい資格があるのです♪」
そうだったのか…。俺って自分が思っているよりずっとお人よしだったのか…。
嬉しいような、そうでないような…。
「どしたの?褒めたんだから、もっと嬉しそうにしようよ♪」
「…そうか、ありがとう…。
ところで、スパークのいい人度はどれくらいなんだ?」
「あの人はいい人度が一一だよ♪イケメン度もいい人度も、冒険者としても突き抜けているなんてすごいよね♪」
「いやいや!!最大が一〇じゃないの?!」
「普通はそうなんだけど、たまに規格外がいるんだよ♪
なお、魔王とか魔神で凶悪なのだとマイナス一とか、マイナスにの時もあったしね。
とは言え、聖女様が普通八~九くらいだから、あの人は底なしのお人よしだよね。
女性にもてもてなものわかるな。」
うん、腹が立つとか妬ましいを通り越して、敗北感しか残らないよね。
なお、あとでギルド受付のアンナさんに確認したら、『見た目も内面も超絶イケメンなのに、天然でものすごくお人よしなところが最高なの!!』と目を輝かせていた。
「そうだ!卓也も仮面を付けていたら『勇者鑑定』が使えるよ。
それでいろいろ鑑定したらすごく勉強になると思うな♪」
「でも、勇者の仮面を付けること自体はあまりないから、機会がすごく限られないか?」
「それは仕方ないよ。だから、仮面を被ったら、『寸暇を惜しんで鑑定』しないともったいないよね♪」
…うん、なんてせわしないヒーローなんだろう。
なお、後日『勇者鑑定』で駄女神様を鑑定したところ、いろいろビックリすることが分かったのだが、それはまたの機会に…。
なお、他の能力はともかく、いい人度だけは一一あったのはさすがは女神さまと言うべきか。スパークとやたらうまが合ったのも納得だ。