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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ
第3折 それぞれの想い

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50句 さゆらぐうつつ


「か、寒凪(かんなぎ)に恋ぃ? いこがなんで寒凪に恋すんだよ」


 朔夜は素っ頓狂な声を上げた。

 意味がわかんねぇ……。あいつはただの友達で、仲間なだけだろ。

 それにあのいこが、恋なんてわかるわけねぇんだ。

 そう自分に言い聞かせるが、胸がざわざわする。

 

「なんで恋をするか?

 千歳くんが好きだからよ。それ以外あるのかしら」

「だから、寒凪のこと好きってのは、初めての友達で初めての仲間だからだろ?」


 呆れたように答える朔夜に、(なごみ)は大きなため息を吐いた。

 ……わかっていない。

 本当に何も見えていないのね、朔夜くん。

 あんなに憩ちゃんの側にいたのに。

 

「いいえ、違うわよ。

 1人の男として、千歳くんを選んでいるの」

「失礼します!

 みつ豆、ぜんざい、団子お持ちしました!」

「あら、ありがとう。いただきます」


 2人が話していると、甘味が運ばれてきた。

 和は嬉しそうにぜんざいに手をつける。


「……1人の男として? なんでだよ」

「もう、なんでなんでって……。

 少しは自分で考えようとは思わないの?」

 

 ダンッ!!

 

 朔夜は握りしめた拳で、テーブルを思いっきり叩いた。

 その勢いで器が揺れ、ぜんざいがこぼれる。

 

「ちょっと! ぜんざい、こぼれちゃったじゃない!!」

「うるせぇ!! どうでもいいんだよそんなことは!!」


 朔夜の怒号に、客の視線が一斉に集まる。

 和は有名な芸花魁(アイドル)で、顔もよく知られている。

 そんな有名人を連れた男が大声で怒鳴り散らせば、誰だって気になるものだ。

 

「憩ちゃんなら、こんな腹の立つことは言わない。

 憩ちゃんなら、先にごめんねって謝ってくれる。

 憩ちゃんなら、俺の気持ちに寄り添ってくれる。

 そう、思っているんでしょう?

 朔夜くんはね、今の憩ちゃんを見ていないのよ」


 怒りで我を忘れている朔夜に目もくれず、和はぜんざいを口に運びながら話を進める。

 

「んなわけねぇだろ!!」

「朔夜くんは、自分のことを1番頼ってくれて、自分のことを1番好きでいてくれる憩ちゃんが好きなだけ。

 護りたいって気持ちは、本当だったのかもしれないけれど、それによって救われていたのは、朔夜くんの方でしょう?」

「いい加減にしろよ……。適当なこと抜かしやがって……」


 俯いた朔夜の拳は、怒りでブルブルと震えていた。

 普通の女子(おなご)なら、テーブルを叩かれた段階で許しを請うのだろう。

 しかし、相手は和だ。

 そんなもので怯え(すく)むような女ではない。

 

「そんな脅しで私が黙るとでも?

 私はずっと、朔夜くんの歪みを見てきた。

 依存、独占、支配、優越――汚い感情を全部。

 もう、終わりにしたらいいんじゃないかしら」


 そう、淡々と和に告げられ、朔夜は顔を上げる。

 目の前にある和の顔は、どこか悲しそうに見えた。

 

「終わり……? 何を終わらせるんだよ……」

「憩ちゃんへの執着を。

 憩ちゃんはもう、朔夜くんの思い描く女の子じゃないの。

 もう、あなただけの元へは戻ってこないのよ」

 

 ――どうか、これ以上歪んでしまう前に。

 取り返しのつかないことになる前に、己と向き合ってほしい。

 和の願いは、ただそれだけだった。


 


「あー、終わったね!! ぼたん、本当に助かったよ」

「いえ、お役に立てたのなら何よりです」


 椅子にかけたまま、旭はぐいーっと背中を伸ばす。

 夕方には、という目処は立っていたが、想像以上に早く終わらせることができた。

 まだ日も高い時間帯だ。

 

「せっかくだし、食事の前に外に出ないかい?」

「え、でも……」

 

