5「Who are you?」
『もしもーし、佐々木くんに石和くん、聞こえているかなあ?』
陽気な声が聞こえる。瞬間物質転送装置・改のスピーカーから発せられるその声は、聞き覚えのある声――――戸木原淳のものだった。
石和武士も佐々木勇二郎も。モニターを眺めたまま、呆然としていた。昌美の行動は音声、映像共に超小型カメラを通じて、リアルタイムで中継されていた。
巨大な部屋に収容されている異形の集団。新井博士のこと、篠塚登喜夫の末路、『能力者計画』、『能力者』、そして、横川昌美の死
想像を絶するあまりの事態に頭がついていかない。石和の顔は強ばり、頭の中は真っ白に染まっている。いったい何が起こっているのか。この目の前にいる人物はなんなのか。
『ん? おかしいなあ、返事がない。ああ、これは小型のカメラでマイクしかついていないのか。どこかに連絡を取り合うための通信機がある筈なんだけど……』
画面がぐらぐらと揺れる。戸木原が昌美の身体をまさぐっているようだ。戸木原に昌美の身体から溢れ出た大量の血が付着し、びちゃびちゃと音を立てる。手が、白衣が、顔が赤く染まるが、彼は微塵も気にした様子がない。まるで子供が公園の砂場で泥遊びをしているような、そんな光景に見えた。
『ああ、あった、あった。インカムかあ。ネット回線を利用して、長距離の通信が出来るタイプの、なかなかいい性能のインカムみたいだね。本格的だなあ。それじゃあ電源を入れてっと』
カメラがぶれが収まると、モニターに戸木原の顔がアップで映っていた。自分でカメラを持ち、レンズを自分に向けている。耳にはインカムが。二つとも昌美の身体から取り外したようだ。傍らに映る昌美の身体はもうぴくりとも動かなかった。
『さて、改めまして。佐々木くん石和くん、聞こえてるかな? 聞こえてるよね? まさかフォネティック・コードを使わなきゃ返事しないなんて、意地悪はしないよね?』
戸木原は顔が半分昌美の血で染まった状態のまま、無邪気な笑顔でそう言った。そのあまりの異質な光景に。身体の奥から、何かがせり上がってくる。かつてないほどの衝動。ここから逃げ出したいという強い強い想い。それは生物なら誰もが持っている天然の危険信号。恐怖という感情。石和は震えた手でインカムのスイッチを入れ、かすれた声で答えた。
「お前は……誰だ?」
『ん? その声は石和くんの声だね。ようやく答えてくれた。嬉しいよ、うん。久しぶりだね、石和くん。元気していたかな? 隣には佐々木くんもいるんだろう?』
「お前は誰なんだ、一体!」
身体中にこびり付いた恐怖を振り払うかのように。石和はかたかたと身体を震わせながら、大声で戸木原に怒鳴りつけた。戸木原は驚いた顔を浮かべ、
『ひどいなあ、いくら久しぶりだからって。自分の上司の顔も忘れちゃったのかい? 戸木原だよ、戸木原淳。第五研究所の主任研究員だよ。こんなこと言うまでもないことだろう? あ、ひょっとして、連絡を取らなかったこと、根に持ってるのかな。ごめん、ごめん。作業の方に夢中になっちゃって、連絡するのすっかり忘れていたよ。コレじゃあ、主任失格かな? いや、社会人として問題あるよね、うん。本当にごめんよ、石和くん。反省してる』
「…………」
違う。これは自分の知っている戸木原では、ない。顔も、声も、身体も。すべて覚えがあるモノなのに。内面がまるで違う。違いすぎる。戸木原はもっと傲慢で、無能で、目がぎらついた自尊心だけが高い男だったはずだ。
いま石和の目の前に映っている男は朗らかで、口調も違う、落ち着きもある、目元も妙に優しい顔をしていて、まるで別人だ。戸木原は眉根を寄せて、首を傾げた。
『どうしたんだよ、石和くん。さっきから、変だぞ。あ、そうか。君たちにはこの人格じゃなかったね。最近、第五研究所の人達に会ってないから、すっかり『形成』するのを忘れていたよ。いま、いる研究所はこの人格で『適応』しているから、君たちの知っている人格に戻すのは難しいかなあ。第五研究所にいけば、また戻るとは思うけど』
