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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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32/40

32句 春雨


「千歳さんも同じ句……」

「……うん」

 

 なんだか気まずい空気が流れる。

 憩の顔が見られず、ロールケーキに視線を落とした。

 

「隣君如春陽((となり)(きみ)春陽(しゅんよう)(ごと)し)。

 私にとってあなたは、あたたかい春のような人です」

「……憩?」

「私にとって、千歳さんは春みたいな人なの。

 優しくて、一緒にいると楽しくて、あたたかいの」

「……ありがとう。すごく、すごく嬉しい」

 

 僕の目を真っ直ぐに見つめながら、憩は少し恥ずかしそうに教えてくれた。

 嬉しい。憩こそ、あたたかい春のようだ。

 

「千歳さんは? どうしてその句なの?」

「……憩が僕の隣で笑ってくれると、春の陽射しのようにあたたかい気持ちになる。

 だから……、だから、この句を選んだんだ」

「そっかぁ、とっても嬉しい! ありがとう!」

 

 陽だまりのように、ニコニコと笑っている。

 ダメだ。この子には(そま)さんがいる。

 変な期待をしてはいけない。

 否定すればするほど、答えに近づいている気がする。

 

「千歳さん。本、ありがとう!

 どれもとっても嬉しい。大事にするね!」

 

 そんな僕の気持ちを知らぬあの子は、漢詩集をギュッと抱えながら笑顔を咲かせている。

 

「……ううん、こちらこそ。

 全部、全部大切にするから」

 

 本だけじゃない。憩にもらった言葉も全部。

 溶け始めた氷は、じわじわと形を変え始めた。


 


 日が傾き始めた頃、店も活気に包まれ始める。

 

「……じゃあ、今日も頑張ろうね」

「うん! いつも通り、だよね」

「……うん。いつも通りで」

「わかった! 何食べようかなー!」

 

 憩は本当に不思議な子だ。

 本の話をしていたときは大人びて見えたのに、メニューを見ている今は年齢よりも幼く見える。

 

「……決まった?」

「サンドイッチと何にしようかな……。

 千歳さんは、何食べるのー?」

 

 先ほどケーキを食べたばかりだ。

 正直、あまり食べられそうにない。

 

「……僕、あんまりお腹空いてなくて」

「そっか! じゃあ、何か気になる物はある?」

「……えっと、グラタンかな」

「グラタン! じゃあ今日はそれにする!」

 

 憩はニコニコしながら注文を済ませる。

 

「……他に、食べたい物あったんじゃないの?」

「ううん、グラタンがいいの!

 千歳さん、少しなら食べられるかなって」

「……僕のことなんて、気にしなくていいのに」

「私が一緒に食べたいの!

 ロールケーキ、美味しかったから」

 

 気づいてたんだ。僕がロールケーキを頼んだ理由。

 憩はふわふわしているようで、人をよく見ている。

 だから、情報を聞き出すのも上手いんだ。

 

「……嬉しい、ありがとう」

「ううん。

 千歳さんこそ、いつもありがとうって言ってくれてありがとう!」

 

 憩の言葉1つ1つが、僕の心をあたたかくする。

 溶けた氷から出た水は、少しだけぬるく感じた。


 


「食った食ったー! もう食えねえ!」

「あんだけ食ってりゃ、そうだろうな」

 

 夕食を終えた3人は、カフェーへと向かっていた。

 

「旭、ありがとなー!」

「ご馳走様でした」

「どういたしまして。

 これで2人が頑張ってくれるなら、安いものだよ」

「おう! 任せとけ!」

「1番信用ならねぇよ」

「本当に生意気な後輩だなお前はー!!」

 

 ギャイギャイと騒ぎながら店を目指す。

 いこが寒凪(かんなぎ)と行動するようになってから、俺の話し相手は専ら旭か細小波(いさらなみ)だ。

 今までは朔夜朔夜って、いこはなんでも俺に報告してたのに。

 そんなことを考えていると、もう店は目の前だった。

 

「なあ、あれって……。寒凪と憩じゃね?」

 

 思わず、細小波の視線の先に目をやる。

 そこには、楽しそうに笑ってるいこがいた。

 俺が最近見てない、心から笑ってる顔。

 なんで、なんでそんな顔を、寒凪の前でするんだよ……。

 

(れん)

「わ、悪い……。つい……」

「誰もいなかったからよかったけれど、気を抜かないでね」

 

 見たくなかった。あんな顔。

 任務中にする顔じゃねぇだろ!!

 なんなんだよ……!!

 俺の方が寒凪より、いこのことなんでも知ってるのに……!!