 私は、旭さんと並ぶに相応しい人間ではない。

 服も全てお借りしている物だし、家柄だって天と地の差。

 そんな人間を連れていたら、相楽の家に傷がついてしまうかもしれない……。

 そんなぼたんの様子を見て、旭がふっと笑う。

 

「何かすごく考えてくれているようだけれど、気にしなくていいんだよ。キミは僕の右腕なんだろう?」

「……はい。私は旭さんの右腕です」

「そうだよね。じゃあ、外に出ようか」

「わかりました……」

 

 意気揚々と支度を始める旭に、ぼたんは素直に着いていくしかないのだった。


 


「さぁ、好きな服を選んでくれていいよ」

「いえ! それはできません!!」

「どうしてだい?

 今日のお礼も兼ねてるんだ、遠慮なくどうぞ」

「そんなの無理だって、わかっていますよね!?」

「うん。もちろんだよ」

 

 旭はぼたんを連れて、洋服店へと来ていた。

 しかし、彼女は一向に選ぶ気配がない。

 ダメか……。

 選んではくれないだろうと思ってはいたけれど、ここまで遠慮されてしまうと、少し寂しく感じる。

 憩や和なら大喜びなんだけれど……。

 

「ぼたん、選んではくれないのかい?」

「本来なら、ここは甘えるべきなのでしょう。

 ですが、私にはどうしてもそのような勇気は出なくて……」

「なら、僕が選んでしまっていいのかな?

 ぼたんに似合いそうな物を勝手に贈らせてもらうよ」

「えっ!? あの、そこまでしていただかなくても……」

「ぼたんに拒否権はないだろう?

 だって、僕はキミの雇主なんだから。受け取ってね」

 

 あまりこういうことは言いたくないんだけれど、こうでも言わないと彼女は受け取ってくれないだろう。

 汚いやり方だけれど、今はこうするしか他に方法はない。

 

「すみません……、ありがとうございます」

「気にしなくていいんだよ。

 もし、何か返そうなんて思ってくれているのなら、その服を着て、また僕と外に出てくれると嬉しいよ」

「わかりました。次は、こちらを着て外に出ましょう」

「うん、約束だからね」

 

 これが少しでも自信に繋がってくれれば……。

 そんなことを思いながら、旭はぼたんの隣を歩いていた。



 

「……見て、憩。熊の剥製だ」

「大きいね! 手が千歳さんの顔より大きい!」

「……本当だ。襲われたら大変だね」

「千歳さんなら熊も倒せるでしょ?」

「……倒せるし、倒したことあるけど」

 

 千歳と憩は熊の剥製を前に談笑していた。

 もちろん、手はしっかり繋いだままで。

 

「北領には熊がいるの!?」

「……いるよ。割とたくさん」

「すごいね! 熊のお肉って美味しいのかな……」

「……お腹減ったの?」

「えへへ、当たり!」

「……外に出たら、何か食べに行こうか」


 その言葉に、顔を綻ばせるかわいい子。

 もうすぐ展示も終わってしまう。

 この楽しい時間が終わってしまう……。

 そういえば、細小波(いさらなみ)さんたちと1度も会わなかったな。

 

「熊って、食べれるの?」

「……そんなに熊食べたいの?」

「食べれるなら、食べてみたいな!」

「……ほら、熊以外にも剥製あるよ」


 千歳の想いとは裏腹に、憩は熊肉に興味津々だ。

 そんな子の手を引いて、別の剥製の前へと移動する。


「わぁ、かわいい! 狐だ!」

「……ふわふわだから、冬毛かな」

「見ただけでわかるの? 千歳さん詳しいね」

「……北領にいたからね」

「そうなんだ! すごいいっぱいいるんだね!」

「……北領は、帝都みたいに栄えてないから」


 狐の剥製を、憩は食い入るように見ている。

 屋敷から出られなかったこの子には、こういう動物なんかも全て珍しいんだろう。

 北領に連れていってあげたい。

 そしたら、自然もたくさんで動物もたくさんいる。

 きっと憩は、そういうところが好きだと思うんだ。

 