意味が……分からない。いったい何の話をしているのだろうか。演技? それとも多重人格者? それとも、やはりこの戸木原は似た顔をした別人なのだろうか。
いや、それどころかもっと根本的な部分にも疑問が浮かぶ。この目の前にいる男は本当に『人間』であるのかという疑念――――
昌美が以前言っていた言葉を想い出す。
『……あの人は『怪物』です。あの人に関わるとみんなおかしくなってしまう。だから、みんなを止めようとしても篠塚くんは止められなかった』
怪物。そんなことがあるはずがない。そんなことがあるはずがない。彼はどう見ても人間だ。ヒトでなかったら、目の前にいるこの生き物は何だというのか。
常識的な自分がそう否定する反面、心の底ではそれが正しいという気持ちが膨れ上がってくる。この男は異質過ぎる。従来の人間の枠に当てはまるとしても、なにかが壊れ、なにかが突出している。
……怖い。怖くて、たまらない。歯ががちがちと音を刻み、足がすくむ。今すぐすべてをかなぐり捨てて、ここから逃げ出したい。
そんな負の欲求が石和の身体中を駆けずり回る。視線を佐々木に向けると俯いたまま、コンソールに両手をつき、肩をがたがたと小刻みに震わせていた。彼もまた、恐慌状態に陥っているのかもしれない。こちらが混乱しているのを察したのか、戸木原は苦笑して、言った。
『はははは、まあ、いいじゃないか、人格のことなんて、どうでも。些細なことだよ。それよりも、石和くん。こうして、君に連絡をとったのは他でもない。お礼を言いたかったからなんだよ』
「お礼……?」
『うん。君のおかげで『Dー計画』が本格的に進むことになったからね。一言、お礼を言っておこうと思って。本当にありがとう、石和くん。これで、研究は最終段階を迎えることになる』
「なに、を、言ってる……? 計画はまだ第一段階が終了し、第二段階の研究が始まったばかり――――」
擦れた声で言った石和の言葉を遮って、戸木原は大きくかぶりを振った。
『違う、違う。そうじゃない。最初のDー計画のことさ。いいかい? 第五研究所で行われているDー計画は僕にとって本来のDー計画じゃないんだ。第五研究所での計画が始まるもっともっと前から進められていた、本当のDー計画。そうだな……第五研究所で行われていた研究を『第二Dー計画』だとするなら、僕が五年前から行っていた研究は『第一Dー計画』とでもいえばいいかな。他世界生命体アルファがα世界とβ世界を繋ぐ要であると判明したとき、発案されたもう一つの計画だよ』
「もうひとつの……『Dー計画』?」
そんな話は聞いたことがない。最初アルファを収容したよつのは研究所で行われていた研究のことだろうか。しかし、アレはアルファの調査と研究で、まだ本格的な分裂世界における研究は始まってなかった筈だ。もし、そんなものがあるとすれば、それは――――
「勿論、非公式のものだよ。その計画は。そもそも僕にとって『第二Dー計画』の存在自体が『第一Dー計画』をカモフラージュするために造られたものに過ぎないんだ。他世界の存在の実証と観測が『第二Dー計画』だけど、アルファの存在自体がすでに他世界の存在を実証していると思わないか? 他世界の観測というけど、そんなものを観測できたとしても、なにも変わらない。『第二Dー計画』は慎重に慎重を重ねて造った計画だから、α世界の観測は出来ても干渉は出来ないからね。計測や情報を得ることが出来ても、今回の計画だけではそれ以上は望めない。違うかな?」
……当然のことだった。『Dー計画』は世界そのものに触れるという、ある意味危険きわまりない計画なのだ。
特に『分裂世界』についてはまだまだ未知の要素が多く、すべての仕組みを理解できていないのが現状だ。下手なことをすれば、どんなアクシデントがあるかも分からない。世界そのものが変容、最悪の場合、消失してしまうことすら充分に考えられる。
