1「過去の過ち」
夢を……見ていた。
激しい負の感情を露わにし、その感情を拳に乗せて、目の前にいる男へ叩きつける。そして、向こうもまた初めてみせる憎悪の光を瞳に宿し、想いを叩きつけてくる。
想いの衝突は更なる感情の高ぶりを生み、激しい争いへ昇華する。
只の喧嘩なら今まで幾度となくしてきた。目の前にいる、その男とは長い間ずっと自分の側にいた唯一無二の親友だったのだから。
長く側にいれば、些細な事で喧嘩も生じるし、争いも起きる。だが、それは家族同士で行う喧嘩とほぼ同等なもので、すぐ元の鞘に収まっていた。互いが謝ることもあれば、わずかな時間で怒りを忘れ、知らぬうちに仲直りしていることもある。
それは互いが互いを大切に想い、信頼できる間柄であったことに他ならない。
だが、いまのこれは違う。只の喧嘩ではない。心の底から彼を嫌悪し、憎み、想いを叩きつける。彼を殴りつける度にもう元の関係には戻れないことを実感する。
彼を信頼していた。彼を尊敬していた。彼を――親友だと思っていた。
……思っていたのだ。
――――にも関わらず、彼はその想いを裏切った。
二人にとって大切な存在を傷つけ、取り返しの付かないことを彼はした。
許せなかった。自分の信頼を踏みにじり、罪を犯した彼が。
彼は告げる。元凶はお前だと。こうなったのはすべてお前のせいだと。その言葉が真実だと知って、更に感情が高まり、振り下ろす拳に力が入った。
黙れ、黙れ、黙れ。認めたくない、認めたくない。
この三人の。大事に大事にしてきた関係の崩壊が。自分自身にあったなど絶対に認めたくない――――!
……分かっている。これは夢だ。すでに事件は終え、すべては崩壊してしまったのだ。今ではもう取り返しなど付きようがない。それでも夢という媒体でこの事件を追体験することによって。あの時のどうしようもない想いが、幾度となく蘇るのだ。
憤怒。哀愁。憎悪。後悔。
様々な負の想いが頭の中で駆けずり回る、あの時の感覚が。
自分は彼女に許してもらえただろうか。
自分は……彼女を幸せに出来たのだろうか?