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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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33/40

33句 春陰


「……憩、何か飲み物頼もうか?」

「…………」

「……憩、聞こえてる?」

「…………」

「……憩」

 

 ダメだ。完全に本に集中している。

 

「……次から、読書禁止にしないと」

 

 ……せっかく一緒にいるのに。

 いや、違う違う。仕事中だからだ。

 

「あー、面白かったー!」

 

 客の視線が一斉に集まる。

 今日もカフェーは大繁盛だ。

 

「……憩、声が大きいよ」

「あ、ごめんなさい……」

「……読み終わったの?」

「うん!

 主人公が、自分の道は自分で決めたからって、困難を乗り越えていくのがかっこよかった!」

「……うん、絶対に諦めないんだよね。

 止められても、好きな人の側にいるって」

「『どうして、どうして貴方は、遠くに置くことが護ることだと思ってるの?

 私だって、貴方を護りたいのに!』ってところでしょ!?

 危険なのがわかっていても、隣にいたかったんだろうな……」

「……きっと、そうなんだろうね」

 

 自分の贈った本の感想を、これほど語ってくれるとは思わなかった。

 やっぱり、憩といると心地良い。

 

「千歳さんといるの、やっぱり楽しいなー!」

「……本当?」

「うん! お話も楽しいし、千歳さんが知ってる世界を教えてもらえるのが嬉しい!」

「……僕の、知ってる世界?」

「うん! 北領のこととか、博物館のこととか!

 もっともっと、千歳さんのことを知りたいなー」

「……僕も憩のこと、もっともっと知りたい」

「えへへ、一緒だね!」

 

 花が咲くようなこの子の笑顔が散ることがないよう、隣で護り続けたいと思った。


 


 憩と話をしていると、昨日の女給が目に入った。

 

「……憩、今日もお願いしていい?」

「もちろん。お話すればいいんだよね?」

「……うん。何も気にせず話してくれたらいいよ」

「わかった! じゃあ何か注文しないと」

 

 2人はコーヒーを注文し、女給が運んで来るのを待っていた。

 

「失礼いたします。お飲み物をお持ちしました」

「ありがとうございます!」

「……どうも」

 

 昨日と同じ女給が来てくれればと思ったが、そう上手くいくわけがない。

 別の女給だ。

 

「お忙しそうですね」

「えぇ、おかげさまで。昨日もいらしてましたよね?」

「あら、覚えていていただき光栄です」

「まぁ、目立ちますので」

「それはそれは。ご迷惑でしたか?」

「そういうのは、私が決めることではないので」

 

 随分トゲのある話し方をする女給だ。

 それに憩が話しているのに、ずっと僕を見ている。

 

「あの、千歳さんとお話しがしたいのですか?」

「な、いや、そ、そういうわけでは……」

 

 目が合うと、女給の頬が淡く染まる。

 そういうことか。

 

「……こんばんは」

「あ、こ、こんばんは……」

 

 先ほど、憩と話していたときのようなトゲはなく、むしろ消え入りそうなほど、か細い声だ。

 

「……忙しそうですが、大丈夫ですか?」

「は、はい! お気遣い、ありがとうございます……!」

 

 あと、何を話せばいい。

 僕は憩みたいに、自然には話せない。

 

「あの……、よかったらこの後……」

「……この後? なんですか?」

「えっと……、ですから、もしよければ……」

 

 女給がモジモジとしている。

 あぁ、そういうことか。

 憩と来ているのに、声をかけられることもあるんだ。

 これは想定外だったけど、ここはそういう店だったな。

 

「……あの、申し訳……」

 

 バンッ!!

 

「わ、私! ケーキ食べたい!!」

 

 憩がテーブルを叩きながら立ち上がった。


 


 憩の大きな声とテーブルを叩いた音で、店中の視線が全てこちらに集まっていた。

 

「あの、えっと、ごめんなさい……」

 

 憩は小さくつぶやくと、立ったまま俯いている。

 

「……ケーキを食べたいようなので、2つお願いします」

「か、かしこまりました……」

 

 女給は気まずそうに、そそくさと戻っていった。

 

「……憩、まずは座ったら?」

「ごめんなさい。はしたないことして……」

 

 椅子には座ってくれたが、俯いたままだ。

 

「……大丈夫だよ。急にどうしたの?」

「わかんない……。

 でも、なんだかすごく嫌な気持ちになった……」

「……嫌な気持ち、か」

 

 女給の言葉が不快だったのだろうか。

 でも、憩にはそういった知識はなかったはずだ。

 トゲのある物言いが気に入らなかったのか?

