9「胎動」 第五段階『罪と罰と進化』了
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『アルファ5よりアルファ0。聞こえるか』
『こちらアルファ0。感度良好。送れ』
『状況報告。強力なEPSを感知。餌に獲物が食いついたと推測する』
『こちらでも感知した。数は3……いや、4か。かなりの数だな。大漁ってとこだな。大収穫だ』
『指示を求む。頃合いだと思うが』
『ああ。直ちに『あおぞら』に通達。ヨハネのフィラデルフィアを起動させろ』
『了解。『あおぞら』に通達する。交信終了』
『アルファ0より全隊員へ。餌に獲物が食いついた。繰り返す。餌に獲物が食いついた。これより、状況を開始する。第一分隊及び、第二分隊は指定のポイントで待機。反EPS領域を展開すると同時に突入する』
『第一分隊、了解』
『第二分隊、了解』
『第三分隊、第四分隊はポイントC、第五分隊、第六分隊はポイントDに移動開始。すみやかに配置につけ』
『第三分隊、了解』
『第四分隊、了解』
『第五分隊、了解』
『第六分隊、了解』
『これ以降の指示はアルファ0よりアルファ・リーダーへ移行する。各員の健闘を祈る』
『了解』
多目的型人工衛星『ヨハネ』。
上空36000メートルに位置する静止衛星で、三ツ葉重工が独自に開発し、打ち上げた多目的型の衛星である。
情報バンク、GPS機能や衛星通信を利用した秘匿回線、宇宙空間の科学観測を行う為の機能、気象観測、海洋観測、等々……。
複合企業三ツ葉社に関する様々な情報を蓄積、管理することを主軸に置き、様々な機能がこの『ヨハネ』には搭載されている。
『ヨハネ』の機能は大きく分けて七つの衛星としての機能があり、それは新約聖書に出てくるアジア州に位置していた七協会の名前がつけられ、管理されている。
エフォス、スミルナ、ペルガモン、ティアティラ、サルディス、フィラデルフィア、ラオディキア。
その中の一つのフィラデルフィア。その中に搭載された機能の一つがゆっくりと稼働しつあった。
『これより、反EPS砲の初期起動に入る。第一段階。フィラデルフィアの防壁を解除せよ』
『了解。フィラデルフィアの防壁を解除します。認証システムにフィラデルフィア権限者の網膜パターン照合、パスワードを認証中……フィラデルフィア防壁解除確認。システムをティアティラからフィラデルフィアに移行します』
『フィラデルフィア・システム起動……起動確認。システムチェックスキャン実行中……スキャン終了。システムに特に不備はありません。全項目オールグリーン』
『第二段階へ移行する。反EPS砲のシステムを起動し、発射管を開け』
『了解、反EPS砲、システム起動します』
『了解。反EPS砲、発射管、開きます』
有人宇宙施設『あおぞら』の管制塔で幾人ものオペレーターが管制塔にあるヨハネの管理パネルを操作し、『ヨハネ』に設置されている反EPS砲の回路を開いてゆく。
無限に広がる真空の宇宙空間を背景に浮かぶ巨大な有人宇宙施設『あおぞら』。この施施設は全長約158.5㍍、幅約122.7㍍、中心は様々なモジュール、左右には巨大な太陽電池パネルが設置されている、ヒトが広大な宇宙空間で造り上げた巨大構造物だ。
宇宙空間の科学観測を名目に造られた施設だが、その目的の一つとして、『ヨハネ』の管理、メンテナンスがある。
『あおぞら』とさほど距離の離れていない場所に『ヨハネ』が設置されているのもその為であり、直接衛星と干渉できるため、中のソフトと共にハード面も直接手を施すことが出来るのである。
『あおぞら』の管制塔からヨハネへ。電波による指示が送り込まれ、『ヨハネ』はそれまで形を成していた観測衛星ではない、兵器衛星としての形を取り始めた。ヨハネの中に折りたたまれていた発射管がスライドして、長い長い砲身を露わにした。衛星から青紫の光が灯り、その光が広がってゆく。
『ヨハネ』に設置されているスラスターが射出口から蒼白い光と共に噴射され、角度が調整される。少しづつ、少しづつ。わずかな誤差が目標との距離との距離が開いてしまうため、コンピューターの軌道計算により、その誤差を限りなくゼロに近づける。目標を確実に射抜くために。
その長い砲門が目指す先は――――地表に存在する、とある構造物。
目標、日本の首都。東京。ビジネスシティの外れにある倉庫街。持ち主不透明の廃ビル。
現在、石和武士と佐々木勇二郎が幽閉されている建物だった――――。
第五段階『罪と罰と進化』了 第六段階『崩壊』へ続く。