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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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38/40

38句 春暁


 一方、こちらの3人は、ぼたんの家に向かうべく車を走らせていた。

 

「明日の朝も迎えに来るからね」

「そんな、そこまでお世話になるわけには……」

「チッ……、うるせぇな。

 旭がいいって言ってんだから、いいんだよ」

「朔夜、そんな言い方をしたら怖いだろう?

 これから屋敷で一緒に生活をするんだよ。

 わかっているよね?」

「わかってます……、すみません……」

 

 憩がいないと幾分か素直だ。

 ぼたんが怪しくないと、頭ではわかっているんだろう。

 憩が絡むと、感情だけが前に出るんだから。

 全く、困ったものだ。

 

「ぼたん、お父様の病院も今晩の内に決める。

 今後の話をしたいから、少し上がってもいいかな?」

「もちろんです。ありがとうございます」

「そこまでするんですか?」

「当たり前だろう?

 入院のこともきちんとお伝えしなければいけないし、何より大事な娘さんをお預かりするんだ。

 どこぞの馬の骨かもわからない相手じゃ、安心できないだろう?」

「たしかに、旭の言う通りですね……」

「わかったなら、もうこの話は終わりだよ。

 そうだ、僕たちのことについて詳しく話してなかったね」

「私が聞いても、大丈夫なのでしょうか?」

「もちろん。

 知っていてもらわないと、書記として困るからね」

 

 旭は、特務部隊という組織のこと、憩の神子の血についても、全て隠さずぼたんに話した。

 

「そういうわけだから、普段は一般陸軍を名乗っている。

 申し訳ないけれど、お父様にも本当の身分は明かせない」

「わかりました。話は合わせます」

「ありがとう、助かるよ」

 

 物分かりのいい子だ。

 やはり、書記にしてよかった。

 

「何も、いこの血のことまで言わなくても……」

「そういうわけにはいかないよ。

 今後、共に潜入してもらうこともあるかもしれない。

 知らせておかないと、困るのは僕たちだろう?」

 

 朔夜はとてもいい子だけれど、憩を囲いすぎる。

 あの子は最近、それに気づいて距離を取り始めている。

 本人だけが気づいていない。

 いや、現実を見ないようにしているのかもしれない。

 

「そうですね……」

「あの……、1つお伺いしてもよろしいですか?」

「うん、もちろんだよ」

「私を屋敷に入れてよかったのでしょうか?

 憩さんの血のこともあって、(そま)さんは私を警戒していたんですよね?

 私が、その、吸血鬼(ヴァンパイア)ではない確証はないわけで……」

 

 本当に賢い子だ。

 今の説明で、そこに疑問を持つのだから。

 

「お前が屋敷に入れた段階で、その線はねぇよ」

「あの、どういうことでしょうか?」

「奴らは、家主の許可がないと中に入れねぇんだ。

 お前は爺さんの許可を求めなかったし、普通に屋敷に入っただろ?

 だから、その時点で吸血鬼や眷属(スロール)じゃねぇってわかんだよ」

「なるほど、そういう制限があるのですね……」

「だから、ぼたんもその点に関しては安心してくれて構わないよ。

 キミのことを疑ったりは誰もしないからね」

「ありがとうございます……」


 こんなこと、普通に生活していれば知らなくて当然だ。

 だが、政府はいつまで奴らの存在を隠し続けるつもりなのだろうか。

 特務部隊が組織されて、20年以上が経った。

 奴らも人の生活に馴染んで、やり方も巧妙になってきている。

 隠し通せなくなるのも、もはや時間の問題だ。

 

「旭さん、そこの角を曲がったところが家です」

「よし、じゃあ挨拶に行こう」

 車を停め、3人はぼたんの家へと向かうのだった。


 


「申し訳ございませんが、少々お待ちください」

 

 玄関へと上がると、ぼたんにそう声をかけられた。

 急な訪問だ。色々用意もあるだろう。

 申し訳ないとは思うが、道理は通すべきだ。

 

「父さん! 寝ててって言ったよね!」

「いやあ、今日は体調が幾分かよくて。

 ぼたんの好きなご飯でも作ろうかと思ってさ」

「もう……。お客様が来てるの。

 父さんに話があるから上げてもいい?」

「なんだなんだ!? 恋人か!?」

「違うよ!!」

 

 全部筒抜けだ。仲のいい親子なんだろう。

 正直、羨ましいくらいだ。

 

「すみません、お待たせいたしました。どうぞ」

「ありがとう、お邪魔します」

「お邪魔します……」

 

 ぼたんに連れられ、居間へと通される。

 痩せ細った男性が、ニコニコとこちらに笑顔を向けている。

 彼が父親だろう。

 笑顔だが、相当身体は辛いはずだ。

 

「こんばんは、夜分遅くに申し訳ありません。

 帝国陸軍特務部隊所属、中将の相楽 旭と申します」

「同じく少将の(そま) 朔夜と申します」

「これはこれは! 娘が何か粗相をしたのですね!

 大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした!」

 

 額が床に付くほど頭を下げられた。

 急な陸軍の訪問、しかも自分は中将だ。

 こうなることも、予想はついていた。

 

「いえ、そのようなことはございません。

 とても、素敵なお嬢様です。

 ぜひ、私の専属書記になっていただきたく、お願いに参りました」

「専属書記!? 中将様のですか!?」

「父さん! そんな大きな声出したら失礼だから」

「す、すまん……。

 あの、1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「はい。心配でしょうから、なんでもお尋ねください」

「なぜ、うちの娘なのでしょうか?

