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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ
第3折 それぞれの想い

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57句 明快な沛然


「みんな、おはよう。今日は特務部隊について、理解を深めてもらいたいと思う」


 書斎に集まった7人を前に、旭が議題を提示した。

 

 晩餐会まで、そう時間もない。

 詰め込み式になってしまうが、致し方ないだろう。


「特務部隊が対吸血鬼討伐部隊であることは、公にされていないんですよね?」

「うん、そうだよぼたん。だからこそ厄介なんだ。四門のパートナーである4人も、間違いなく探られるだろうから覚悟するように」

「そうは言っても、何を覚悟すればいいのかしら」


 旭の言葉に、(なごみ)が茶々を入れた。

 

「僕たち兄妹は総司令の孫、つまり奴らからすれば情報の宝庫さ。何をしている組織なのか、そういったところが1番気になるだろうからね。和なら、そういう会話も上手く(かわ)せるだろう?」 

「もちろん、そんなのは簡単よ。ねぇ、私のお客さんにするのはいいのよね?」

「一体、何をする気なんだい……?」


 我が妹ながら、こういう強かなところが恐ろしい。

 そして、異様に口が回るから手に負えない……。

 

「何もしないわ。お金にするだけよ」

「お前、絶対あいつらの前で金って言うなよ?」

「あら、失礼ね。朔夜くんまでそういうこと言うんだから」

「お前なら言いかねないだろが……」


 朔夜の言葉が納得いかないのか、和は頬を膨らませ、むすっとしていた。

 

「お兄様! 私は何をすればよろしいのですか?」

「憩は千歳と一緒にいてくれればいいんだよ」

「お姉様みたいに、私にお役目はないのですか?」


 憩の気持ちは尊重したいが、正直躊躇してしまう。

 社交界に慣れていないこの子に、あの世界は汚すぎる。

 

「いこには大事な役目があるぞ」

「本当!? 何? 何!? 教えて朔夜!!」


 旭の気持ちを知ってか知らずか、朔夜が会話を引き継いだ。

 

「奴らに何か聞かれたら、みんな大好きって答えるのがいこの役目だ」

「それだけでいいの?」

「それだけだと思うだろ? でも、お前にしかできないんだよ」

「本当に?」

「あぁ。嘘だと思うなら、旭や寒凪(かんなぎ)に聞いてみろ」

 

 憩は隣に座っている千歳の目を見つめた。

 

「千歳さん、本当?」

「……うん。憩にしかできないよ」

 

 ……(そま)さん、さすがだな。

 憩の役に立ちたいって気持ちを無碍(むげ)にせず、そして本当に憩にしかできない役割を与える。

 やっぱり、過ごしてきた時間の長さは埋まらない……。

 

「へえー! 杣がそんなこと言うなんて意外だなー!! あんなに憩が潜入するの嫌がってたのによ」

「うるせぇな。全員で行くのは決まってんだから仕方ねぇだろ。それに、寒凪が側にいれば大丈夫だろうしな」

「……え?」

「だから、いつまでもくだらないことで悩んでんじゃねぇよ。んな暇あんなら、死ぬ気でいこを護りやがれ。わかったな」

「……はい。絶対護ります」

 

 ……憩が杣さんを慕うのもわかる。

 伝え方は下手だけど、すごく優しいんだ。

 

「お兄様! 本当に私にしかできないお役目ですか?」

「うん、そうだよ。白銀のみんなや、特務部隊を護る大切な役目だ。大変かもしれないけれど、お願いしてもいいかい?」

「はい! 頑張ります!!」

「漣さんすごいね! 憩ちゃんもお役目あるんだって!」

夕梨(ゆうり)にもあるぜ! 俺の側から離れないこと!」

「わかった! 絶対離れないね!」

 

 漣が夕梨の肩を抱き、嬉しそうに見つめ合っている。

 目の前でいちゃつく2人を、朔夜が冷視していた。


「バカだろこいつら」

「あら、朔夜くんは私に言ってくれないのかしら?」

「あ? 何を」

「俺から離れるな! って言ってくれないのかしら」

「言うわけねぇだろ」

「まぁ、ひどい人。でもいいのよ、私がずーっと離れないから!」

「そう言うのがわかってっから言わねぇんだよ」

「嬉しい! 私たちも両想いね!」

「お前、まじでいい加減にしろよ!」

 

 ギャイギャイと、いつもの如く皆が騒ぎ始めた。

 

「はいはい、静かにね。じゃあ次は四門について説明するよ」

「はあ!? まだやんのかよ!?」

「全く進んでねぇだろが」

「……細小波(いさらなみ)さんも四門なのに」


 全くやる気のない漣に、朔夜と千歳がつっこむ。

 これでも飽きっぽい彼にしては、頑張っている方だ。

 

「そっか! 漣さんも四門なんだよね!」

「ん……? ああ、そうだぜ。一応な」

「すごいね! 四門って何する人なの?」

「なんだ夕梨、気になるのか?」

「うん! 漣さんのこと知りたいから」

「おいおい、マジかよ!? やる気出てきたぜ!!」


 夕梨の援護により、突っ伏していた漣が復活した。

 

「バカだな」

「……驚くほど単純」

「うるせえ!! いいじゃねえかよ!!」

「はいはい、喧嘩しないよ。じゃあ、四門の説明に入ろうか」

 

 旭の視線が憩へと向いた。

 