 でも、そんな理由であんなことをする子じゃない。

 

「ごめんなさい、千歳さんお話ししてたのに……」

「……ううん。僕じゃ全然、話が続かなかった。

 やっぱり、憩は話を聞くのが上手だと思ったよ」

 

 完全に落ち込んでしまっている。

 こういうとき、どうしてあげたらいいんだろう。

 

「失礼いたします。ケーキをお持ちしました」

「ありがとうございます……」

「……どうも」

「あの、昨日もいらしてましたよね?」

 

 その言葉に顔を上げると、昨日接触した女給だった。

 

「……はい、覚えてるんですか?」

「えぇ。友人の心配をしてくださった、優しいお2人でしたので覚えています」

「……その後、ご友人とは会えました?」

「いえ……。

 急に辞めるような子ではないと思うのですが……」

「……そうですか」

 

 憩、お願いだから話をしてほしい。

 これ以上、僕では引き延ばせない。

 

「ご友人、ゆりさんという方でしたよね?」

「そうです。よくご存知で」

「昨日、お話しさせていただいたときに、お名前を呼んでいらしたので覚えておりました」

「あら、それは無意識だったかもしれません」

 

 女給の顔が少し綻んでいる。

 

「私は憩と申します。

 貴女様のお名前を、お伺いしてもよろしいですか?」

「私は、ぼたんと申します」

「ぼたんさん! 今日はお仕事何時までですか?」

「えっと……、あと2時間ほどですが……」

 

 ぼたん、という名の女給は少し戸惑っているように見える。

 憩は何をするつもりなんだろうか。

 

「では、私たちはここでお待ちしていますので、ぼたんさんのお仕事が終わりましたら、お話ししませんか?」

「お話……」

「はい! では、また後ほどお話ししましょう!」

 

 憩は、ぼたんという名の女給と強引に約束を取り付けた。


 


「なあ、あやめちゃん」

「なあに、(れん)くん」

「あー!! その漣くんって最高だな!!

 ちょっと、もう1回呼んでくれよ!!」

「もう、漣くんたらー!」

「あー、最高!!」

 

 一方2階では、漣が大変盛り上がっていた。

 

「大丈夫か、あいつ」

「ねぇ、お兄さんは名前教えてくれないのー?」

「お兄さん、でいいだろ?」

「もう! 名前が知りたいのにー!」

 

 誰が教えるか。

 後々面倒なことになるのが目に見えてる。

 

「そういや、1番人気の子ってまだ来ねぇの?」

「もう、私じゃ不満なのー?」

「そんなことねぇよ。興味だよ、興味」

「ふーん。まぁ、いいけどー。

 あざみはまだ来ないんじゃないかな」

「やっぱり忙しいんだな、1番は」

「うーん……」

 

 なんだ、その納得いかないような反応は。

 1番なんだから、忙しいんじゃねぇのかよ。

 

「なんだよ、言いたいことありそうだな」

「あんまり大きい声じゃ言えないんだけどさー、みんなが辞めていくの、あざみが原因かなって思ってて」

「それはどうしてだ?」

「今まではさ、人気の子たちが急に辞めていってたのね。

 でも、ゆり。ゆりは人気ってわけじゃないの」

 

 へぇ、そうなのか。

 細小波(いさらなみ)が随分気に入ってるようだから、人気のある子なんだろうと思ってたけど。

 

「それで、なんであざみって子が原因になるんだ?」

「だって、今の1番はあざみなんだよ?

 それなら、あざみが辞めるのが自然じゃない?」

「悪い、もっとわかりやすく言ってくれねぇ?」

 

 まどろっこしい話は苦手だ。

 さっさと答えだけを教えてほしい。

 

「だからー、次はあざみが辞めるだろうなって思ってたのに、辞めたのはゆりだったの!」

「それは、ゆりって子が辞めるのは不自然てことか?」

「そう! だって、お金もないのに急に辞めないでしょ?」

「でもよ、金払いのいい店あったらそっち行くんじゃねぇの?」

 

 旭も言ってた。こいつらは金のために働いてるって。

 なら、金払いのいい店に引き抜かれたらそっちに行くだろう。

 

「……行けないんだよ、私たち」

「行けない? どういうことだよ」

「このドレスとかね、全部借金なの。

 払い終わるまで絶対に逃げられない。

 私たち、行くところないし……」

「でも、払い終わって辞めるなら、普通じゃねぇの?」

「聞いたことないの。払い終わったって話。

 もうすぐ払い終わるんだ、って話は聞くけどね」

「払い終わっても、誰にも言ってないとかは?」

「言わなくてもわかるんだよ。

 誰がどれくらい稼いでいるかなんて。

 だって私たちの価値は、順位で決まるんだから」


 


※物語に出てくる漢句や本の内容は、全て作者の創作です。

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