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3 初めての冒険

 俺たちは冒険者登録用紙に名前と年齢、職業を記入した後、受付嬢のアンナさんに魔法の水晶球で鑑定を受けることになった。


 俺は用紙の名前の欄にに市川卓也と書きかけて、慌てて『タクヤ』だけをこの国のスペルでつづる。

 なんと、チート養成ギブスは付けている間に『記憶力もアップする』効果があったので、必死でこの国の言語を覚えたのだった。

 試験勉強を必死にやってきた体験がこんな時に生きるとは思わなかったし…。


 シルビアから得た知識を参考にして以下のようになった。


 タクヤ 男  東邦人 剣士 18歳 


 「こちらで黒髪黒目は珍しいのですが、タクヤさんは東邦人だったのですね。それから18歳とは…。東邦人は若く見えるようなので、15歳くらいの成人になりたての方かと思っていました。

 …だから、あの『ならず冒険者』達がちょっかいをだしたのでしょうね。」

 「ならず冒険者ですか?」

 「ええ、最近この町にやってきた冒険者たちでいろいろとよくない噂を聞きます。

 今まではギルドマスターやサブマスターが目を光らせていたので、ああいったことはほとんどなかったですが、ここしばらく王都で緊急の用事があり、二人とも席を外しておりまして…。

 それをわかった上で止めるものがいないと踏んで彼らはああ言った暴挙に出たのです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

 「いえいえ、結果的になんともなかったわけですし。気になさらないでください。」

 「ありがとうございます。

 …ですが、スパーク様がいて下さって、本当に助かりました。

 もちろん、タクヤさんもあれだけの実力があれば、充分切り抜けられたとは思いますが。」

 「そうかい。後でスパークという冒険者の話を詳しく聞かせてくれないかい?」

 「ええ、スパーク様のお話なら喜んで、いくらでも!!」

 アンナさんは完全にスパークに心酔しているようだ…。



 俺が水晶球に手をかざすと、何やらいろいろ情報が浮かび上がっているらしい。

 アンナさんがそれを登録用紙に書き写していく。


 「タクヤさん、すごいですわ!登録段階でこれだけのレベルの方はそうそうおられません!一体どこで鍛えてこられたのでしょうか?」

 種族は人間、レベルは三〇と出ている。

 あくまで目安だが、冒険初心者は通常レベル一~七くらい。八レベルくらいから一人前と認められ、二〇を超えると一流冒険者のレベルになってくるようだ。


 「故郷でちょっと武術をかじっていたもので。」

 俺は照れ臭そうに答える。

 おそらくレベル一〇くらいまでは地道に鍛えたようなのだが、それ以降は女神の反則チートアイテムによるものなので、あまり自慢できないような気がするのだ。

 「まあ、卓也さん。謙虚なんですね♪」

 どうやらアンナさんはかなり好意的に見てくれているようだ。


 そして、次にシルビアが冒険者登録用紙に記入していく。


 シルビア 女  オーディナル人 神官(シルヴィオ女神) 17歳 


 「まあ、シルビアさんとおっしゃるのですね。もしかすると、シルヴィオ女神にちなんでお名前を付けられたのですね。」

 「ええ、そうなんです♪」

 アンナさんの問いにシルビアがニコニコしながら答えている。


 「では、シルビアさん、水晶球に手をかざしてください。

 ……えええええええええええ???!!!!!!!!!」

 アンナさんが叫ぶので、俺とシルビアが思わず覗き込むと…

 『女神 レべル三二四』』て出てるじゃん?!!!それ、ダメすぎ!!!


 「あああああああ!!!!!」

 顔色が真っ青になったシルビアがあらぬ方向を向いて叫ぶので、俺とアンナさんは一瞬そちらの方を見る。

 その瞬間、俺はシルビアの両手が光ったのに気付き、視線を戻すと…

 『神官(シルヴィオ女神) レベル三二』と表示してあった。

 …とっさに神通力を使ってごまかしたようだ。


 「アンナさん。落ち着いて下さい。」

 俺がアンナさんに声を掛けると、我に返られたアンナさんは再び水晶球に目を通し……。

 「はっ?!私の目の錯覚だったようです。…それにしてもそのお歳でレベル三二とはすごいです!!本当に人は見かけに依らないのですね?!!」

 おいおい、アンナさん!シルビアは気付かずにニコニコしているけど、なにげに女神さまをディスっているんだけど?!


