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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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39句 春草


「改めまして、雲居(くもい)ぼたんと申します。

 白銀の皆様、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 翌朝、旭によってぼたんは相楽家へとやってきた。

 父親も無事に入院し、今日からは屋敷で生活する。

 

「ぼたんさん!

 今日からよろしくお願いいたします」

「憩さん、本当にありがとう。

 これから、どうぞよろしくね」

「女の子が増えるって最高だな!!」

「……気持ち悪い」

「お前、部屋の鍵はちゃんと閉めろよ」

「そうだね。戸締りはしっかりするように」

「そうねぇ、女の子だもの。護身は大切よ?」

 

 急に現れた声の主に、全員が振り返る。

 

「お姉様! おかえりなさいませ!」

「ただいま、憩ちゃん。新しいお友達かしら?」


 (なごみ)はギュッと、憩を後ろから抱きしめた。

 

「おかえり和。ぼたんだ。

 今日から僕の書記として働いてもらう」

「あらあら、そうなの?

 初めまして、和です。よろしくねぇ」

「和さん、よろしくお願いいたします」


 和に挨拶され、ぼたんは深々と頭を下げる。

 

「そんなに固くならなくていいのよ?

 お兄様ばっかりずるいわ。私も書記欲しいのに」

「和には必要ないだろう?」

「あるわよ。揮毫(サイン)するの大変なのよ?」

揮毫(サイン)?」

「和は、吉原の芸花魁(アイドル)なんだ」

「そうなの、これでも人気者なのよ」

「私の自慢のお姉様なんです!

 もちろんお兄様も、自慢のお兄様です!」

 

 素敵な兄妹だな……。

 私はひとりっ子だったから羨ましい。

 だからこそ、ゆりのことがかわいくて仕方がないのだけれど。

 

「じゃあお兄様、私の書記も考えておいてね」

「和が書くから意味があるんだろう?

 他人が書いたんじゃ、揮毫(サイン)の意味がないよ」

「はいはい、小言は聞かなかったことにしておくわぁ。

 お兄様はいちいち細かいんですもの。それではごきげんよう」

 

 にっこり笑うと、和は部屋へと去っていった。

 

「相変わらずだなー、和も」

「憩とは違う意味で自由だからね。

 じゃあ、書斎で今日の偵察について会議をするよ」

 

 旭の一言で、6人は書斎へと移動するのだった。


 


「――ということだから、潜入は千歳と憩。

 今日も2人には中から店を探ってもらう。

 僕たちは、常連客と接触するために外で張る。

 ぼたん、早速だけれど一緒に来てもらうよ」

「わかりました」

「お昼のカフェー楽しみだね!」

「……そうだね」

「ぼたんちゃんが一緒かー!! やる気出るな!!」

「いつもやる気出せよ」

「いつもやる気あっけど、今日は特別やる気出るってことだよ!!」

「うるせぇな、耳元で騒ぐんじゃねぇよ」

「はいはい、騒がないでね。

 憩、和にぼたんのコーディネートを頼んでくれるかい?」

「わかりました!」

「すみません、こんな服しかなくて……」

 

 これは、父さんが誕生日に買ってくれた大切なワンピースだ。

 私にとっては1番上等な服だけれど、相楽の方たちから見ればやっぱり恥ずかしい物なんだ。

 仕方がない……。

 相応しくないと思われて当然だ。

 だってここは、その名を知らぬ者はいない名門なのだから。

 ぼたんは俯くと、グッと手を握りしめた。

 

「違うよ、ぼたん。

 その服には、大切な思い出が詰まっているだろう?

 汚してしまったら申し訳ないからね。

 ここにいる間はうちで全てを用意するから、思い出は汚さないように大切に保管しておくといい」

「お兄様の言う通りです!

 今度、一緒に服を見に行きましょうね!」

 

 どうして、この人たちはこんなにあたたかいのだろう……。

 私なんて、相楽の家に相応しい人間じゃないのに。

 雑用として拾ってもらったとしても、分不相応なのに。

 書記として雇ってもらえて、父さんの入院先まで……。

 

「ぼたんさん、大丈夫ですか……?」

 

 相楽家の優しさに触れ、思わず涙が溢れた。


 


「あーあ。旭が泣かせたぞ」

「え、僕……?」

「おい、テメェ! 適当なこと言うなよ!!」

「……誰が、とかじゃないと思うけど」

「とりあえず、お姉様のところに行きましょうか!」

 

 憩はぼたんの手を引くと、書斎を出ていった。

 

「いや、旭だろ! 泣かせたのは絶対旭だ!」

「……すごい自信。上官に言うことじゃないし」

「彼女を傷付けるようなこと、言ってしまったかな……」

「テメェが適当なこと言うから、旭が落ち込んでんじゃねぇか!!」

「だってそうだろ!? 旭だろ泣かせたの!!」

「服のこと、触れたのがいけなかったのかな……」

 