それ故に慎重に慎重を重ねて、研究を進めてゆくのは至極当然の事だ。少なくとも、充分な調査を経てからでなければ、世界に干渉する計画は危険すぎる。それが三ツ葉社上層部とDー計画担当の共通の見解であった。
『だけど、それじゃあ駄目なんだ。リスクを背負い、色々試さなければ何も分からないし、何も始まらない。研究っていうのは様々な犠牲の上に成り立っているんだよ。だったら、アクシデントを恐れずにもっともっと踏み込んだ実用的な計画を行うべきだと思わないかな?』
「なにを……するつもりなんだ?」
石和の問いに戸木原は微笑を浮かべた。
『僕と横川さんの話はそちらでも傍受していたんだろう? 『進化』だよ。閉塞した状態が続くヒトという生物。このままでは確実に人類は衰退し、終焉を迎えることになる。手遅れになる前にこの世界に新しい進化の種をまきたいんだ。それが『第二Dー計画』の真意であり、目的でもある』
「……だらない」
と、その時。それまで俯き、沈黙を護っていた佐々木が初めて声を上げた。肩がぶるぶると小刻みに震え、コンソールの上についた両手の指がかぎ爪状に折れ、がりがりとコンソールを削る。口元が大きく歪み、そこから見える歯と歯の間から、ぎり、と歯がみの音が漏れた。
「さ、佐々木?」
石和が困惑の声を挙げるのとほぼ同時だった。石和が頭に装着しているインカムを佐々木は強引にむしり取り、憤怒の表情を浮かべ、マイクに向かって叫んだ。
「なにが実用的な計画だ! あなたはそんなありふれた終末妄想に囚われて、横川さんを殺したのか! そんなくだらないことの為に篠塚さんを実験動物にしたのか! そんな……そんな事のために新井さんを……!」
コンソールの上に拳を叩きつけながら、佐々木が吠える。感情の爆発。どうやら佐々木は異質な光景と真実を叩きつけられたおぞましさよりも、そういった行いに対する怒りの方が勝ったようだ。
新井博士を実験体に仕立て上げた怒り。昌美の暴走を防ぐことが出来なかった無念さ。
そういった想いが一点に凝縮し、激怒という感情が破裂する。その怒りを戸木原にすべて注ぎ込み、佐々木は叫ぶ。モニターに映る戸木原の顔が驚愕に歪んだ。
『その声は佐々木くんだね。久しぶり。いやいや驚いた。佐々木くんでも怒ることがあるんだね。いつもにこにこ笑顔の佐々木くんしか知らないから、すごくビックリしたよ』
胸に手を当て、ほうと嘆息する戸木原。これだけの怒りを叩きつけられても彼の感情はまったく揺らがない。佐々木は拳を強く握りしめながら、普段見せないような鋭い目つきでモニターを睨み付け、低い声で告げる。
「戸木原博士。あなたは狂ってる……病院でしかるべき処置を受けた上で、自分の行った罪を償うべきだ。こんなことをしたって『ヒト』という生物はなにも代わりはしない!」
佐々木の言葉に戸木原は苦笑いを浮かべ、
『ははは、これはまた手厳しいなあ。確かに終末論や人類の進化論はどこにでもありふれている思想だ。人類が衰退していると言っても今すぐどうこうなる訳じゃないし、進化については未だ人類はどういった過程で生物が進化してゆくのか、ほとんど解明出来ていない。安っぽいと思われるのも無理はないかもしれないね。
だけどね、佐々木くん。僕たちは『進化』の機会を得た。それは確かなことなんだよ。α世界線とβ世界線の交差。次元衝突を逃れ、次元震だけの被害で済んだ上にα世界の生物を入手するという恩恵を受けた。これがどれくらい低い確率で起こったことか。君たちなら分かるだろう? この万に一つの奇跡に我々の世界は報いるべきだとは思わないかい? そう、僕たちの世界は『進化』するべきなんだよ』
「馬鹿げている……! α細胞との融合で怪物を造り上げて、創造主気取りか! そんなことをして何になるというんだ!」
佐々木の言葉に戸木原はおどけたように肩を竦めて見せた。
