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ラブ・オア・ライブ  作者: 宗竹
一章
8/29

▼7▲ ‐残り十八日‐

「お・は・よ・う、ございます。新成一」

「……三日連続か。飽きないな、お嬢様」

「だ、誰がストーカーよ?! 私の登校時間に合わせるあなたのほうがそうじゃない!」

「いや俺はそこまで言ってない」

 朝までの時間スキップと場所移動を昨日からしているのだが、彼女は朝の校門で必ず出会うイベントでも組まれているのかと、そんな疑問を横付けされたリムジンを見て浮かべてたとき。

「ふふん、でもまあ今朝に関しては少し当たっていましてよ」

「盗聴か盗撮でもしてたのか?」

「昨・日! 御厨さんと放課後デートしましたわね? 桃園に入るまでは把握してますわ!」

「瓢箪から駒かっ! ていうかどうやって」

「金の力をなめないでいただけますこと? まあ不埒な貴方が御厨さんにどんな悪さするか、その監視の意味でしかありませんが。け、決して百合などという浅薄なものでなくっ!!」

「……ツッコミまでソロ活動か、忙しいな」


 成一はこの不毛な会話の終着点が見えず呆れていた。

 サーペントに声かける。

『俺は委員長ルートに入ってるんじゃなかったのか、昨日から面倒だぞ』

『正しい認識だね。ようはこれもルートのイベントの一つだよ』

『了解した。付き合う意味があるのなら、それでいい』


 再び彼女に向き直る。いつも眉を立てて疲れないだろうかと成一は冷ややかな感想を抱くとすぐに睨み返された。人を見る目は――正しいのだ。


「それで色々と考えた結論として、貴方は少なくとも悪人ではないと判断しましたわ」

「そんな決定権が、お嬢様にあったのか」

「金の力をなめないでいただけますこと? まあそんな当然の事実より、聞いておかなくてはならない事情がありまして。週末の予定とプレゼントの準備はどうなっておりますの?」

「待て、順を追って説明してくれ、意味わからん」

「十二月・九日は!! 御厨雛子の誕生日!! そんなことも知らなかったんですの!?」

「……ああ、そういうことか」

 成一は彼女の言行に合点がいった。ならもう用は無いと話を切るため深々と頭を下げ。

「教えてくれてありがとう。本当に友達思いだな、お嬢様」

「じょ、冗談じゃありませんわ! 私は単にこんな仏頂面の淡泊男が、どんなひどいプランを提案するのか影で嘲笑ってひゃるつもりでぃっ?!」

「ぷっ、噛んでるぞ」


 成一は思わず笑ってしまう。それはこの世界に来て初めてかも知れない一瞬だった。彼女は真っ赤になって「うぅ~!!」と唸って睨んでくる。成一がまたくすりと笑うと、


「ああああもうっ! そうやっていつも笑って馬鹿にして! 貴方ってほんとサイテーよ!」


 お嬢様は涙目になって全速力で走り去った。リムジンも去っていた。

 成一は自分に疑問する。

『サーペント、俺はいつもお嬢様の前だと笑ってたか?』

『いーや、いつもボクに接するくらい冷ややかだ。少しは真面目に応じろってくらいだね』

『……馬鹿にしているつもりは、まあ、あるか』

 だが悪い気はしていなかった。

 たとえあのリアクションが予め用意されていたパターンなのだとしても、こうあからさまに感情をぶつけられるのは清々しい。全てが仕組まれた流れでも、得られた感情まで否定してはいけないと成一は分かっていた。それこそ不毛の極みであり映画も楽しめなくなる考えだと。

 この状況を楽しむというのもおかしな話ではあるが――


「一人で顔を緩めちゃってどうしたの? 気持ち悪い」


「……、真浦さんか。気持ち悪いってのは、傷つくな」

「だって傷つけるつもりだったから」

「それはまた随分と嫌われたもんだ」

「嫌ってるわけじゃない、単に苛々したからよ。それよりも気をつけたほうがいい」

「何を?」

「御厨雛子。彼女、面倒な性格してるから」


 そう冷たく文学少女が言うのを聞いて、成一はすぐに「どうして」と反応する。だが、


「せ・い・い・ち、くんっ」

「――っ?!」

「おはよっ、今日も寒いねー。そのマフラー貸してほしいくらいだよ」

「あ、ああ御厨さん。後ろから抱きつかれて何かと思っ」

「違うなあ」

「え?」

「彼氏彼女になったんだから名前で呼ぶのが自然じゃない? だから私も『雛子』って呼んでほしいかな。ひなこじゃなくて、す・う・こ、だからね? 間違えたら、怒るから♪」


 そう真顔と笑顔を交互に見せる御厨に――雛子に成一は圧倒されて、彼女が差し出してきた右手を握りながら教室までの短い時間を一緒に歩いた。

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