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ラブ・オア・ライブ  作者: 宗竹
一章
3/29

▼2▲ ‐残り二十日‐

 成一は学校までの道のりを歩いていた。時間と同様にサーペントに頼めば場所移動も出来るとのことだったが、見知らぬ道や土地に少しでも慣れるためにそうしていた。

 朝八時。現実の学校とはまるで違う制服を着て、覚えのない道を行く。それは平時であれば久しく味わっていなかった奇妙な新鮮さを感じられたのだろうけれども。


「どうしたんだサーペント、ため息して」

「――まさか貴重な一日目をさっさとスキップするとは思わなかったよ。これで君、いくつか出会いイベントを潰しちゃってるんだけど?」

「別にいい、休日じゃなくちゃ会えないような厄介なタイプに絡まれるよりマシだ。それよりお前、本当に俺以外の奴には見えてないんだな?」

「もちろんだよ。こうしてボクと会話していることも君以外には分からない。ボクと話してるときは周りの時間は止まってると考えていい。だから独り言を空中に呟く危ない人って事案で通報されることもない。ボクの存在やゲーム世界であることを教えることもできないけどね」

「そりゃあ良かった」


 しかしそう返答した裏で成一は思っていた。つまり自分は、この世界で完全に一人だと。

 だがそれ以上の思考も止めていた。たとえここが夢だろうと死ぬのも痛いのも御免である。

 だから成一は真剣に、この状況を受け入れて生還することを第一に行動すると決意した。

 ――はずなのだが。


 キキキイイイイイイイイイイイイイイイ!!


「っ、な!?」

「あら、見かけない顔ですわね。転校生かしら。不審者と思って止めさせてしまいましたわ」


 校門に辿り着く寸前で、リムジンが10センチもない距離で成一の隣に横付けされた。

 開いたウィンドウ越しにこちらを見るのは――


『……。サーペント、質問だ。俺が事故に巻き込まれ無様に死ぬってことはあるか?』

『それはないよ。そういうイベントならまだしもね。逆に君が無闇にこの世界の住人に暴行を加えたり、性的に襲いかかったりっていう逸脱も不可能さ。一応、全年齢対象のゲームだから』

『自由度が低いんだな。ついでに尋ねるが現実に連れて帰る際にヒロインの資産はどうなる?』

『うーん、手持ちの物だったら、いくつかは現実にも持って行けるけど……』


 それを聞いて成一は、即座にその場から離れようとした。


「って、ちょっとちょっと! なに私をナチュラルに無視して行きますの?! スルーですの!?」

 ドアが開いて女の子が下りてきた。「はあ」と成一は息を吐く。


(……なんとまあ、典型的な……)


「このわたくしを誰だと思ってまして? 天下に名高き進藤グループ会長にしてスーパー女子高生! 進藤みらい!! し・ん・ど・う・み・ら・い! ですのよ?!」


 完全にテンプレートと化したキャラ属性の、金髪巨乳お嬢様だった。

 それが今、大仰にセミロングの髪をふわりとかき上げ成一の前に立ち塞がり、睨んでいる。

 気にせず成一は横を抜けて歩いて行く。

「ふふ、させませんわ」

 ブロックされた。即座にスライドして前進する。

「さ、させませんわ!」

 ブロックされた。即座にスライドして前進――するのを中断する。

 成一は不毛なことが嫌いだったので、観念した。

「……。俺に何か、ご用でしょうか?」

「っ! あ、貴方に用なんてありませんわ!! 無視されたのが不愉快だったのよ!」

「そうですか。それは大変失礼しました。では」


 軽く一礼して、今度こそ彼女から離れようとする。

 空中のサーペントが声かける。


『邪険にしてていいのかい? 彼女は攻略可能ヒロインの一人だけど』

『……おとぎの国のお姫様を市井に出しても、後が面倒になるだけだ』

『それはまた夢のないことだねえ。君は良い公務員になれそうだよ?』


 その皮肉は割と正しい評価だと成一は前向きに受け取った。だが、


「お待ちなさい! 私が名乗ったのだから、せめて名乗り返すのが礼儀ではなくて!?」

 ひどい因縁の付け方だ。

 しかしそれで済むならと振り返ると、

「もう、進藤さん。朝から転校生を困らせたら駄目じゃない」

 お嬢様を横でなだめる黒髪ロングの美少女が。

あらたさんですよね? 私は御厨みくりや雛子すうこ、あなたのクラスの委員長をしているの。よろしくね」

「な、なんですの御厨さん!? どうして既にその名前を!」

「委員長だから♪」

 なぜか凄い説得力だった。サーペントが捕捉する。


『彼女も攻略可能ヒロインだね。立ち位置としては君の学校でのサポート役ってところかな』

『頼まれごとは断らず引き受けて、お節介を焼きたがる。そういうタイプか』


 そしてお嬢様のターゲットも移ったようで、

「く~、いっつもいっつも私の上に! 先に行って! 本当に嫌になりますわ!」

「進藤さんは私よりずっと凄い人じゃない。お金の運用も企業経営も、私には出来ないよ?」

「むきー! そういう謙虚なところもますます気に入らないんですのよー!!」

 成一はこれ幸いとばかりに教室へ向かおうとした。

 そのときに、


「二人とも、いい加減にしないと遅刻するんじゃない? あと朝から凄くうるさいよ」


 ――背筋がぞわりと反応して、全身が凍りつく。その声に。

 成一が大きく後ろを振り返ると、


真浦まうら琴歌ことか! なんですの、私を五月の蠅などと……!」

「おはよう真浦さん。確かにそんな時間だね、ありがとう」

「別に。それよりそこのブロンド静かにさせて。御厨の友達でしょ、頭痛くて仕方ないの」

「こ、こんな人、友達なんかじゃありませんわ!」


 新たに登場したのは茶髪のボブカットの、本を片手に持ったいかにもな皮肉屋の文学少女。

 成一はその姿にも息を呑み、手先が震えたが、平静を装って問いかける。


『おい蛇野郎、あれもヒロインか』

『そうだね、あの子もヒロインだ』

『なら質問を変えるぞ。現実世界に居た人間がこっちでヒロインをやらされている――そんなふざけたことはあるか?』

『彼女が誰かと似てるのかい? とはいえ現実世界から攻略可能なヒロインを引っ張ってくるなんてことは、絶対に無いよ』

『つまりここにいるヒロインは全部が作り物でプレーヤーに寄り添うようにプログラムされたデジタルデータのお人形ってことで、間違いないな?』

『もちろん。それが大前提のゲーム世界だからね』

『……。そうか、だったらいい』


 成一はそれ以上を聞かなかった。

 そして三人集ってかしましくなった校門前を今度こそ離れ、教室へと向かっていった。

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