ガーネット
俗に言う、スランプなのだろうか。
はぁ…とため息をつき視線を上へ上げる。
私の目の前には大きなキャンパス。
納得の行かない油絵は、何度となく白で塗りつぶされていた。
このままでは次のコンクールに間に合わない。
私は高校生活は芸術一本で進むと決めている。
いや、私のこれからの人生も全てだ。
画家になることが私の夢だから。
「惜しいですね」
突然聞こえてきた声に肩を跳ねさせる。
バッと声の主を見ると見たことない女の人。
切れ長の瞳にゴシック調のパンツスタイル。
その顔には上品な笑みを浮かべている。
「もう少し、感情を表現して描ければいいんですよね」
誰だこの人。
何だこの人。
私の頭の中には数多くの疑問視が浮かんでは消えてゆく。
だが目の前の女の人はそんな私には目もくれずにキャンパスを見つめる。
そして私の方を見たかと思うと目を細めて今度は無邪気に笑う。
そして私の手を取り一つの石を乗せる。
「ガーネット。貴方の誕生石ではないかしら?」
「なんで…」
なぜ初対面の人がそんなことを知っているのか。
確かに私は一月生まれで、一月の誕生石はガーネットだが。
開いた口が塞がらないという様子の私。
「ガーネットは勝利の石…。貴方に多くの幸があらんことを」
最後に女の人はとても綺麗に笑った。
そう、まるで美術館で飾られるような女神の微笑み。
そんな笑顔だった。
良く分からない、知らない女の人との出会い。
そしてそんな女の人から貰った誕生石のガーネット。
数日間は私も夢心地だったが、我に返ってコンクールの為に筆を握る。
キャンパスに向かえば今までのスランプが嘘みたいに自由に筆を動かせた。
そして私の脳裏にはガーネットを持ち、女神のような微笑みを浮かべる女の人。
結局はそれに刺激を受けてなのか、私の考えていた作品にはならなかった。
数日前に思いを馳せて、やっと目の前の光景をこの目に焼き付ける。
綺麗に微笑む女性の手には美しいガーネットの指輪が輝く。
タイトルは女神の気まぐれ。
私は制服のポケットから石を取り出す。
その石と私の描いた絵とを見比べ、私は小さく笑う。
どこの誰かはわからないけど、ありがとうございます。
「ガーネットは勝利の石」
あの女の人の声が聞こえたような気がした。
辺りを見渡してもお目当ての人物は当然いないわけで。
今度の私は自嘲気味に笑い、表彰式へと向かうのだった。