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僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です

空の勇者に惚れた婚約者に公開婚約破棄されましたが、勇者の“大切な人”は私でした

掲載日:2026/03/17


「今日限りで婚約は破棄だ!」


街の中央広場に、婚約者の声が高らかに響いた。


集まっていた市民たちが一斉にざわめく。


私は静かに息を吐いた。


ああ、やっぱりこの展開になるのね。


目の前に立つのは、伯爵家の跡取りである私の婚約者――アレックス。


そしてその隣には、もう一人。


黒色の髪を風になびかせた、美しい女性。


空の勇者ラベンダー。


今この街に滞在している、ゴールド王国に認定された魔王討伐隊のリーダーだ。


魔王の波動を受けた魔物の大群を討伐するため、一か月前にこの街へやってきた。


そして――


その日から、婚約者は変わってしまった。



最初はただの憧れだった。


勇者の戦いを見て感動した、と。


勇者様は素晴らしい、と。


けれど日が経つにつれ、彼の言葉は変わっていった。


「勇者様は本当に美しい」


「勇者様は気高い」


「勇者様こそ、この国、この街にふさわしい女性だ」


そして私は、次第に視界の外へ押し出されていった。


 


今日の討伐祝いの席でもそうだった。


広場に集まった市民の前で、勇者ラベンダーは静かに言った。


「この街には、私の大切な人がいます」


その瞬間。


アレックスの目が輝いた。


そして彼は、大きく一歩前へ出た。


「勇者様!」


誇らしげに胸を張る。


そして、私の方を振り向いた。


「おい、ミリエル。前に出ろ」


私は静かに歩き出した。


広場の中央。


人々の視線が一斉に集まる。


アレックスは高らかに宣言した。


「皆の前で言おう!」


「今日限りで、私はこの女との婚約を破棄する!」


広場がどよめく。


私はただ静かに立っていた。


アレックスはさらに続ける。


「私が愛するのは勇者ラベンダー様だ!」


「ラベンダー様こそ、この街を救った真の英雄!」


「ラベンダー様!どうか私の想いを受け取ってください!」


一瞬。


広場が静まり返った。


そして。


ラベンダーがゆっくりと口を開いた。


「……?」


不思議そうな顔だった。


「あなたは、何を言っているのですか?」


アレックスは笑顔で言った。


「ラベンダー様が言ったではありませんか」


「この街には、大切な人がいると!」


「それは私のことなのでしょう!?」


しばしの沈黙。


そして。


ラベンダーは私を見た。


そして静かに言った。


「……その人は、彼女のことです」


広場が凍りついた。


アレックスの顔が固まる。


「……は?」


ラベンダーは私の横に立った。


そしてはっきり言う。


「私の大切な人とは、ミリエルのことです」


ざわざわと人々が騒ぎ始める。


アレックスは青ざめた。


「な、なぜ……?」


ラベンダーは静かに言った。


「一か月前、私は油断をして魔物に傷を負いました」


私は苦笑する。


あの時のことだ。


街の外れで傷を受けて辛そうにしていた彼女を見つけたのは、私だった。


勇者だと知らず、ただ助けただけ。


ラベンダーは続ける。


「その時、彼女は親身になって手当てをし、温かいスープをくれました」


「身分も名前も聞かずに」


「勇者としての名声や容姿に惹かれて親切にしてくださる方は何人もいました。ですが、見返りなく優しくしてくれた人はミリエルが初めてです」


「彼女こそ、私の大切な友人」


そして。


ラベンダーの瞳が冷たく光る。


「そんな人を、あなたは侮辱した」


アレックスが後ずさる。


「い、いや……」


ラベンダーの声は鋭かった。


「私の友人を公開の場で辱めるとは、いい度胸ですね」


広場の空気が変わった。


市民たちの視線が、アレックスへ突き刺さる。


そこへ、別の声が響いた。


「これは……どういうことだ!」


振り向くと、伯爵――アレックスの父だった。


事情を聞くと、顔色が真っ青になる。


そして息子を睨みつけた。


「この愚か者が!!」


バンッ!!


思い切り平手打ちが飛ぶ。


「勇者様に恥をかかせた上、婚約者を侮辱するとは!」


アレックスは震えていた。


伯爵は深く頭を下げる。


「勇者様、ミリエル嬢」


「この愚息の愚行、心からお詫びいたします」


そして言った。


「本日をもって、アレックスは跡取りから外す。こんな愚か者に伯爵家は継がせられん!!」


広場がまたざわめいた。


「魔物討伐の最前線へ送る」


「二度と家名を汚さぬよう鍛え直す」


アレックスは崩れ落ちた。


数日後。


伯爵家から正式な謝罪が来た。


そして。


屋敷に訪れた青年が、静かに頭を下げた。


「兄の愚行、深くお詫びします」


彼はアレックスの弟、レオンだった。


「もしよろしければ……」


少し緊張した様子で言う。


「改めて私と婚約をお願いできないでしょうか」


私はしばらく考えた。


そして微笑んだ。


「条件があります」


レオンは驚く。


「勇者ラベンダー様が街に来たら、必ず歓迎会を開くこと」


一瞬。


レオンはぽかんとした。


そして笑った。


「……それは大切な条件ですね」


遠くで。


ラベンダーが苦笑していた。


「まったく」


彼女は呟く。


「あなたは本当に、私の大切な友人ですね」


空を見上げる。


勇者には、愛している人がいるらしい。


その人の話をする時だけ。


ラベンダーは少しだけ、切ない顔をし、その黒い瞳は薄ら湿る。


以前、一度だけ名前を聞いたことがある。



ホワイト。


それが、空の勇者ラベンダーが愛する人の名前だ。


こんな人を嫌いになる人がいるなんて、私には信じられない。


けれど。


私はあの恋を応援しようと思う。


――空の勇者の、たった一人の親友として。




このお話に登場した空の勇者ラベンダーは、

シリーズ本編第二作目「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です2」に登場します。


彼女と「ホワイト」の恋の行方は、本編で描かれています。


興味があればぜひそちらも読んでみてください。


※アルフレッドからアレックスに変更しました。

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