 大切にしていることはすぐにわかった。

 だから、よかれと思って提案したが、それが皮肉に捉えられたのかもしれない。

 彼女はおそらく、自らを卑下している。

 生まれなんて、自分ではどうしようもないのに。

 父親に愛され、夢を追ってきた子が低俗なわけがないのに。

 

「……きっとここにいれば、彼女の考え方も変わってくると思いますよ」

「そうかな。そうだといいんだけれどね」

「……旭さんや憩、和さん。

 相楽家って、僕たちから見ると天上の人なんです。

 そんな人たちが自分の目線まで降りてきてくれて、否定もせず受け入れてくれたら、嬉しいに決まってます」

 

 天上の人、か。

 たしかに相楽は知らぬ人がいないほど名門だ。

 でも、その評価は自分たちについているわけではない。

 僕たちはただの兄妹だ。僕は旭で、和は和、憩は憩。

 僕たちが優れているわけではない。

 だけど、どこへ行っても評価は勝手についてくる。

 言うなれば、僕たちも生まれを選べなかった。

 

「僕はぼたんにも、みんなと同じように接してほしい。

 雇用主ではあるけれど、大切な家族でもあるんだから」

「……そうですね。きっと、伝わっていますよ」

「ありがとう、千歳」

 

 きっと、憩は千歳のこういうところに惹かれたんだろう。

 兄として、なんだか千歳に惹かれている憩が誇らしくなった。


 


「さすがですお姉様!

 ぼたんさんとってもかわいいです!」

「ぼたんちゃん、素がとってもいいから、思わず本気出しちゃった!

 すごくかわいいわよ!」

「あ、ありがとうございます……」

「これでお兄様もイチコロよ! ね、憩ちゃん!」

「お姉様、イチコロってなんですか?」

「えーっと……。

 かわいすぎて、困っちゃう!

 って感じかしら」

「なるほど! お兄様もイチコロですね!」

「いや、あの、そんなことはないと思います……」

 

 この美人姉妹に挟まれて、イチコロはない。

 どれだけかわいい服を着せてもらっても、どれだけかわいくお化粧してもらっても、私は私。

 雲居ぼたんでしかない。

 

「さぁ、早くお兄様に見せに行きましょう!」

「賛成! ぼたんさん行きましょう!」

 

 2人に手を引かれ、書斎へと戻る。

 泣いてしまったこともあるし、正直少し気まずい。

 なんだか、少し荒れているような気もする……。

 

「お兄様、お待たせしました!」

「ぼたんちゃんかわいいし、本気出しちゃった!」

「はいはい、ちょっと待ってね」

「待てないわ。早く見てほしいのよ!」

「ぼたんさん、とってもかわいいんですよ!」

「「お兄様、早く!!」」

「わかったから。

 2人とも、あんまり騒がないんだよ」

 

 そんなに騒いでは、ぼたんが萎縮してしまう。

 彼女には、父親と暮らしていた頃と変わらない姿で、この屋敷でも生活してもらいたいと思っているのに。

 ……ほら、俯いてしまっているじゃないか。

 

「ぼたん、とてもよく似合っているよ。

 今日は和の服だけれど、後日きちんと買いに行こう」

「そんな、私なんかに……!!」

 

 顔を上げた彼女に驚いた。

 元々綺麗な顔立ちをしているとは思っていたが、和が少し化粧をしたのだろう。

 淡く色付く頬や唇が、彼女を引き立てている。

 まさにぼたんの花ようだ。艶やかに咲いている。

 

「あ……、えっと……」

「お姉様の言った通り、イチコロでした!」

「でしょう? お兄様でもイチコロよねぇ!」

「和!!

 憩に余計なこと教えないように言っているよね!!」

「やべえ、旭が大声出してるぞ!!」

「旭は妹に弱ぇからな」

「……ちょっと、面白いかも」

 

 つい、みんなの前で大声を出してしまった。

 こんな姿を見せては、ぼたんも不安になるじゃないか。

 本当に、この姉妹は……。

 

「お兄様、ちゃんとぼたんちゃんに思っていること、伝えてあげないとダメよ?」

「お兄様! かわいいですよね!? ね!?」

 

 和は計算してやっているし、憩は単に無邪気。

 この2人が揃うと本当に厄介だ……。

 でも、このままではぼたんに失礼なのも事実だ。

 

「えっと、その……。

 と、とてもかわいらしい、と思う……」

「あ、ありがとうございます……」

 

 様々な想いが交差する中、こちらでもまた、新たな想いが芽を出そうとしていた。


 


活動報告にキャラのこぼれ話をアップしました♪

よろしければご覧ください⭐︎



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