第13話
「なぁ、インスタのアイツ。」
「ああ?インスタのアイツ??」
「昨日、倒れた奴?」
「ああ、マユちゃん?」
HYEIが人に関心を持つのは珍しい。しかも、まだ、あのインスタの件を覚えていたなんてな。
「アイツの名前?お前ら知り合い?」
「いや、別に親戚の知り合いってとこ?」
「アイツ、変な奴だよな?俺に……いや、何でもない。」
え?何?マユちゃんに会った?……何で俺、気にしてんの?
「マユちゃんとさっき電話で話した。昨日のお礼とお詫び?」
「はぁ?何、お前?電話番号とか知ってんの??」
HYEIはあからさまに、驚きとちょっとイラっとした様子だった。
「てゆーかさ、HYEIこそ、なんで、マユちゃんのこと知ってんの?」
トントン!
「HYEIさん、もうすぐ出番です。スタジオ入りしてください。」
あー。ルカの新曲プロデュースのプロモーションの仕事だ。HYEIにもうちょっと聞きたかったけど、コイツ、仕事のスイッチ入ると、プライベートの話、全然しなくなるからな。
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私はHYEIの等身大ポスターの前で土下座していた。
『完全にやらかしやな(ΦωΦ)』
あかりちゃんは大阪転勤で、すっかり関西人の様になっていた。……LINEからも伝わってくる。
『分かってるよー(ノД`)・゜・。』
そう、分かってる。色々やらかした。まさか、“神”を見て自然に涙が出る私が、500円を咲夜さんに返してくださいって言うなんて、もう、信じられない。推し……推しに本当に申し訳ございません!!だよね。でも、あの時、“神”って思わなかったんだよね。なんか、“人”っていう感じがして……。って、おかしなこと言ってるな、私。
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HYEIの収録の間、マユちゃんのインスタを見てた。あ、あの子供食堂のね。俺は、前から、ばあちゃんに、マネジャーをやってるバンドのTシャツを着た子がボランティアに参加してくれてるって聞いていた。だから、あの時、炎上しかけた時、思わず“ありがとう”ってコメントしてた。誰も知らないだろうけど。
それまで、ばあちゃんとはそんなに話すこともなかったけど、マユちゃんのボランティア参加がキッカケで頻繁に連絡を取り合うようになった。ばあちゃんは、いつも楽しそうにマユちゃんの話をする。それを聞いているうちに、いつの間にか俺もマユちゃんって呼ぶようになって、会ってみたいって思うようになって、そして、あのインスタで、マユちゃんを見て、いつも入り待ちや出待ちで会う子だと知った。そして……HYEIの入り待ちで自然と涙を流すほど、HYEIのことが好きなんだって知った……。
昨日のライブで、舞台袖からHYEIとルカを見ていたとき、マユちゃんは泣くんじゃないかな?って思って、ふとマユちゃんを目で探した。そしたら、フラフラしてたんだ。俺は、仕事中なのに、マユちゃんに向かって走っちゃったんだよね。助けることが出来て、後悔はしてないけど……HYEIには怒鳴られるだろうと思ったのにさ……アイツ……何も言わずに、救護室に行ったのかな?
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あーーー、なんか、収録中なのに、余計な事考えるな!俺らしくない。ポケットの“500円玉”をそっと握ったりしてる。何してんだ?俺?二人でインタビューって正直、俺のターンじゃないと気を抜く。
「では、HYEIさんと綿月ルカ(わたつき るか)さんは楽曲提供前からお知り合いだったんですね?」
「ええ、HYEIとはバンド時代から少し交流があって……。」
「そうなんですね。ルカさんがバンドをやっていたとは知りませんでした。」
「そうですよね?インディーズバンドだったので。」
俺はルカがイマイチ分からない。インディーズだったけど、もうすぐプロデビューの話もあったのに、女優に転身した。俺はあの時……どうすれば良かったのかな?俺は止めたのにな……もう昔の話だ、あれから、ずっと会ってなかった。
「お知り合いだった、HYEIさんは女優転身を止めなかったんですか?」
「は?」
(あ、ヤベ。)
「何か言うほどの仲じゃなかったんでね。」
俺達は嘘が上手い。あの時、俺たちは付き合っていた。
でも、俺は最低で、本命かと聞かれると正直分からなかった。ルカが煩く聞くから、そうだと答えていただけだ。
コイツは、そんな俺と一緒の世界から抜け出したかったんだろう。だから、バンドを辞めたんだ。その程度だ。俺はバンドに掛けてる。コイツとは違う。
なのに、ルカの要望で俺に楽曲提供の話が事務所から来た。咲夜は女優として売れっ子の綿月ルカの楽曲提供はNoeLの宣伝になる。俺達のオリコン1位の夢に近づくと言ってきた。俺は渋々了承した。でも……このプロモーションには正直、賛成できない。でも、NoeLの為だ。
「今はどうなんですか?」
「俺達、今……付き合っています。」
「え??これは、衝撃ですね!そうなんですか?ルカさん!」
「……はい、事務所公認です。」
つづく。