第9話
「あ、あれ!咲夜じゃない?きゃー。咲夜ーーー!」
あかりちゃんのテンションはガチ上がり。
咲夜さんはHYEIのマネージャーで元NoeLのメンバー。
「あー。咲夜、本当に綺麗な顔してるよね。マネージャーになるなんてさ、惜しい。」
あかりちゃん、元咲夜担だもんね。
もう夕方になっていた。入り待ちのファンで溢れかえっていたのに……。
咲夜さん、一瞬、こっちを見た?気のせい?
あかりちゃんは気づいていないようだし、気のせいか。自意識過剰w
『キャーーーーーー!!!』
その絶叫に振り返ると、その先には……HYEI……。
目深に被った帽子にサングラス。パーカにディーゼルのジーンズ、ドクターマーチンらしきシューズ。
「……降臨……。」
その言葉しか出なかった。息をするのも忘れて、ただ立ち尽くしてた。絶対的に美しいものを見たとき、人はこうなるのだろう……なんて、ぼんやりとした頭で、これが現実でありますようにと願いながら、ただ見つめていた。
「マユ?はい、ハンカチね。」
え?あかりちゃんにハンカチを渡されるまで、自分の頬が濡れていることにさえ気づかなかったし、HYEIが過ぎ去ったことさえも……。
ーーー
「アイツ?」
HYEIは着替えながら、俺に聞いた。多分あのSNSの子のことだろう。俺もチラ見したから今日参戦していることは知っていた。でも、ちょっとさ、意地悪しちゃったりする俺。
「え?誰の事?」
とかさ。とぼけてみたり。
「いや、なんでもねぇ。」
「そう?」
だってさ、俺の視線完全に無視して、HYEI見て泣いてたからな……。マユちゃん。なんで、俺が名前まで知ってるかって?まぁそれは、おいおいな。
ーーー
「お前ら、俺のミサで浄化してやるよ!」
『キャーーー!HYEIーーー!』
はぁ。今日は観える。しっかり浄化されてます!
曲が始まった。
拳を振り上げ、バンバン飛び上がって、もう、全てをぶつける。ぶちまける。爆音の中!ぎゅうぎゅうな中、ひたすら目で追う、声を聴く。
熱い曲。綺麗な声。綺麗な姿。この世のものとは思えない。
HYEIのギターにはトレードマークの髑髏が描かれている。
瞬きするのも躊躇われる。
「お前ら飛べー!もっと高く!もっと羽ばたけ!!」
羽ばたきたい。羽ばたきたいよ、私も。
どこまでも、連れてって!
つづく。
※この作品は「カクヨム」にも掲載しています。