「憩、四門の紹介をしてくれるかい? 自分を紹介するのは、少し恥ずかしいからね」

「わかりました! お任せください!」

 

 憩は立ち上がると旭の横に並び、得意げにムン! と胸を張った。




「じゃあ憩、次は千歳の紹介を頼んだよ」

「はい! お任せください!」

 

 東門の旭、西門の朔夜の紹介が終わり、お次は千歳の順番だ。

 憩の隣に立つと、ニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。

 

「……よろしくね、憩」

「うん! 千歳さんのいいところ、たくさん紹介するね!」


 ……いや、そういう場ではないんだけど。

 まぁ、いいか。憩が嬉しそうだと、僕も嬉しい。


 大きく深呼吸をすると、憩は口を開いた。

 

「こちらは、北門の掃除屋・寒凪 千歳さんです! 使用武器は純銀製のチェインで、千歳さんは頭がとってもいいんです。管轄領土は北領で、冬が長くて厳しい所だとお話してくれました。千歳さんは優しくて、お話するのが楽しくて、とってもあたたかい、春みたいな人なんです! それから、本を3冊贈りあったのですが、その内の1冊が同じ漢詩集で――」

「……ストップ、それぐらいでいいよ」


 これ以上話されては、思い出も何もかも公開されてしまう。

 僕だけしか知らない憩を、他の人に知られたくない。


 そんな気持ちを知らぬこの子は、不思議そうな顔で僕を見上げていた。

 

「そうなの? まだ同じ句を選んだことと、博物館に行って埴輪(はにわ)見たこと言ってないよ?」

「……うん、言わなくていいんだよ。全部教えたら、2人だけの秘密がなくなっちゃうでしょ?」

「2人だけの秘密……」

「……うん。僕は嫌だな」

「そうだね……。手繋いだの、秘密にしたいもんね!」

「手!? て、手繋いだのかい!?」


 旭の声は、動揺のあまり裏返っていた。

 千歳はその様子を見て、小さくため息を吐く。


 ……言っちゃったよ。

 でも、これは僕からきちんと旭さんに伝えておくべきことだ。


「……博物館で、憩と手を繋ぎました。これからもそういうことはあると思います。絶対に憩のことを尊重すると約束します。ですので、お許しいただけないでしょうか」


 真っ直ぐに誠意を示された旭は、千歳を見据えながら言葉を返す。

 

「千歳は憩が選んだ相手だ。尊重してくれるのなら咎めはしないよ。ただし、憩を傷付けたり、意に反して無理やり事を進めるようなことがあれば、僕たちは絶対に千歳のことを許さない」

「……わかりました。ありがとうございます」

「まぁ、千歳なら心配はいらないだろうけれどね」

「それでもこうして、きちんと宣言してくれると安心よねぇ」


 ……よかった。とりあえず、旭さんと和さんから許可を得られた。

 

 いつも通りの穏やかな表情を浮かべる2人に、千歳はホッと息を吐いた。


 


「じゃあ最後に、漣の紹介をお願いね」

「はい! かしこまりました!」


 憩が駆け寄ると、漣が立ち上がった。

 

「こちらは、南門の色男・細小波 漣様です。使用武器は純銀製のハンドガンで、遠・中距離での戦闘を得意とされています。管轄領土は南領で、お兄様と同期です。漣様は昔からとても優しくて、楽しい方です!」

 

 最後の四門の説明が終わると、書斎に拍手が響き渡った。

 

「憩、ありがとな! 優しくて楽しいか!!」

「はい! 漣様はとても優しくて、楽しい方です!」

「そうかそうか!! 嬉しいなー!!」

 

 わしゃわしゃ、と憩の頭を撫でる。

 

 俺にとっても、お前は昔からずっとかわいい女の子だよ。

 

「……ちょっと、触らないでよ」

「あ、悪い……、つい癖でよ……」

「……憩、ちょっとこっち来て」

 

 千歳に呼ばれ、憩は側へと駆け寄った。

 

「どうしたの?」

「……ダメだよ、他の人に触らせたら」

 

 千歳は、漣が触れたところを上書きするかのように、わしゃわしゃ、と憩の頭を優しく撫でた。

 

「……うん、これで大丈夫」

「あ、あの……、千歳さん……」

「……うん? どうしたの?」

「えっと、ありがとう。頭、撫でてくれて……」

「……どういたしまして」

 

 ……かわいい。顔、真っ赤になってる。

 細小波さんに撫でられたときは普通だったのに。

 僕のこと、意識してくれてるんだ。嬉しい……。


「ったく、俺らは何を見せられてるんだ……」

「いいじゃない! 憩ちゃん嬉しそうだもの」

「漣さんは簡単に憩ちゃんに触りすぎ!! 次やったら本当に怒るよ!! 私もいるし、憩ちゃんには寒凪さんがいるの!!」

「ご、ごめんて夕梨……、もうやらねえからさ……」

「憩さん、かわいいですね」

「うん、相手が千歳じゃなかったら消してたけどね」

 

 旭のにこやかな一言に、漣の背筋が凍った。


「あ! 雨が降ってきましたね」


 憩の一言で、全員の視線が窓の外へ向く。


 あれ……? 今日って、たしか――。



 ――今日は1日中、過ごしやすいお天気です。雨の気配は全く感じられません。それでは皆様、よい1日をお過ごしください。

 


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