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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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35/40

35句 春心


「少し歩くのですが、大丈夫ですか?」

「はい、いつも歩いていますので問題ありません」

 

 憩とぼたんが並んで歩き、千歳はその後ろを歩いていた。

 何かあっても、この距離なら絶対に護れるからだ。


「そうなのですね。

 ということは、家からカフェーは近いのですか?」

「いえ、ここから町を1つ通りすぎた先に家があります」

「それは、毎日お仕事に行くだけでも大変ですね。

 どうして、あのカフェーでわざわざお仕事されているのですか?」

「あのカフェーは、お給金が他と比べて高いので……」

 

 やっぱり、憩は話を聞き出すのが上手い。

 この短時間で情報をどんどん得ている。

 ……本人は、ただ話しているつもりなんだろうけど。

 

「もしかして、お金が必要なのですか?」

「実は、父が病気で……」

「それはそれは……。

 今はご自宅で療養されているのですか?」

「はい。でも薬代も高くて……。

 普通の仕事では、とてもとても……」

 

 ……どういうことだ?

 お金が必要であれば、上で働くという手がある。

 その方が稼げるのは、ぼたんさんもわかっているはずだ。

 

「……それならなぜ、上で働かないんですか?」

「うん? 千歳さんどういうこと?」

「……上の方がね、忙しいんだ。

 だから、上で働いた方が給金が高いんだよ」

 

 この子に、あの世界の真実を教える必要はない。

 嘘にならない程度に、必要なことだけ伝えればいい。

 

「へぇー、そうなんだ。

 それなら、上で働いた方がいいもんね」

「……それで、どうして上ではなく下で働いてるんですか?」

「あの……、それは……」

 

 何か言えない理由があるのか?

 もしかして、僕たちが探っていることがバレている?

 それとも、単に上で働くのが嫌なのだろうか。

 そうだとしても、何もおかしなことではない。

 ただ、それが理由なら隠す必要はないだろう。

 

「ぼたんさん、教えていただけませんか?

 どんな理由でも、私たちはぼたんさんの味方です!」

 

 憩のニコニコとした明るい笑顔に、強張っていたぼたんの顔が少しだけ柔らかくなる。

 

「私も最初は、上で働きたいとオーナーに伝えました。

 でも、それはできないと断られてしまったんです」

「……断られた?」

「はい。父が病気だからとお願いしたんです。

 でも、家族がいるなら無理だ、と言われてしまって」

「……なるほど。他に何か言われましたか?」

「えっと……、上で働くなら住み込みでないと困る、とも言われました」

「ゆりさんは住み込みだったのですか?」

「はい。ゆりとは店で出会ったのですが、身寄りがないようで、住むところができてよかったと喜んでいました」

「……身寄りがない、住むところもない」

「千歳さん、どうしたの?」

「……もう少し、詳しく聞かせてください」

 

 この話には裏がある。千歳はそう思った。


 


「もう家に着くから、帰ってからにしない?

 ぼたんさんは紅茶とコーヒーどちらがお好きですか?」

「えっと……、どちらも飲んだことがなくて……」

 

 それもそうだろう。

 父親の薬代を必死に集めている様な人が、嗜好品にわざわざお金をかけたりはしない。

 憩は生まれながらのお嬢様だ。

 そのあたりの感覚は違う。

 

「では、どちらも試してみましょうか!

 どちらも苦手であれば、お茶もありますし」

「よろしいのでしょうか……。

 私、何もお返しできるような物がなくて」

「お返しなんて、いらないですよ?

 私がやりたくてやっているので!」

「でも……」

「でしたら、私とお友達になってくれませんか?」

 

 ……友達。

 その言葉に、正直胸が苦しくなった。

 唯一がなくなってしまう。僕と憩だけだったのに。

 ……こんなこと思うなんて、なんて嫌な奴なんだろう。

 

「私なんかでよければ……」

「ぼたんさんがいいんです! ありがとうございます!」

 

 憩が嬉しそうにしている。なら、僕も嬉しい。

 そのはずなのに……。

 

「千歳さん? どこか具合でも悪いの?」

「……大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない顔してる」

「……ごめん、嘘ついた。

 でも、具合が悪いわけじゃないよ」

「じゃあ、どうしたの?」

 

 心配そうに僕を見上げている。

 この子に嘘は通用しない。

 

「……僕だけが友達じゃないんだって、そう思ったら少しだけ悲しくなった。

 ごめん」

「ご、ごめんなさい……」

「……憩は悪くない。僕がわがままなだけだ」

「違う!

