1「だいすきなおとうさん」
大好きな大好きな父親が言った。『これから楽しい遊びをしよう』と。
『お父さんのいうことを聞いて、遊んでくれるととっても嬉しくて、楽しくなるよ。これは絶対だ。お父さんの保証付きだよ』
明るい笑顔でそう言って、父親は少女の顔を覗き込んだ。少女の脳裏に自分の父親の顔が浮かび上がり、それが目の前の父親の顔と全く異なることに違和感を感じたが、次の瞬間、脳内の映像が霧散し、目の前の父親像と重なった。
なにも不思議なことはなくなった。いや、元から不思議なことなどなかったのだ。紛れもなく、目の前にいるのは少女の父親だった。
大好きな大好きな父親が言うことだ。きっとそれはすごく楽しいことなのだろう。まだ『遊び』も始まってないのに、少女の胸には歓喜が込み上げてきて仕方がなかった。
だから、少女は父親の言うことに大きく頷いた。
どうしたらいいのか? どうしたら、もっともっと楽しくなるのか? 少女は父親に訊いた。
『ふたりのお兄ちゃんと遊ぶんだ。追いかけっこでね』
追いかけっこをするのはとても楽しいことらしい。子供たちが『鬼』で、二人の兄は『子』。
少し変わったルールがあって、『子』はすぐに捕まえてはいけないらしい。すぐに捕まえてしまったら、追いかけっこが面白くないから。じっくりじっくり時間を掛けて追いかけて。
『子』が動かなくなって、逃げなくなってしまったら、そこでようやく捕まえてもいいとのことだ。
しかし、追いかけっこするのは少女ではなく、他の子たちの役割らしい。
それを聞いて少女は悲しくなった。自分だけ仲間外れなのかな?、と。少女は訊いた。
少女の父親は首を大きく振って言った。
『違うよ。君には追いかけっこをもっともっと楽しくするために、別の遊びを用意したんだよ。お父さんの言うとおりの所に行って、あることをしてほしいんだ。そうすれば追いかけっこをしているお兄さんたちはもっともっと喜ぶから、君も嬉しいだろう?』
どうやら鬼をビックリさせるための作戦らしい。それはとっても面白そうなことだった。少女の胸が更にドキドキと高鳴った。
そうして、少女は意気揚々と行動を開始した。
さあ、行こう。楽しい、楽しい追いかけっこの始まりだ。
パパを、おにいちゃんたちを、たくさんたくさん喜ばせてあげよう――――