 

「朔夜、大丈夫かい?」

「え、あ、はい」

「これから潜入だよ。集中してね」

「すみません……」

「あー、その、あんまり無理すんなよ?」

「うるせぇ、余計なお世話だ」

「よし、じゃあ行くよ」

 

 大人組の潜入が今晩も始まった。


 


「どうだい? 女の子は減っているかい?」

「えーっと、すみれちゃん、かえでちゃん、つばきちゃん……」

「名前、覚えてんのかよ」

「当たり前だろ!? 間違えたら失礼だからなー」

 

 3人はいつも通り2階へと上がると、他に消えた女の子はいないか確認をしていた。

 

「うーん、ゆりちゃん以外はみんないるぜ」

「てことは、毎日消えるわけじゃないんですね」

「そのようだね。次々消えても、目立つだろうし……」

 

 コンコンコン

 

「失礼いたします。お決まりでしょうか?」

「えーっと、すみれちゃんと、あやめちゃんと……」

 

 漣が空気を読み、女の子たちを指名する。

 ここで下手な動きをすれば怪しまれる。

 漣にしては珍しく、上手く立ち回っていた。

 

「あのー、ゆりちゃんって辞めちゃったんすか?」

「はい、ゆりは辞めまして……。

 お詫びと言ってはなんですが、1番人気の子をお付けいたしますので、何卒ご容赦いただければと……」

「そうっすかー、じゃあそれでお願いします」

「旦那たちにはいつもお世話になっておりますので」

 

 店主は深々と頭を下げると、部屋を出ていった。

 

「漣、助かったよ。ありがとう」

「テメェにしては上手くやったな」

「だから、今日はちゃんとやるって言ったろー」

「うん。この調子で頼むよ」

「おう、任せとけよな」

「旦那様方、失礼いたします」

 

 声に続いて、女の子たちがわらわらと入ってくる。

 今日こそは絶対上手くやる。

 漣はギュッと手を握ると

 

「今日もめっちゃかわいいなー!!」

 

 と、軽口を叩くのだった。



 

「お兄さんこんばんは!」

 

 女の子の1人が、朔夜の隣に腰掛ける。

 

「どうも、昨日も会ったよな?」

「わー! 覚えててくれてありがとう!」

「忘れるわけねぇだろ。こんなかわいいのにさ」

「もう、上手なんだから!」

 

 お互いに上部だけの言葉を並べて、お互いに上部だけの笑顔を浮かべて、何が楽しいんだ、こんなこと。

 

「どうしたのー? 暗い顔して」

「いや、ちょっと考え事しててさ」

「ひどーい! 私のことだけ考えてよー!」

 

 頬を膨らませ、むくれた顔をされた。

 こんな顔をいこ以外にされても、なんとも思わねぇ。

 だいたい、いこならこんな自分本位なこと言わねぇし。

 

「そうだよな、ごめん。

 俺が悪かったから、そんな顔すんなよ。な?」

「……もう、そこまで言うなら許してあげる」

「ありがと。やっぱり笑ってる方がかわいいな」

 

 あー、クソほど面倒臭い。

 こんな作り込まれた女、かわいかねぇよ。

 旭も上手くやってるし、細小波も上手くやってる。

 俺がぶち壊すわけにはいかねぇ、仕事だからな。

 

「ねぇ、お兄さんってさー、恋人とかいるの?」

「恋人? いねぇけど、なんだよ急に」

「えっと。私なんてどうかなーって」

 

 恥ずかしそうに顔を手で覆いながら、俺をチラチラと見てくる。

 どういう考えで、その提案をしてきたのか意味がわからねぇ。

 まぁ、こういうところに来る男って認識だろうからな。

 

「ありがとな、気持ちだけ受け取っとく」

「そ、そうだよねー! ごめんね、変なこと言って」

「いや、俺こそごめんな。気持ちに答えられなくて」

「ううん、急に変なこと言ってごめんね」

 

 心底傷付いた顔をされた。なんでだよ。

 そういや、いこにも散々好きって言われてたけど、

いつもはいはいって流してたなぁ。

 そんなこと、言われなくてもわかってたから。

 そういや、そのときのいこ、どんな顔してたんだ……?

 

「ねぇ、お兄さん」

「うん? なんだ?」

「お兄さん、大事な人はいるんだね」

「はぁ? 別にそんな相手……」

「嘘つくの、下手だね!

 ちゃんと伝えないと、後悔するんじゃない?」

 

 なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねぇんだ。

 それと同時に、なんだか胸が抉られたような気がした。


 


※物語に出てくる漢句は、作者の創作です。

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