表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/40

31句 春信


 カランカラン

 

 扉に付いた鈴が今日も響き渡る。

 

「いらっしゃいませ!

 どうもどうも! 今日もありがとうございます!」

「……こんにちは。窓際、今日は空いていますか?」

「えぇ、どうぞどうぞ!」

 

 千歳と憩の来店は、店にとってありがたいのだろう。

 今日も店主はとてもご機嫌だ。

 

「では、お決まりの頃お伺いしますので」

「……どうも」

「ありがとうございます!」

 

 店主が去っていくと、憩はすぐさまメニュー表へと視線を移す。

 

「頼んでから、見せ合いっこしようね!」

「……そうだね。何食べるの?」

「悩んでる……。

 シベリアも食べたいけど、プリンも食べたい……」

「……憩らしいね。

 どっちも頼んだらいいんじゃない?」

「いいの!?」

 

 憩が、バッと顔を上げる。近い。

 あまりの近さに、思わずドキッとした。

 

「……いいよ。あとは、コーヒー?」

 

 どうにか平静を装う。

 この子は、細小波(いさらなみ)さんと同じで距離が近いだけだ。

 それに、深い意味は全くない。

 

「うん! 千歳さんは何にするのー?」

「……僕は、ロールケーキにしようかな」

「ロールケーキ……」

 

 知っている。ロールケーキも見てたこと。

 だから僕は、ロールケーキを選んだんだ。

 

「……憩も半分食べる?」

「でも……」

「……いいんだよ、遠慮しなくて」

「ありがとう!

 それなら、シベリアとプリンも半分こしようね!」

「……ありがとう。憩は優しいね」

 

 店主が来ると、千歳は注文を済ませた。


 


 程なくして、注文した物が運ばれてくる。

 昨日の女給は、見える範囲にはいないようだ。

 

「じゃあ、見せ合いっこする?」

「……そうだね。

 まずは1冊目、見せ合いっこしようか」

「1冊目、どれにしようかなー」

 

 憩は嬉しそうにガサガサと包みを開けている。

 漢詩集は最後にしよう。まずは無難に小説だ。

 

「……決まった?」

「うん! じゃあいくよー、いっせーのせ!」

 

 同時に本をテーブルの上へと取り出す。

 憩も同じように小説を手に持っていた。

 

「あ! 小説だ!

 千歳さんはどうしてそれを選んでくれたの?」

「……主人公が、道を切り開く話なんだ。

 前向きなところが、憩みたいだなって思って」

「へぇー、ありがとう!

 まだ読んだことのない本だから、楽しみ!」

「……憩は、どんな本を選んでくれたの?」

 

 表紙にはかわいい小鳥の絵が描いてある。

 

「この本はね、この小鳥が主役なの。

 自分の歌声に自信のない小鳥が、大切な主人のために1度だけ歌うんだけど、その理由がすごく好きなんだー。

 だから、千歳さんにも読んでほしいなって思ったの。

 えへへ、完全に私の好みだね」

「……そんなことない。すごく嬉しい、ありがとう」

 

 憩が好きだと思った物を共有してもらえる。

 そして、それを同じように読んでほしいだなんて。

 

「じゃあ、2冊目もいい?」

「……うん。もう、決まってるの?」

「うん! 千歳さんは?」

「……僕も決まってる」

「そっか! じゃあいくよー、いっせーのせ!」

 

 僕が選んだのは、また小説だ。

 憩の手には、短歌集が握られていた。

 

「あ! 今度は探偵小説?」

「……うん。この小説は僕のお気に入りなんだ。

 予想外の展開になるところが面白くて。

 憩もそういうの好きかなって思ったんだ」

「うん、大好き!

 意外な展開のお話って、面白いよねー!」

「……憩は、短歌集?」

「うん! 千歳さんは短歌が好きって言ってたから、私が好きな歌人さんも気に入ってもらえるといいなって」

「……ありがとう。

 歌人によって価値観が違うから、すごく楽しみだな」

 

 ついに最後の1冊、漢詩集になった。

 

「じゃあ、最後の1冊いくよ! いっせーのせ!」

 

 同時に、テーブルの上に本を取り出す。

 

「あ! すごい! 同じ本だー!」

「……嘘、どうして」

 

 そんなこと、あり得るのだろうか。

 あんなにたくさんある中で、同じ本を選ぶなんて。

 

「千歳さんは、どうしてそれを選んでくれたの?」

「……憩みたいだなって思う句があって」

「へぇー! どんな句なのかなー」

「……憩は? 憩は、どうしてそれを選んだの?」

「私もね、千歳さんみたいだなって思う句があったの!」

「……そうなんだ。どの句だろう」

 

 そんな句、あっただろうか。

 

「ねぇねぇ、どの句か見せ合いっこしない?」

 

 なんて恥ずかしい提案をしてくるのだろう。

 でも、この子は好奇心で聞いているだけだ。

 

「……いいよ。じゃあそのページ探すね」

「うん! 私も探さないと」

 

 パラパラとページを捲る音だけがする。

 隣君如春陽((となり)(きみ)春陽(しゅんよう)(ごと)し)。見つけた。

 

「あった! 千歳さんは?」

「……僕も見つけた」

「じゃあ、私から。私はねー、これ!

