▼3▲ ‐残り三日‐
『今日予定していたルート決定は無しにする。しばらく一人で考えたい』
『その間にもし俺に連絡や接触をしてきたら――してこなかったほうを選択する』
成一は桃園から戻ったあと、二人が位置に付く前の十五時にそれらのメールを送っていた。
そして携帯を切って部屋に籠もり、今はもう水曜日。十二月二十日の夜になる。
(……。俺は何も、選べない。……動けない)
成一はあれから何度も自傷を試みた。その全てが失敗した。
もう食事も水も取っていない。ただ暗闇に沈んでいくことを祈って床に就き、虚ろな意識で睡眠と目覚めを繰り返し、それでも死の気配は訪れない。身体は健常そのものだ。この世界はあまりにプレーヤーに優しすぎだった。
だから成一は自暴自棄であるとは理解しつつ、既に考えることをやめている。
琴歌の元に再び向かい、死に直すこともできはしない。
選ばなかった過去を無かったことにして、みらいの元に行くこともできはしない。
現実にいる友人や母を思い、帰還への意志を奮い立たせることもできはしない。
願うことはただ一つ――この愚鈍で救いようのない己に、怠惰で緩慢な死を与えること。
このまま時が過ぎていけば二十三日の最終日になるだろう。
そのときサーペントは容赦なく自分を殺してくれるに違いない。
きっと最期の瞬間は、無様に命乞いをするだろう。卑小で情けない足掻きを見せるだろう。
(――それでいい)
覚悟の決まらなかった人間は墜ちて腐ってしまえばいい。潔い幕引きなど贅沢だ。だから。
成一は何十度目かの目覚めの直後、またもすぐに瞼を閉じ――
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
「……ッ、なんだあ?!」
「人を何日も放置しておいて随分と良い驚きっぷりですわね。私を誰だと思ってますの?」
「……。みら、い?」
「引き籠もりも部屋が無くなれば出ますでしょう? ぶち壊してあげましたから感謝なさい」
超巨大な鉄球クレーンが、風通しのよくなった夜空の向こうに見えている。
そして崩れた壁から出てきたのは、仁王立ちにこちらを見下ろす怒りに凍るほほえみの、
「……金の力を、なめないでいただけますこと?」