 まあ、よく駄女神さまとディスっている俺に人のことは言えないんだけど…。


 「お二人ともかなりの実力者でいらっしゃるのですね。登録したてはF級から始めていただいて、実力も加味した実績に応じてランクが上がっていくのです。

 御二人なら現在C~Bランクくらいの実力はお持ちのようですし、昇級もすぐでしょうね。

 A級も視野に入るでしょうし、もしかしたらスパーク様のようなS級冒険者も夢ではないかもしれません。」

 出たよ?!例のスパークさん!


 「あ、もしかしなくてもスパーク様のことをお聞きになられたいですよね?!!!

 スパーク様はそれはそれはすごくて素敵な冒険者なのです!!!」

 アンナさん。スパークさんについてしゃべりたくて仕方ないんですね。


 曰く、剣の腕の魔法の腕も超一流のレベル七〇を超えるS級冒険者で、武勇伝は数知れず。

 その礼儀正しさや装備などからどこぞの貴族の次男坊ではないかということだが、老若男女や身分を問わず誰にでも明るく親切であり、フェミニストでもあることから、街の人からの人気も非常に高いらしい。

 また、怪物の集団が街を襲ってきた時の攻防戦では冒険者の仲間を守ったり、救助する姿勢の誠実さから冒険者の間でも非常に評判が高く、女性冒険者やギルドの女性の間ではカリスマ的な人気があるようだ。

 したがって、見た目が超絶美形でもあることからものすごくモテるのだそうだが、浮いた噂がほとんど出てこないうえに、言い寄ってくる女性に対して誠実に真摯に断るのだそうだ。

 今まで告白するたびに『いいお友達でいましょうね♪』と言われ続けた俺にとっては血の涙の出そうなくらいの話である。

 なに、その完璧超人?!!

 一昔前の少女マンガのイケメン優秀生徒会長ですか?!!!


 放っておいたらいくらでも『スパーク様』について語り続けそうだったので、何とか話を切って俺たちにできる依頼の話に変更してもらった。


 「そうですね…。お二人はかなりの力量をお持ちのようですから、『変異コボルドの討伐』とかいいかもしれませんね。」

 コボルドというのは犬の頭をした獣人のようなモンスターで、ファンタジーゲームでは雑魚として序盤によく出てくるモンスターだ。

 本来なら初級冒険者、集団でも中級冒険者が相手にするような依頼なのだそうだが、今回の変異コボルド達はやたら強く、今のところ死者は出ていないものの冒険者の中から負傷者が続出しているのだという。


 「実はうちのギルドマスターとサブマスターが王都へ行っているのも、今回の件同様に本来以上に強化されたモンスターの集団が王国のあちこちに出没していることにあるのです。

 お二人のレベルと、先ほどのギルド内でのタクヤさんの動きとかから推察すれば、大丈夫だと思います。

 討伐と共にできれば変異が起こった原因も突き止めていただければ嬉しいです。当然、追加報酬もお支払いします。」


 「ちなみに変異コボルド達はどんな悪さをするんだ?」

 「はい、徒党を組んで東の街道で盗賊行為を繰り返すのです。

 商人たちが何組も襲われています。そして、護衛の冒険者たちでは歯が立たず、討伐に行った冒険者たちもボロクソに負けて身ぐるみはがれて逃げ帰ってくる始末です。」

 「ちょっと待て?!コボルドて普通そこまでする知性がないのではないか?まるで人間のような行動を取っているじゃないか?!!」

 「そうなんです!!強さもさることながら人並みに頭がいい上に様々な武器を使いこなすのです!ですから、コボルドを相手にしているというより、コボルドの格好をした強力な盗賊団を相手にしている…というような心構えで対処してください。」


 俺たちは街道の地図を受け取るとギルドを出て、街の東門に向けて歩き出した。



 「確か、街を出て三時間くらい歩いたところにある峠付近が奴らの出没地点なんだよな。

 今から行ったらちょうど昼くらいか…。」

 「そうですね。コボルドをやっつけたら魔法でご飯を炊いて、おにぎりを作って昼食にしましょう。」

 二人で会話をしながら下町を東の門に向けて歩いていると、俺たちの前を汚れた白い子猫がよたと歩いているのが目に入った。

 「あれ、この子右後ろ脚を引きずっているぞ。うわあ、酷い怪我をしているな…。

 シルビア、手当とかできないか?」

 「おまかせあれ!そういう系は得意です♪」

 俺が子猫を持ち上げると、シルビアが子猫に右手をかざす。

 そして右手が優しい光を放ったかと思ったら、子猫の色つや自体も真白くなり、怪我が治っただけでなく、すごく元気になったようだ。


 子猫を地面に降ろしてやると、ニャー!と元気よく鳴くと走り出し、いったん俺たちを振り向いてお礼を言うかのように『ニャーン!!』と一際高い声を出すと、路地裏に姿を消した。