『やれやれ、君も横川さんと同じだね。何も分かってないなあ。いいかい? 僕はα細胞とヒトの融合で『進化』の道が開けるなんて、さらさら思ってないよ。α細胞とヒトの融合はあくまでも『鍵』に過ぎない。『第二Dー計画』でもα世界への通り道を造るために『鍵』が必要だよね。それと同じだよ。『第一Dー計画』にも『鍵』は必要なんだ。ただし、観測する為の『鍵』ではなく、進化する為の『鍵』で、少々方向性は違うけどね」
「進化する為の……鍵?」
佐々木が眉を潜めて、反芻した言葉に戸木原は目を細め、
『佐々木くん、ひとつだけヒントをあげるよ。君は『具現する力』という言葉を知ってるかな?』
と、言った。
『万物の構成する力。この世にある、ありとあらゆる自然から出来た生命体や物体、あるいは現象には皆、この『具現する力』が宿り、形を形成している。ヒトの手で造り上げた人工物は別だけどね。もし、この力が僕たちの肉体から失われたら、僕らは形を成すことが出来ない。存在することを許される為に必要な根本的な力。それが『具現する力』だよ』
「……それが、どうしたっていうんだい」
教科書通りの説明をする戸木原に佐々木は苛立ちを隠せない声で言った。
『具現する力』は一部の研究機関しかまだその実在を知らされていないが、それは佐々木にとっては聞き慣れた言葉であった。
生命体を一瞬で別の所へ移動させる技術が搭載された『瞬間物質転送装置』。この機械にも『具現する力』を使用した技術が利用されているからだ。
生物には常に『具現する力』が宿っており、その力によって個体を形成しているが、『瞬間物質転送装置』で対象の量子分解を行うと同時に『具現する力』も霧散してしまうのだ。受信機で対象を再構築をしたとしてもこの『具現する力』が宿っていないと、個体を維持することが出来ず、消滅してしまう。だから、対象を再構築する際に『具現する力』を送り込む技術を使用しなければ、生物の転送は成り立たないのである。
その技術と力の存在は新井博士からよく聞かされていたし、対象を形成するときの技術理論で意見を求められたこともあったので、佐々木は『具現する力』のことをよく知っていた。とはいえ、『分裂世界』と同様、まだまだ解明されていないことの多い、未知の力であるのだが。
『僕が人類進化促進塾で研究していた『能力者計画』。これにもその『具現する力』が深く関わっているんだ。能力者(あの子)達の力は君たちも見ただろう? この世を変容させかねないほどの圧倒的な力。だけど、その能力は目に見たほど万能じゃない。きちんとした法則に従って、あの力は顕現化しているんだ。脳内に埋め込まれた『思考伝達金属』を介して、自分の視覚で認識した領域に『Embodiment Power Sysem)』(具現力干渉システム)と呼ばれる特殊フィールドを造り出す。EPS領域は大気中にある『具現する力』を一点に集中させて人工的に造り上げた特殊な力場で、『能力者』はこのフィールドの中で自分の『才能』を具現化し、展開することが出来るんだ。この領域の中でだけ子供達はイメージした力を顕現化することが出来る。それが僕が今まで研究し、そして実現可能な状態まで持って行った『能力者計画』という訳さ』
そこまで語って。戸木原は右手の人差し指をぴっと立てて、笑顔を浮かべながら、言った。
『――――さて。ここで二人に質問。この『能力者計画』は『第一Dー計画』において、絶対不可欠なものなんだけど……僕がどうして『能力者』を造り出す必要があったのか。……分かるかな?』
「…………?」
佐々木は眉を潜め、言葉を詰まらせた。一瞬、彼の問いかけに怒りよりも困惑が勝ったようだ。それは石和も同様だった。戸木原が何を言っているのか。訳が分からない。
通常の人間ではどうやっても持ち得ない特殊な能力を自在に扱う『能力者』。この子供達を量産し、世に放つのが戸木原の目的なのだろうか?
