初めの物語
とりあえず導入です。
ある世界に一人の少年がいた。
その少年は何処にでもいる普通の少年だった。
勉強も運動も人並みの、見渡せば何処にでもいる本当に普通の少年だった。
何か特徴を挙げるとすればそれは、人より少し善良なことか。
頼まれ事があれば、自分に出来る事なら引き受ける、その程度の善良さ。
やがて少年は青年になり、親しい友人もできた。
それは何処にでも有る普通の光景、友人と語り、笑い、時には喧嘩をし、馬鹿な遊びもする。
少年は青年になっても人より少し善良だった。
街の外には危険な獣や魔物等が居て、街や人に害が及ぶ前に退治しなければイケないとなれば、剣を持って討伐隊に入ったりもした。
そして月は巡り、もうすぐ青年が成人して大人になるとゆう時に魔物の大量発生が起きた。
魔物は青年の居る街の直ぐ隣の村まで来ていた。
青年は討伐隊に居た時の事を思い出し、街の人を避難させ、街の外門を締切、自警団の人と一緒に剣を持ち戦う事を選んだ、自警団には親しい友人も居た。
外に出て直ぐに魔物がやって来た。
それは魔獣と呼ばれる魔物の群れだった。
同じ種類の普通の獣の二倍から三倍の大きさで、生命力が異常に高くなり、頭を潰さぬ限り心臓等の急所を潰しても、暫くの間活動可能になる。
何より厄介なのが稀に居る魔法を使う魔獣だ、外見では区別がつかず、個体ごとに使う魔法が違う為に、確実な対処法が無い事だった。
百匹はいるであろう魔獣の群れは、速度を落とす事無く青年の居る街に向かって来る。
魔物の大量発生の報を聞いた時に、自警団から騎士団に緊急事態の救援要請が出されている、後は騎士団の居る街から此方に来るまでの約三時間の間、この街を護り抜けばいい。
そして遂に魔獣と戦闘が始まった。
百匹の魔獣に対し自警団率いる青年達は500人弱、これだけ人数的差が有れば、何とか成ると思うかも知れないが、それは正規の訓練を積んだ者だった場合の話。
彼らは飽くまで自警団、各人好きな様に鍛え、訓練も連絡の仕方が主で、全体訓練は月に一度だけ、その訓練も無理をしない様に軽く行われていただけである。
故に一匹に五人付いても時間稼ぎにしかならぬ者が溢れている。
それでも少数の魔獣を倒せる者が少しずつ数を減らして行く。
皆が必死で魔獣を押し留め、三時間と少し、死闘の果てに騎士団が此方に向かって来ているのが見えた。
後少し、そう思った時目の前に火の球が見えた。
その火の球は少し離れた場所に居る自警団員を巻き込み、その場で燃え上がった。
火の球が飛んできた方を見れば、そこには身体中に傷が有る一匹の狼の魔獣が居た。
傷だらけの魔獣は、状況を確認する様に辺りを見回した後、空に向かって遠吠えをした。
青年や周りの者は訝しげに傷だらけの魔獣を見る。
もう近くに騎士団も来ている、この状況で何か出来るとは思えぬ、そう考えた矢先に傷だらけの魔獣の後方のに何処に居たのか、五十匹近くの魔獣が新しく此方に向かって来る。
その魔獣達の出現が、これまで必死に戦ってきた者達の心を挫く事になった。
ある者はパニックから魔獣に背を向け走り出し、魔獣の攻撃を受け命を落とし、ある者は絶望から動きを止めて魔獣の攻撃を受ける者、仲間を見捨てて逃げ出す者。
そんな中で、青年は親しい友人を見つけた、仲間に見捨てられた事で傷を負った様で、足を引きずりながら何とか残された者と連携し、その場を凌いでいる。
騎士団が此方に着く前に、魔獣の増援が此方に着く方が少し早いかもしれない。
そう考えた青年は半ば乱戦と化した戦場を掻い潜り、親しい友人の元へ向かった。
親しい友人と合流した青年は、親しい友人を守る為に、近くに居る者達と共に騎士団の来る方に後退していく。
遂に騎士団と合流し、助かると気を抜いた時又しても火の球が此方に、親しい友人目掛けて飛んできた。
青年は親しい友人を蹴り飛ばし、飛んできた火の球の直撃を受け吹き飛ばされる。
火に包まれた中で親しい友人に目を向けると、涙を流しながら手を伸ばし此方に来ようとするのを止められ、一緒に居た人に連れられて行く親しい友人を見て。
ああ、良かった。
どうか、幸せになってくれ…。
親しき友よ、幸せに…。
そして青年は命を落とし、その世界の生を終えた。
これが始まり、後に【罪の王】と呼ばれる人物の魂の始まりの記憶。
七つの大罪を統べる真なる大罪。
【暴食】
【色欲】
【強欲】
【嫉妬】
【怠惰】
【憤怒】
【傲慢】
そして第八の大罪、
【善】
彼の魂は時を越え、世界を渡り、様々な人物、人種、亜人、動物、魔物、幻獣、神獣、妖精、精霊等、多種多様な存在と触れ合い、人より少し善良だった彼の魂は、時を越え、世界を渡る度に少しずつ徳を積み。
善人から聖人に。
聖人から英雄に。
英雄から勇者に。
勇者から救世主に。
ただ人より少し善良だった彼の魂は、その少しの善良性により、大きく運命を狂わせる事になる。
そして時が過ぎ…
お読みいただき有り難う御座います。