 私も、きっとカフェーで同じだった……」

「……えっ」

「千歳さんが他の女の人と話したり、優しくしたり、それを見てたら嫌な気持ちになったから、多分同じだと思う……」

 

 もしかして、それで急に大声を?

 僕が、女給と話していたから?

 ……そんなことを言われたら、期待してしまう。

 

「……憩、あのね」

「なんだー!? お前らも今帰ってきたのかー?」

 

 千歳の言葉を遮ったのは、(れん)だった。


 


「あ! 漣様!」

 

 細小波(いさらなみ)さんが来てくれてよかった。

 僕は一体、何を言おうとしているんだ。

 これ以上、踏み込んだら壊れてしまうかもしれない。

 そんなの……、そんなの絶対に嫌だ。

 

「千歳、どうしたんだい?」

「……旭さん、お疲れ様です」

「お疲れ様。何か考え事かい?」

 

 漣に続き、旭と朔夜も合流する。

 白銀の集結だ。

 

「お兄様! お友達を連れてきたんです!」

「あー!!

 なんかめっちゃかわいい子がいるぞ!!」

「……あの、旭さん」

「テメェうるせぇんだよ!!」

「俺、漣ていうんだけど!

 名前聞いてもいいかなー?」

「いいわけねぇだろ!! 気持ち悪ぃな!!」

「朔夜、うるさいよ。ぼたんさんびっくりしてる」

「……えっと、彼女は」

「ぼたんちゃんって言うのかー!!」

「ごめん、千歳。ちょっと待ってね」


 パンッ!!

 

 旭が手を叩くと、全員が口を閉じる。

 

「はいはい、みんな静かにしようか。

 それで、この女性が憩の友達なのかい?」

「はい! ぼたんさんといいます」

「友達って、どこで拾ってきたんだよ」

 

 朔夜は疑心に満ちた目でぼたんを見る。

 憩に害をなすようなら、すぐさま処理しそうな勢いだ。

 

「そういう言い方しないで!

 私がお友達になってってお願いしたんだから!」

「はぁ? なんでこんな素性の知れない奴選ぶんだよ」

「素性ってなに? ぼたんさんはぼたんさんでしょ?

 最近の朔夜、なんで意地悪ばっかり言うの?」

「別に、意地悪してるわけじゃ……」

「はい、喧嘩しないでね。

 千歳、ちょっといいかい?」

 

 旭と千歳は、4人から少し離れた場所へと移動した。


 

 

「急に呼び出して悪いね。

 あの子とは、カフェーで知り合ったのかい?」

「……ぼたんさんは、昨日お伝えした女給です」

「それは本当かい?」

「……はい。憩が強引に約束を取り付けて、今に至ります」

「ははっ、強引か。憩らしいね。

 それで、何か情報は持っていそうなのかい?」

 

 旭さんの目は、ぼたんさんを見極めようとしていた。

 当たり前だ。

 憩を危険な目に合わせるわけにはいかない。

 今ここで僕に確認をしているのも、屋敷まで連れていく価値があるか否かを判断するためだ。

 

「……情報を持っている自覚は薄いです。

 ですが憩なら、彼女から上手く聞き出せます」

「言い切れるんだね?」

「……はい。カフェーの2階で働くには、住み込みと身寄りがないことが条件だそうです。

 この情報も、憩がいなければ聞き出せませんでした」

 

 ふぅ、と旭さんはため息吐く。

 素性の知れない人間を屋敷に招くのはリスクがある。

 杣さんも、憩のことを思ってるからあんなことを言う。

 結果として、意地悪だと言われてしまっているけど。

 

「わかった、ありがとう。戻ろうか」

「……はい」

 

 憩が僕の方へ駆けてくる。

 そんな憩の背後から感じる杣さんの視線が痛い。

 

「千歳さん! お兄様と何話してたの?」

「……憩がカフェーで、シベリアとプリンを食べた話をしたんだ」

「そうなの? ロールケーキも食べたよ!」

「……そうだね、ロールケーキも食べたね」

「2人は本当に仲良くなったようだね」

「はい! 千歳さんは初めてのお友達なんです!」

 

 憩が嬉しそうに、旭さんに報告している。

 それを聞いている旭さんの顔も嬉しそうだ。

 この兄妹、本当に笑った顔が似ている。

 

「千歳、憩と仲良くしてくれて本当にありがとう。

 これからも、仲良くしてくれると兄として嬉しいよ」

「……感謝されるようなことは何も。

 それに、感謝しているのは僕の方ですから」

「千歳さん、これからもずっとよろしくね!」

「……うん、僕の方こそこれからもよろしく」

 

 色付き始めた2人の想いを見守るかのように、旭は静かに微笑むのだった。


 

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