4 魔王軍を撃退し、友人ができた?
「ヒーローよ!これを受けてみよ!!」
コボルド男は背中に担いでいた巨大なハンマーを振りかざすと俺に向かって突進してきた。
俺はハンマーを何とか躱すと、コボルド男の振りかざした巨大ハンマーは俺の後ろにあった巨木を粉砕し、へし折ってしまった。
「ううぬ、なかなか良い動きをしているな?!では、ハンマーブーメラン!!」
コボルド男は今度はハンマーを振り回すと、俺に向かって投げつけてきた。
俺がハンマーを紙一重で躱すと、ハンマーは俺の後ろにあった巨石を粉砕すると、さらにぐるぐる回転しながらコボルド男の手元に戻っていく!
その途中で再び俺に当たりそうになるが、素早く前転して辛くも躱す。
くそ!躱しているだけではじり貧だ!
「卓也!変身して!!」
駄女神様が叫び、俺は懐から例の仮面を取り出す。
「変身!!」
俺は仮面を顔にあてがうと、自然に口が台詞を紡ぎ出す!!
俺の全身を光がつつみ、衝動のままに空中に身を躍らせる。
俺は十メートルくらい上に舞い上がると、ふわっと地面に舞い降りた。
「仮面勇者参上!!」
俺は全身を赤を基調としたメタリックなパワードスーツ状のものに覆われ、顔を金色の巨大な複眼状のものに覆われたマスクを被ったヒーローになっていた。
「仮面勇者だと?!やはり貴様が魔王様の予言通りの正義のヒーローだったか!! だが、このコボルド男!簡単には負けはせん!!」
コボルド男がハンマーを構えながら吠える。
「喰らえ、ハンマークラッシュ!!」
コボルド男がハンマーをぐるぐる振り回しながら俺に襲い掛かってきた。
俺はそれを両手でがっちりと受け止めるとハンマーごとコボルド男を吹っ飛ばす。
『今です!必殺技を!!』
俺の頭の中にやや機械的な女性の声が響く。勇者の仮面のナビゲーターの声のようだ。
「よし!必殺!勇者ロケットパンチ!!…ええ??!!」
俺はナビゲーターに促されて自然と叫んだセリフに違和感を覚え、思わず止まる。
その時、俺の右手が赤く発光し、肘から先がコボルド男に向かって発射されていく!!
ちょっと待って!!!なにこれ?!!
右手はコボルド男の胸をぶち抜くと切断部分?からロケット噴射をしながら俺の方に戻ってくると、ガシャンと音を立てて元通りにつながっていく。
「く…恐るべし仮面勇者!!魔王様ばんざーい!!」
コボルド男は最後に叫ぶとそのまま爆発四散した。
「やったー卓也!!!悪の怪人を倒したわ!!」
駄女神様が大喜びで俺に向かって走ってくる。
「倒したわ!…じゃなくて?!!なんで右手がミサイルのように飛んでいくの?!!」
「異世界からTV放送の電波をジャックしてみていたら、ロボットアニメをやっていてね♪ちょうど右腕をロケットのように飛ばすのがかっこよかったから真似してみたの♪」
「ロボットじゃねーんだから、生きている人間の手を飛ばしちゃダメでしょ!!!
びっくりして心臓が止まるかと思ったよ!!」
「そうかあ…『亜空間でつながっている』から大丈夫なんだけど、不安なんだね。じゃあ、次の仮面を作る時はその機能は付けないようにするね♪」
「ええと、シルビアさん?次の仮面じゃなくて、『今』その機能を外してほしいんだけど?」
「ごめんなさい。女神でもできることとできないことがあるんです♪」
ドヤ顔で何言ってんのこの人は?!
パッパカパッパッパー♪
俺が愕然としていると、ゲームでのレベルアップ時のような効果音があたりに響き渡る。
『おめでとうございます!!卓也さんご本人と仮面がレベルアップしました。
卓也さんご本人のレベルと技能とかは後で適当に駄女神様に確認してもらってください♪』
おいおい?!!ナビゲーターまで駄女神様とか言ってんだけど??!!