「……あ」

「あ?」

「……次は、動物園なんてどうかな?」

「動物園?」

「……うん。憩、動物好きみたいだから。

 また今日みたいに、一緒に出かけてくれる?」

「もちろん! あのね、千歳さん……」


 僕の名前を呼ぶと、憩はモジモジし始めた。

 何か、言いにくいことでもあるのだろうか。

 繋いでいる手から、緊張してるのが伝わってくる。

 

「あのね……。私、千歳さんとお出かけするの大好きなの。

 だから、その……、お伺いしてくれなくても大丈夫だよ」

「……お伺い」

「うん。一緒に出かけてくれる? って聞かなくていいよ。

 動物園に行こう、だけでいいの。その方が嬉しいな……」


 僕はきっと、口が半開きになっていたと思う。

 それぐらい、その言葉があまりにも衝撃的だった。

 なんてかわいいお願いなんだろう……。

 

「……わかった。じゃあ、やり直しさせて」

「やり直し?」

「……うん」

「わかった」

「……憩、次は動物園に行こうね」

「うん! すごく楽しみ!」


 そんな話をしていると、出口への案内が見えた。

 もう、2人だけの時間は終わりだ。

 どちらともなく、キュッと手を握り直す。

 

「……もう、出口だね。楽しかった?」

「とっても楽しかった! 千歳さんは?」

「……僕も楽しかった。お土産見に行こうか」

「うん! お兄様の分と、お姉様の分と……」

 

 楽しそうに指を折る憩の手を引きながら、千歳は次のデートへの想いを、静かに膨らませていた。



 

「見て、(れん)さん!

 さっきの埴輪(はにわ)のポストカード!」

夕梨(ゆうり)がかわいいって言ってたやつか?」

「うん! これ買っていこうかなぁ」

「買うのか!? 憩と好み合いそうだなー」


 漣と夕梨は、博物館の土産物を見ていた。

 とは言っても、漣が見ているのは夕梨だが……。

 

「憩ちゃんも埴輪好きなの?」

「いや、そういうことじゃなくてよ」

「あ! 漣様と夕梨さんだ!」

「あー! 憩ちゃんと寒凪さん! やっと会えた!」

「……早かったですね」

「夕梨が興味あるやつしか見なくてよー。

 お前らは……、楽しめたようでよかったな!!」

 

 手を繋いでいる2人を見て、漣は揶揄うこともなく目を細める。

 別行動にしてよかったと、心から思った。

 

「……そっちこそ。告白できたの?」

「いやー、それが夕梨に先越されてよ!!

 もう嬉しくてたまんねえよ、俺は幸せだ!!」

「……どうにかなっちまいそうだぜ、って?」

「おう! どうにかなっちまいそうだぜ!」


 千歳の言葉に、漣は嬉しそうに乗っかる。

 男性陣が盛り上がっている中、女性陣も盛り上がっていた。

 

「見て見て、憩ちゃん! この埴輪見つけた?」

「あ! 1番かわいかった埴輪です!」

「だよね! 私、このポストカード買うんだー!」

「いいですね! 私はこの狐にしようかな……」


 千歳と見た、狐が描かれたポストカードに憩は手を伸ばす。

 次は動物園――そんな期待を乗せて。

 

「……何か見つけた?」

「これ! 狐!」

「夕梨、本気でそのポストカード買うのか?」

「うん! お部屋に飾るの! 漣さんも買う?」

「いや、俺はいいよ……」

「ねぇ、千歳さん。私、お腹空いちゃった……」


 もう、憩の空腹は限界が近いのだろう。

 すっかり元気もなくなり、眉が下がっている。

 

「……そうだよね、熊の剥製から我慢してたもんね」

「あの剥製、美味しそうだったよね!」

「夕梨さんも思いましたか!? 美味しそうでしたよね!」

「いや、お前らの感覚マジでわかんねえ……」

「……お土産買って、ご飯食べに行こうか」

「よし! 俺がご馳走してやんよ!」

「……いいよ。お金ないくせに」


 千歳の言葉に、4人の笑い声があがる。

 こうして、博物館デートは終わりを迎えた。


 

活動報告に、キャラのこぼれ話をアップしました⭐︎

よろしければご覧ください٩( 'ω' )و

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