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オニオンスープ

さあ、夕ご飯の支度をしよう。


今日の献立は何かな。冷蔵庫をしばし覗く。

昨日買い出しに行ったから、結構食材が詰まった庫内。特に、野菜室はしっかりだ。

一年前、一人暮らしを始めるにあたって、冷蔵庫だけはキチンとしたものを購入した。

容量は二人暮らし用くらい。

野菜の鮮度が保たれるとか、庫内を常に清潔に保てるとか謳っていたT社のものだ。

初めて一人暮らしをする身分としては値が張ったけれど。

その分、その他の電化製品は結構適当。人から貰い受けたものばかりだ。

それらは、生活を少し便利にしてくれるくらいで良い。

一日を機械任せに進めるのは些か人間らしくなくて、嫌いだ。

面倒なことを卒なくこなすのが、私の理想の大人だ。


そういえば、今日はそんなにお腹が空いていないかも。

昼休みに学食で食べた日替わり定食が、ちょっと私には重かった。

最近、肉食じゃなくなったからね。やっぱり、学食はやめて、お弁当を持参しよう。

一人暮らしを始めて、自炊をきっちりこなすようになってからは、もっぱら菜食派だ。

それって、商店街の八百屋さんの影響もあるかも。

自炊をきっちりと言っても、そこは若い娘の一人暮らし。簡単にできるものが主食となる。

だから、私はスープをしっかりと作る。

具だくさんの「おかずスープ」と私は呼んでいる。

火を通した野菜は意外と量が食べれてしまう。

野菜を補うためというわけではないけれど、野菜がたくさんのスープは結構な満腹感も味わえる。

そして、あったかい汁物は、胃にも良いらしい。これは祖母の受け売りだけれど。


そんなで、私のいつもの献立はおかずスープとごはんもの。


でも、今日は、空腹感がないんだよね。だから、本当に簡単に。

オニオンスープの雑煮。和風で。

春の新玉ねぎは、とても美味しくて、ころっとした白い素肌が可愛い。

一人分用にいつも野菜は小さめを選ぶ。

千切りにしてバターできつね色になるまで。ここで和風にするなら、かつおだし。

弱火でことこと約10分。

この間にお餅にチーズをのせてオーブントースターで焼く。

ちょうどお餅も焼けた頃にスープも仕上げ。

醤油と塩コショウで調味して、お餅をお椀に入れて、スープを注ぐ。黒胡椒をパラパラ。

うん。良い感じ。

これなら、雑煮ひとつで、夕飯が足りる。お雑煮って便利。


低いテーブルに、ピンクのランチョンマット。大きめのお椀に桜のお箸。

なんだか春の雰囲気だなぁと一人の世界で思う。


受験生になったのに、どこか呑気。

今年もお花見に行かなかった。

たぶん、去年の春先を思い出すから。

最愛の祖母を亡くしたのは、未来に影が降りたくらいに辛かった。

桜を見に行こうという約束が果たせなかったから、薄ピンクの中を歩くのも息苦しくなる。


「いただきます」しっかり、手を合わせて感謝。


箸を口につけようとしたとき、不意に、チャイムがなった。

何故、このタイミング?

食べ物を前にお預けを喰らい、自然に眉間にシワが寄る。

諦めの溜息と共に、玄関に向かった。


もちろん、夜なのでチェーンは掛けたまま、少しドアを開ける。

「どちら様ですか?」

そこに立っていたのは、背の高い━━というか高すぎる━━見知らぬ青年だった。二十歳くらいかな?

「隣に引っ越してきました、片瀬です。よろしくお願いします。」

あまり感情の籠らない、儀式的な言い方だ。なので、こちらも形式的に返す。

「はい。水嶋です。よろしくお願いします。」

「あの、これ、つまらないものなんですけど」

青年が、よくTVCMされてる洗剤を隙間から見せる。

今時、引越し祝いを配る人、いるんだなぁ、と、なんだか感心してしまって、

夜というのも忘れて、チェーンも外してしまった。

お礼を言って、洗剤を受け取る。

青年ははにかんで、会釈して、隣の部屋に帰った。

それにしても、と思う。その人の印象は、イケメンの顔よりも背の高さだった。

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