 隣君如春陽。あたたかい千歳さんにぴったりでしょ?」

「……えっ」

「え?」

 

 違う。違う違う違う違う。どうして。

 こんなにたくさんある中で、どうしてその句なんだ。

 

「……ごめん。びっくりして。

 僕が選んだのも、隣君如春陽だったから」


 カラン

 

 氷が溶ける音がした。


 


「今日こそ、ゆりちゃんの情報が得られますように!」

「神頼みしたって仕方ねぇだろ」

「いいじゃねえかよ別に!!」

「んなことしてねぇで、ちゃんと聞き出せばいいだろ」

「あ! たしかになー!」

「本当にバカだな」

「はあ!? (そま)だって別に頭良くねえだろ!!」

 

 本当に騒がしい2人だ。

 空き時間なのだから、部屋に戻ったっていいのに。

 書斎に残ってずっと騒いでいる。

 

「そんなに喧嘩するなら、離れていたらいいんじゃないかな?」

「まあ、話す相手いないよりいいからよー」

「テメェが話しかけてくるだけだろうが」

「嫌なら杣が部屋に戻ればいいだろー?」

「なんでテメェに命令されなきゃなんねぇんだよ!」

「別に命令してねえだろ!!」

「はいはい。大声出さないでね」

 

 こんなにずっとギャイギャイ騒がれていては仕事にならない。

 

「そんなにここにいたいのなら、2人に少し仕事をお願いしてもいいかな?」

「別にいいぞー、何すればいいんだー?」

「本部の仕事、溜まってますもんね」

「ありがとう、助かるよ。

 じゃあ、漣はこの書類に判を押してもらえるかい?

 朔夜はこっちに目を通して、問題点を挙げてほしい」

「おう! ここに押せばいいんだよなー」

「わかりました。その書類、全部預かります」

 

 2人は黙々と作業を進めていく。

 普段からこうだと助かるが、そうもいかないのが現実だ。

 

「それが終わったら、食事にでも行こうか」

「マジかよ!?」

「潜入は大丈夫ですか?」

「食事の後でも問題はないよ。

 どちらかといえば、千歳と憩の潜入がメインだからね」

「よっしゃー! 爆速で終わらせてやるよ!!」

「違うとこに判押すなよ」

「あ゙ー!! 杣が変なこと言うから間違ったじゃねえか!!」

「はぁ!? 俺のせいにすんなよ!!

 つーか、旭の仕事増やしてんじゃねぇ!!」

 

 結局こうなるのかと、旭は静かにため息をついた。


 


「あー、腹減ったなー!」

「テメェが間違わなければ、もう少し早く終わったんだよ」

「仕方ねえだろ!? 間違っちまったんだからよー!」

「間違っちまった、って量じゃなかっただろうが」

 

 漣はあの後も何度か判を押し間違い、その度に旭が一から書き直し、というのを繰り返した。

 

「まぁまぁ、2人のおかげで無事終わったんだ。

 お礼にご馳走するよ、何か食べたい物はあるかい?」

「俺はビフテキ!」

「ご馳走になるのに偉そうだなテメェは」

「旭がいいって言ってんだからいいだろ!」

「いや、言ってねぇよ!!」

 

 食事に行くだけだというのに本当に騒がしい。

 年少組の2人は本屋に行くほど落ち着いているのに。

 

「漣の希望はわかったよ。

 朔夜は? 何か食べたい物はあるかい?」

「俺は別になんでも……」

「じゃあビフテキだな!」

「だからなんでテメェが決めんだよ!!」

「食いたい物ないならいいじゃねえか!!」

「遠慮しろって言ってんだよ!!」

「はいはい、落ち着いてね。

 それなら洋食店なんてどうだい?

 ビフテキもあるし、朔夜も選べるだろう?」

「旭がそれでいいなら……」

「俺はビフテキ食えるならいいぜ!」

「うん。じゃあ着替えて行こうか」

 

 ようやく行き先が決まった3人は、屋敷を出発するのだった。


 


※物語に出てくる漢句や本の内容は、全て作者の創作です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