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ラブ・オア・ライブ  作者: 宗竹
二章
14/29

▼4▲ ‐残り十二日‐

「おーはーよーうーごーざーいーまーす!! 新成一ッ」

「……今日はまた一段と強烈だな」

「ええそれはもう! 誰かさんが昨日誰にも告げず勝手に昼で早退なんてしたお陰で!!」

(……不機嫌になるなら構うなよ)


 しかし成一は登校時間をずらさなかった。

 昨日に考えて出した結論は、真浦に事情を説明するのとは別に保険をかけること。

 真浦だけがバッドエンド以前の記憶を持っていることを穿って見れば、一つの可能性としてこれは真浦だけに設定されたイベントなのかもしれないとも考えられる。

 であれば自分は今そのルートに入りかけているのかもしれない。

 だがもしそれも失敗した時は? 残るはお嬢様ただ一人。

 そのために成一は、今朝も昨日と同じ時間に登校した。


「昨日は朝から体調不良! そのくせ真浦琴歌とはいちゃいちゃいちゃいちゃ!! で! その逢瀬が終わったら即座に下校! なのに今朝も規則正しく登校して、いったい! 貴方は! なんなんですの!?」

(俺に言わせれば、おかしいのはそっちだよ……)


 別に昨日の昼休みに覗き見されていた件を責めたかったわけではない。

 彼女に積極的に接触してその精神構造と行動原理について批判したいわけでもない。

 これは僅かでもお嬢様の出現ルーチンに付き合い親密度を上げるべきだという保険だった。

 ――しかし。


「で・す・か・ら! 今日こそは事情を説明して貰いますわよ?」

「いやだからどうしてそうなるんだ?」

「うるさいですの! そんなの私が気になってイライラするから以上の理由は不要っ!」

「きみの思考回路はショート寸前だ、良い病院を知っているならかかりに行け」

「医者と温泉で治せるならとっくに治していますわよ?!」

「……らちがあかない」


 今朝のお嬢様はしつこかった。バッドエンド以前の記憶がないくせに、ありがた過ぎて涙が出そうなほどこちらを心配してくれているようで、余計に成一を苛立たせた。

 だがお嬢様には、たとえ話すことができたとしても事情を説明するつもりはない。

 なぜならば、


(保険を危険に晒すバカがどこにいる……!!)


「ふん、らちがあかないのはどっちだと思っていますの! って!?」

 成一はそそくさと立ち去ることにした。


(……せめて真浦に話す件が片付いてからにしてくれ。動きようがない……が)


「ふふ、させませんわ!」

 ブロックされた。すぐさまスライドして直進する。

「さ、させませんわっ!」

 ブロックされた。すぐさまスライドして――

「進藤様ッ、我々もご協力致します!!」

 前方にずらりと壁が出来た。森部以下、十人近い軍勢が前方に立ちはだかる。さらに、

「囲まれたか」

「さあ観念するんだな転校生! どんな不貞を働いたか知らんが洗いざらい吐いて進藤様から存分に仕置きされるがいい!! ってああクソ羨ましいッ!! 俺も叱って下さい進藤さばッ?!」

「うるさいですわこの変態!」

(……今だっ)

 森部と進藤が漫才をした瞬間に成一は。


「って、お待ちなさいって言ってるでしょー!!」


 ――突破した。即座に全力ダッシュで校舎まで逃走する。


(真浦の連絡先くらい聞いておくべきだった。いちいち学校に来ないと会えないなんてのは、前時代的にもほどがある!)


 という具合に成一はこんな不毛に付き合わされる羽目になった遠因が自身の手抜かりのせいだと理解しつつ憤慨した。走りながら思考する。


(追求されるのは面倒だ……ほとぼりが冷めるまで避難しよう)


 真っ先に思いついたのは男子トイレだったが森部が襲撃してきそうなので却下である。

 一人になれて、他に誰かが来るわけでもない、そんな都合の良い場所は。

 成一はふと、ポケットに入れたままのものを思い出す。

 ――あった。つまり先週からこの鍵は、職員室的には行方不明になっているということだが、気にかけられていないことに胸が少しチクリとした。

 そして成一はそこまで無事に辿り着き、鍵を開ける。そこは先週の金曜日に雛子と昼食を食べたときから何も変わっていなかった。


(屋上……か)


 扉の内鍵を閉めてようやくと成一は息をつく。鍵は金曜日の昼食の途中で雛子が用事で呼び出され戻ったとき、ここの施錠を頼まれ渡されたのだが。


(まあ、もう誰も覚えていないわけだし、しばらく俺の逃げ場になってくれ)


 たとえ見つかっても流石に扉を壊して開けはしないだろう。成一は深くベンチに腰掛ける。

 むなしかった。

 彼らとのこんなコミカルなやりとりさえ、今では虚無的な感想しか抱けない。

 こんな場所に来たからどうしても思い出してしまうのだ。


 ――御厨雛子。


 先週までモブ代表が崇拝していた学校の人気者。

 お嬢様が何故かライバル視しつつ大切に思っていた委員長。

 もちろん彼女自身は消えることなく今も在り、変わらず忙しい日を送っているのだろう。

 それでも。


(……俺のせいだと、そう思わずにいられるか)


 成一はこの世界に来てからずっと感じていたことがある。プレーヤーは、異物だと。

 大前提として自分の命がかかっている。それでも戯れに干渉しただけで劇的に変化をさせてしまうのは、ゲームだからと単純に割り切れるものでもない。直接に触れられて会話ができて匂いがあって食事もできる――リアリティがあり過ぎる。

 だが真実この世界はどうしようもなく架空の物で、それに成一は苛立って仕方なかった。

 目を瞑って眠りにつく。昼休みまで待って、それから真浦と話をする。今はただ逃避する。

 そうやって無為な時間が過ぎていくことに、何も感じなくなってきた頃に。


 バババババババババババババババババババ!!


「ッ、何だ!?」

「この私から――逃げられると思っていて?」

「……な」

「私は、進藤みらい! し・ん・ど・う、みらいっ!! 天下に名高き進藤グループ会長にしてスーパー女子高生!! この私を本気にさせてしまったことを存分に後悔させてあげますわ!!」

「――。無茶苦茶だろ」


 声は遥か頭上から響いてきた。

 直後に彼女は颯爽と成一の目の前に舞い降りて仁王立ち。

 そして金髪を風になびかせながらこちらを見下ろし微笑して、


「……金の力を、なめないでいただけますこと?」


 バカなお嬢様が、空からヘリでやって来た。

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