 「元気になった良かったな♪」

 「うん、卓也、優しいね♪」

 俺たちは子猫が姿を消した方を見やると再び歩き出した。

 まさか、この時こんな行動を取ったことがとんでもないフラグを立てていることをこの時の俺たちは知る由もなかった。




 「卓也~疲れた~!おんぶして~♪」

 街道に出て一時間くらいすると疲れ果てたシルビアがぐずりだした。


 「おーーい…勘弁してくれ。」

 「明日から、毎日鍛えるから。今日はおんぶして!お願い!!」

 シルビアが半泣きになって道にかがみこんでいる。


 「…仕方ない。今日だけだぞ?!」

 「うん、卓也。ありがとう!」

 俺はシルビアを背負うと、道を走り始める。




 峠に近づいたところで、道が森の中に入っていっている。

 「そろそろ準備をした方がよさそうだな。シルビア、歩けるか?」

 「うん。大丈夫。そうだ!回復魔法を掛ければ全然大丈夫になるよ♪」

 言いながらシルビアは自身に魔法をかける。


 「そうだ!卓也にも掛けてあげるね。」

 シルビアが魔法をかけてくれると、それなりに会った疲労感が消え、体がすごく軽くなる。

 「どう?効果あったでしょ♪」

 シルビアがニコニコしながらドヤ顔になる。


 それを見て、俺はあることに気付く。

 「なあ、さっき疲れていた時、回復魔法を掛ければよかったんじゃ?」

 俺の言葉にシルビアの顔色が変わる。

 「そういえば、そうだね。次からはそうするね♪」

 てへぺろ♪みたいな感じですか…。


 ちなみに普通ならシルビアみたいな美少女を背中に背負うのだったら『ものすごい役得感』がありそうなのだけれど、この駄女神様(シルビア)を背負った時にはそういうものをかけらも感じなかったのはどうしてなんだろう…。

 まあ、しいて言えば妹の花蓮(かれん)を背負っていた時の感覚に近い気がする。

 全然嫌ではないのだが、『放っておけない感覚』はあっても『ときめき感はゼロ』なんだよね…。


 俺たちがさらに峠に向かって山道を歩いていると、ガサガサっと何人かの人が動く音が近づいてくる。


 すわっ!!変異コボルドか?!

 そう思って、剣を抜いて身構えると、森の中から一〇体くらいのコボルド……えええ?!!犬の頭をした覆面の男たちが『イーー!!』とか叫びながら俺たちの前に姿を現した。


 全員真っ黒な全身スーツを着込み、体の前面にはドクロ状に蛍光塗料が塗られ、覆面からは目鼻を出しながらやはり骸骨みたいに蛍光塗料が塗られている。


 そいつらは俺たちを見ると『イーーッ!』と叫びながら突っ込んでくるので、俺は連続突きや回し蹴りなどで次々とコボルド?を吹っ飛ばしていく。

 飛んでいくときはやはり『イーーッ!』と叫んでいるんだが…。


 「戦闘員ども待て!そいつはただものではない!!

 恐らく我らの真の目的を見破った正義の味方に違いない!!」

 待て!!こいつ何を言ってんの?!


 そんなセリフを吐いてずしずしと地響きを立てながら身長が二メートルを軽く超えるマッチョなコボルドが姿を現した。

 腰に変なマークの付いたチャンピオンベルト状のものを付けているのだが…。


 「貴様、よくぞ我ら魔王軍の作戦を見破ったな!!」

 見破ってねーよ!!…というか、魔王軍?!!!


 「俺は魔王軍の怪人・コボルド男だ!!魔王様の予言通りついに正義の味方が現れたということか!!貴様の実力をこの俺にとくと見せてみろ!!」

 胸を張って言うコボルド男に俺は回れ右したい衝動を抑えると、何とか対峙したのだった。


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