『おめでとうございます!仮面の能力が当社比約1.2倍に強化されました!!』
うん、本当はものすごいことなんだけど、どうしてこの表現だと大したことがないように聞こえるんだろうね。
『さらに必殺技等の技能が強化されます。
例えば、勇者ロケットパンチをスーパー勇者ロケットパンチに強化することができます。
この機能を選択される場合、スピードと威力が約二倍になります。それと視覚効果もとてもかっこよくなります。』
「そんな機能は選ばないから!!!」
『では、勇者ロケットキック機能はいかがでしょうか?何しろ足の力は腕の力の三倍ですから、見た目はともかく、威力はロケットパンチ強化よりもさらにすごくなります!』
「カッコ悪いし、それ以上に片足のときものすごく不自由だよね?!!!それパスだから!!」
『ちっ!わがままですねえ…。』
ねえ、なんでこんな『普通のこと言ったらわがまま扱い』されるの?!このナビゲーターおかしいよね?!!
『やむを得ません。ロケットパンチ機能を進化させて勇者オーラロケットパンチにするというのはいかがでしょうか?
あなたの闘気だけが飛んでいきます。威力は勇者ロケットパンチよりちょっと強いくらいですが、飛ばすのが闘気だけなので連射が効くんです。
なお、タメをしっかりすればカメ◎メ波みたいな使い方も…。」
「パクリダメ!!絶対!…ちなみに技は勇者オーラロケットパンチでお願いします!!」
『了解しました。ではロケットパンチをオーラロケットパンチに進化させておきます。
なお、勇者仮面のその他の機能は後でチュートリアル画面で確認しておいてい下さい。』
「え?チュートリアル画面て、どうやって見たり、操作できるの?」
『仮面を裏返して手に取ると、タブレットのような画面が出てきますから、そこで確認していただくことができます。』
俺は変身を解き、外した仮面をナビゲーターの指示に従って見てみる。
なるほど…いろいろな情報が出てくる。
仮面勇者(変身後)
◎反射神経、身体能力を大きく引き上げ、現時点で卓也が『素手でドラゴンを倒せる』くらいの格闘能力を身に付けている。
さらにさまざまな必殺技があるので、総合戦闘能力はドラゴン(並)を大きく上回る。
※必殺技・特殊技能等
◎勇者ロケットパンチ: 仮面勇者の両手を飛ばし、一〇式戦車の装甲をぶち破ることができる。オーラロケットパンチはロケットパンチの当社比約1.25倍の威力で、連射が可能。連射した時の気分はペガサ◎流星拳だ♪
◎勇者ロケットキック: 仮面勇者の両脚を飛ばし、戦艦大和の装甲をぶち破ることができる。さらに技能を伸ばし、オーラロケットキックはロケットキックの当社比約1.25倍の威力で、連射が可能。連射した時の気分はほとんど◎◎の拳の主人公の『世紀末の救世◎』になれるぞ♪
(※ごめん、こっそり技能を付けちゃいました♪てへぺろ♪)
ちょっと待てい!!!勝手にロケットキックの技能まで身に付いているよ?!!!
◎さらに仮面が成長すると、乗り物が呼べるようになるぞ♪
ペガサス号とか、ユニコーン号とか、もぐーら号とか、足こぎ白鳥さん号とかいろんなところに行けて楽しいよ♪
ペガサス号とユニコーン号はともかく、もぐーら号と、特に足こぎ白鳥さん号は絶対に呼びたくねーよ!!!
「君たち、変異コボルドと戦って、無事だったのか?!!」
タブレットを見て、愕然としていた俺は男性の声で思わず振り返る。
「あれ?あなたは確かスパークさん!」
「ああ、君たちが変異コボルドの討伐依頼を受けたと聞いて、心配で追いかけてきたんだ。」
「やだなあ、卓也はすっごく強いんだよ♪コボルドは全部卓也がやっつけてくれたよ♪」
「なんだって?!スタートの街のギルド支部長と副支部長すら変異モンスターと戦って倒せずに大怪我をして戻ってきたというのに、君は一人で倒したというのか?!!
…素晴らしい!!」
駄女神様の話に驚いていたスパークは今度はすごくうれしそうに俺を見る。
…ええと、もしかして噂通り本当にいい奴なの?
「それならば、ぜひ、今言っておきたいことがあるんだ。」
言いながらスパークは懐からまるで手品のようにきれいなバラの花束を取り出して、きらめくばかりの笑顔で俺たちに向かって歩いてくる。
「君に一目ぼれしたんだ。よかったら真剣なお付き合いをして貰えると嬉しい。」
「………ええと、花束を差し出す相手を間違えているよ…。シルビアはそっち。」
「いや、全然間違えていないさ。私が一目ぼれしたのは卓也くんさ♪」
はーーーーーーーーーー?????!!!!!!