 もちろん、父親の私から見てもとてもいい子です。

 ただ、中将様は相楽様のご子息でもあるんですよね?」

「お父様の仰る通り、私は相楽の長子です。

 いずれは家を継ぐ立場にあります。

 ぼたんさんには、その右腕になってほしい。

 彼女の教養の深さ、所作や言葉の美しさは群を抜いています。

 私は、彼女だからお願いしたいのです」

 

 何1つ、偽りはない。

 僕はいずれ、相楽を継ぐ立場にある。

 そこに、物分かりがよく聡いぼたんがいてくれれば非常に助かる。

 

「父さんのね、入院先も探してくれるんだって。

 やっと、病気をちゃんと治せるよ。

 私、旭さんのところで頑張るから。

 だから父さんも元気になって、必ず帰ってきてね」

「どうして、どうしてそこまで私たちなんかに……」

 

 声が震えている。

 今まで、どんな扱いを受けてきたのだろう。

 人は、家柄や財力で判断されるものではないのに。

 

「相楽で働いてくれている方たちは、皆家族です。

 その家族の家族もまた、私の家族ですから。

 実をいいますと、妹がぼたんさんを大変気に入りまして。

 無下に扱うようなことがあれば、私が妹に叱られます」

「そうですか……。

 旭様、温かいお心遣い痛み入ります。

 娘は昔から、書記を夢見ておりました。

 その夢を相楽様で叶えていただけるなんて……。

 どうかどうか、娘をよろしくお願いいたします」

「はい。大切にお預かりさせていただきます。

 では、恐縮ながら明日以降の話をさせていただきます」

 

 こうして、父親の入院と、ぼたんの相楽家への正式雇用が決定した。


 


「なあー、何も並んで座る必要なくね?」

「正面に座る必要もないですよね?」

「それは、そうなんだけどよー……」

 

 旭たちがぼたんの実家で挨拶をしている頃、千歳と憩は並んで本を読んでいた。

 

「ねぇ、千歳さん。この詩見て!」

「……うん? どれ?」

 

 だからよー、顔近すぎんだろ……。

 寒凪(かんなぎ)お前、杣がいたら殺されてんぞ……。

 

「これ、この句」

「……ははっ、お腹空いたの?」

「当たり!」

 

 は? 今寒凪笑った……? 笑った、よな……?

 つーか、憩といると穏やかだな。

 俺なんか、うざい、バカ、アホ、変態しか言われたことねえのに。

 

「……ねぇ。ずっとそこにいて、何してるの?」

「別にー、お前らのこと見てるだけだよ」

「……うざ」

 

 ほら! 寒凪はこういう奴なんだよ!

 だから、そういう雰囲気やめろよなー!

 羨ましい……。

 

「明日はお昼から潜入するんだよね?」

「……そうだよ。憩はいつも通りでいいからね」

「わかった! 早くゆりさん見つかるといいね!」

「……そうだね」

「お前はやっぱりいい子だなー!!」

 

 (れん)はわしゃわしゃと憩の頭を撫でる。

 本当に憩は素直で優しくてかわいくていい子だ!

 ガキの頃から見てるけど、ずっと変わらねえんだよなー。

 

「……いつまで触ってんの」

「そ、そんな怒んなくたっていいだろ?」

「……怒ってない」

「いや、どう見ても怒ってるだろ!!」

「漣様、千歳さんが嫌そうなので、やめていただいてもよろしいですか?」

 

 千歳さんが嫌そうなので……?

 自分が、じゃなくて、寒凪が嫌そうだから……?

 

「千歳さん、ごめんね」

「……憩は悪くないよ、悪いのは細小波(いさらなみ)さんだ」

「ごめんって。もう邪魔しねえよ」

「……言ったからね。邪魔しないでよ」

 

 それはどういう意味の邪魔しないで、だよ……。

 俺は杣にも幸せになってほしい。

 だけど、だけどよ……。

 

「お似合いなんだよなー……」

 

 複雑な思いを抱えたまま、漣は2人を見ていた。


 


「悪かったね、付き合わせて」

「いや、大丈夫です」

 

 明日以降の説明も終わり、旭と朔夜は帰路へついていた。

 

「いいお父様だったね」

「そうですね。

 娘を大切にしてるのがわかりました」

「挨拶をしに行って、よかっただろう?」

「別に……、あいつのこと認めてないわけじゃないです」

「わかっているよ。朔夜は素直じゃないからね」

 

 もっと自分に正直になってくれていいのに。

 そうやって自分を押し殺していると、大事なものを失うよ?

 

「あの、なんで俺を連れてきたんですか?」

「もし、吸血鬼(ヴァンパイア)が出ても朔夜となら安心だろう?」

「まぁ、寒凪よりは……」

「そこで、千歳が出てくるんだ」

「か、寒凪は近接じゃないですし!!」

「それを言うなら、漣だってそうさ」

「そうですね……」

 

 だいぶ千歳を意識している。

 そんなことよりも、するべきことがあるだろう。

 まずはそこに、気づかないとね。

 その後は特に会話もなく、旭は車を走らせた。

 

 

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