いや……違う気がする。確かにそれでも確実に世界は変容をもたらすだろうが、彼の求めているものはまったく別のモノだ。『Dー計画』と呼ばれるからには、分裂世界 α世界に関わるプロジェクトの筈だ。
……昌美と戸木原が対峙していたときに言っていた彼の言葉を想い出す。
『『鍵』を使うには扉が必要。これは当然のことだよね。しかし、扉は目に見えない場所にある。だから、扉を顕現化させる必要があるんだ。僕はその為に人類進化促進塾で『能力者計画』を発動させたんだよ。『門』の素体を造り出す研究プロジェクトとしてね。『鍵』と『門』と『結晶体』。このみっつが揃えば、必ず世界は変わる。人間という存在は救われるんだよ!』
『鍵』と『門』と『結晶体』。
『鍵』と『結晶体』については第五研究所で行われていた研究のことで大体理解できる。『鍵』はα世界とβ世界の混合種で互いの世界を引き寄せ合う為に必要な存在だ。その為にα細胞と新井博士の肉体を融合させ、双方のバランスが整った統合した存在を造りあげたのだ。
『結晶体』はおそらく、大量の生体エネルギーを貯蔵し、流出できる存在だろう。生物を通じて、α世界をこちら側に引っ張ってくるには大量の生体エネルギーが不可欠になる。
その為には『鍵』の能力をフルに発揮させる電源が必要なのだ。冷蔵庫、エアコン、TVなど、様々な機能を持つ電化製品がこの世には存在するが、電源となる元がなければ、これらは只の箱に過ぎない。
それと同じである。『鍵』という電化製品とは別に『結晶体』と呼ばれる電源がなければ、『鍵』はその役割を果たすことは出来ない、ということだ。
『鍵』の動力の元となるのが、生体エネルギーで、このエネルギーが大量に備蓄でき、それを『鍵』に送り込めるような生物を造る必要がある。
それが『結晶体』であり、第五研究所で現在行われている第二段階の研究である。この二つの素体が完成すれば、『Dー計画』は成る。
簡単に言ってしまえば『Dー計画』とは五年前に発生した『次元震』をもう一度起こすことなのである。β世界を起点にα世界を引き寄せ、α世界線とβ世界線を交差させ、接触させる。その小規模な衝突によって、二つの世界の絶対次元壁の一部に穴を造り、そこからα世界の観測を行う。それが石和の知っている『Dー計画』の全貌だった。
だが、戸木原の言う『第一Dー計画』には石和の知らない用語が一つある。
『門』の存在だ。
人類進化促進塾で行われていた『能力者計画』は『第一Dー計画』には絶対不可欠なものだと戸木原は言う。
『能力者』と『門』。
『具現する力』と『EPS領域』。
『α世界』と『β世界』。
……やはり、分からない。これらの要素がどうやったら、進化に繋がるのか。そもそも『門』を顕現化させるということ自体、意味が分からない。次元震以外の方法で、向こう側への入り口を造るということなのだろうか。だが、それと『進化』の因果関係がまったく分からない
……いや、待て。『門』という言葉に囚われていたが。ひょっとして。『門』は入り口を造るという意味ではなく、逆の意味だったとしたら。
戸木原は言った。『能力者』とはEPS領域を造り出し、『具現する力』に干渉することの出来る者達だと。その中に『具現する力』を反対の方向へ作用させることが出来る『能力者』がいるとしたら――――