「冗談ですよね?!!!絶対に冗談ですよね?!!!!!!」
「君たちは数時間前に下街を歩いているときに、傷ついた子猫の手当てをしてあげていたよね。それを見て、『君の優しさにキュン♪』ときたんだ!」
おかしい!!!キュンとくるのは普通『女子高生』だよね?!!!あるいは、ヤンキー系の女の子が実は優しくて『他の人をきゅんとさせる』とかだよね?!!
「待ってくれ!それを言うなら、子猫を実際に助けたのはシルビアの方だ!俺はただ、助けようと言っただけだよ!」
「その奥ゆかしさも素晴らしい!!もちろん、シルビア嬢も非常に心優しい女性であることは間違いないだろう。
しかし!君は兄妹でもなく、恋人でもないシルビア嬢を背負ってあげたり、とても優しく扱ってあげている。これは『見返りを求めない無条件の愛』を持っていなければできない行動だ。君が一人で変異コボルドを倒したこと自体ももちろんすごいことだ。
しかし!君の真価は子猫やシルビア嬢を『全く見返りなく助けることができる愛情深さ』なのだよ!!こんな素晴らしい人と出会えて、私は本当にうれしい!!」
スパークが涙を流しながら叫んでいる。
「そうなの!!卓也ってば本当に優しいんだよ!家事が壊滅的にダメな私に親切に丁寧に根気よく教えてくれようとしてくれるんだよ!」
「そうなんだ!!やはり、私の目には狂いはなかった!!」
スパークとシルビアががっちり握手しているんだけど?!!!!
人生でこれくらい褒められるのは初めてなのに、危機感しか感じないのはどうして???
「待ってくれ!!気持ちは嬉しいが、俺たちは男同士じゃないか!!」
既に駄女神様が頼りにならなそうなので、俺は必死に叫ぶ。
「はっはっは、心配はいらないさ。この大陸は同性同士の恋愛や結婚にも非常に寛容でね。それは『古い時代の君の祖国日本』と同じなのさ♪」
「ちょっと待ってくれ!なぜ俺の祖国が日本だとわかるんだ?!!」
「ああ、あまりおおっぴらにはできないが、各国王室などがかなり頻繁に異世界から勇者を召喚していてね。召喚者はなぜか、八割くらいが君の祖国の日本という国になるらしい。
君の黒目、黒髪という特徴は今まで何人も会ってきた日本人の特徴だよ。
おそらく、『召喚される側に精神的な耐性』が必要なのだと推測されるのだが、『ラノベというものが普及している』ことが大きな原因だと聞いている。」
何ということだ!!異世界召喚小説が流行していることが、結果として異世界に召喚される人を増やす結果になっているのか?!!
「私はいろんな冒険者や各国の関係者とも話をすることが多くてね。日本からの召喚者、転生者とも話をした結果冒険者の中でもトップレベルの日本通となってしまったのだ。
日本で有名な武将である武田信玄と旗下の武将たちは『お互いに親密な関係でもあった』とか言うような話もいっぱい聞いている。」
…歴史の授業で担任の腐女子がそんな話をしていたのを聞いた覚えはあるけれど、まさか、異世界でもその手の話をドヤ顔でされる日が来るとは夢にも思わなかったよ!!
「いいお友達でいましょう!!!」
俺は先手を打って言い切った。噂と、そして雰囲気からスパークは評判通りに紳士であることに俺は賭けた!
「わかった。まずは友達から始めよう♪」
瞬間、残念そうな顔をした後、スパークは女性なら間違いなくとろけそうな笑顔で言った。
勝った!!!!俺の『大切なモノ』が奪われないための大切な賭けに俺は勝ったのだ!!
永遠に『友達のまま』でいたいと思います!!
「スパークさん。私も友達だね♪」
「もちろんだとも♪シルビアさん♪」
スパークと駄女神様はがっちり握手している。
「…へっへっへ、異世界からやおい本とか、何冊も取り寄せていたんだよね。まさか、『リアルで見れる』可能性が出るとは思わなかったよ♪」
駄女神様!!!何を期待しているの?!!!どうしてこの子は変な事ばかり知っているの?!!!!