第12話
あかりちゃんとは、たまに連絡するくらいになった。
(前は1日に何度もHYEIの話してたな)
寂しい気持ちでいっぱいだけど、あれ以来、私も推し活について考えるようになった。いつまで、推すのか?とかね。でも、それは最初から決めていたことかもしれない。
私は、久しぶりに子供食堂のボランティアに参加しながら、ボーっと考えていた。
「マユちゃん!また来てくれてありがとう。嬉しい。」
「板倉さん……。心配かけてすみません……その、ちょっと、子供食堂の写真で、その、私が推しのTシャツ来てたのが原因で、皆に迷惑掛けちゃって……今日はユニクロのTシャツで来ました!」
「マユちゃん!本当にいい子ね。咲夜の嫁にしたいくらい。」
「え?誰ですか?息子さんですか?」
(あ、板倉さんは70代だから、息子さんってことはないのか?!いやあるのか??)
「もう、マユちゃんたら。咲夜よ。咲夜からマユちゃん、元気そうだって聞いて安心してたのよ。」
「え?あの……私、その咲夜さんって、ちょっとどなたか分からないんですが……。」
「あ!!」
板倉さんは完全にやらかした!って顔をしてそそくさと持ち場に戻って行った。
(えーーー?誰?え?職場にでも居たかな?咲夜さんって??)
私が推してるバンドのマネージャーと同じ名前とか……運命すぎでしょ。でも、そんな偶然あるわけない!
でも、板倉さんもおばあちゃんなのに綺麗な顔してるんだよな。ちょっと咲夜に似てる……わけないか?あはは。
でもさ、HYEIT着ないで、ボランティアしてる私って一体なんなんだろう?推しの役に立ちたいなんて、思ったら、炎上みたいなことになってて、HYEIの迷惑になってなきゃいいけど。
ーーー
「なぁ、咲夜、明日のライブ、アイツ来るんだろ?」
「あー。ルカ?そりゃ来るだろ?っていうか、来なかったら困るだろw」
HYEIは本当にマイペースな奴だ。
「明日は記者も来るからな。」
念を押しておいた。
ーーー
『【NoeL official】明日の東京公演での重大発表にご注目ください』
ファンクラブからメールが来た。
(明日、重大発表?急すぎない?こんなこと今まで無かった。なんだろう?いいニュース?それとも……。)
私、HYEIが結婚しても推せるかな……。最近弱気でそんなことも考え始めてる。
ピロン!
『重大発表って、ルカと……(ΦωΦ)……(ΦωΦ)』
あかりちゃんからLINE。言いたい事は分かるよ。そうだよね。そうかもしれない。
明日は、一人で参戦だよ、私。手の震えが止まらないけど、ギュって握りしめて、寝た。
ーーー
「てか、寝れるわけないやろーーー!!」
って、何故かあかりちゃんにLINEして起きた。
『だよね( ´艸`)』ってさ。
別に、HYEIに彼女が居るのはいいんだよ。居るでしょ?でもさ。結婚は別だよ。誰かのものって感じがしちゃうじゃない?それ、推していいの?推していける?
そんなことをグルグル考えてたら、朝になっちゃったよね。
ちょっと、XでHYEIを検索してみたら、やっぱり、「結婚?」「解散?」「独立?」なんて文字が踊ってた。ヤバい、余計不安になるよ。私、強がったけど、結局推し活しかないのよ、今!
顔がヤバい。私の理論どこ行った?着飾らないで推しに会いに行くのは申し訳ないの極みなのでは??
でも、クマが消えないし、浮腫んでるし、一睡もできなくてフラフラだし……本音は逃げ出したい!でも、会いたいけど……。
フラフラのまま会場に向かった。
会場はいつもと変わらないのに、凄く遠く感じて、何度も倒れそうになった。
なんとか、会場に辿り着くと、沢山の記者が、ファンの子にコメントを求めてる。
ー これ。本当に、結婚なのかも ー
目を閉じて深呼吸をした。だとしても、聞かなきゃ!そう思った。
いつもなら、あかりちゃんと一緒だけど、今日は一人静かに開演を待った。
ライトが消え、同時に爆音に包まれた。
そして、「お前らー。今日も俺らのミサの始まりだー。」HYEIが映し出される。
ー 神 ー
私の中で、HYEIは神そのもの。
ハッキリ答えは出た。HYEIが、NoeLがNo.1を取るまで推す!
たとえ、誰かのものになっても。推す。
来てよかった。そう思って間もなく、ステージに綿月ルカ(わたつき るか)が現れた。覚悟は出来ていた。
周りからは悲鳴に似た声がしていた。私はただ、ルカとHYEIを見つめていた。
HYEIがルカをエスコートする。ルカの指には、あの髑髏のネイルが施されていた。
「お前らに重大発表がある……。」
私は目を閉じて、HYEIの声に全神経を集中させた。一言も聞き漏らしちゃいけない気がして。
なのに……。
曲が始まった?え?聞いたことの無い曲。え?ルカが歌うの?でも、これ、HYEIの作った曲っぽい……。
え?バラード?透き通った綺麗な声。
~ Believe in yourself
Don’t be swayed by others
Live freely
With a smile ~
(英語わからないんですけどーーー。)
でも、なんか、心が洗われる気がする。曲も歌詞も声も。凄い。ただ、凄いって感じる。
会場もライブ会場なのに、静か過ぎてビックリするくらい。
「俺がルカに作った曲。お前らに最初に聴いて欲しかった。次、俺らの新曲も行くぜーーー!今日も飛べ―!お前らサイコー。」
いつものHYEI様!そっか、これが重大発表か。そっか。なんだ、ホッとした……。
(あ、ヤバい。倒れ……る……。)
あれ?誰かに支えられてる?でも、もう、HYEIさえぼやけて……。
ーーー
救護室で目が覚めた。枕元に水が置かれていた。スタッフさんに起き上がれるかを聞かれたり、救急車は呼ばなくて大丈夫かを確認されたりした。
「すみませんでした。寝不足です。水もありがとうございます。」
「え?その水は咲夜さんが……。いえ、なんでもないです。では、こちらの通路からお帰りください。」
(え?咲夜さん??え?マネージャーの?だよね?これ、まずいよね?迷惑かけたよね?どーーーしよーーー!!)
「えっと。多分200円かな?いや、お礼も兼ねて、1000円か?」
どうにかして、返さなきゃ!
「すみません。」
「はい?まだ何か?」
「咲夜さんにこちらを渡してください。出来れば、お礼を言っていたと伝えて頂けると、その、有難いのですが。」
「え?お金はお預かりすることは出来ませんが。」
「あ!!すみません。ですよね。失礼しましたーーー。」
恥ずかしくて走って逃げた。
……はずだったのに……。
「おい、お前!」
え?振り返るとそこには……
ー 神 ー
なのかな?私服でサングラスでグッチのキャップ。
うそーー!!これは返すチャンス来た!
「あの、咲夜さんにこれ渡して貰えますか?」
「は?何?500円?」
「足りませんか?」
「は?何?何なの?お前!」
「え?え?え?あの、お水代です……。その、倒れたのを助けてもらって、お水まで……。その……。あ!すみません!HYEIさん、その、はじめまして。ファンです。不審者じゃありません。」
「お前、咲夜のファンなの?」
「え??あ、いえ、推しはHYEIさんです。」
「だよね?だよね?」
「はい。はい。」
「お前、今、推しと話してるよね?」
「あ!!!」
「分かった?状況?咲夜には渡しとく。じゃあな。」
あーーー。そうだ。もう昨日から混乱してて、状況が全く分かってなかった。私、今、“神”と会話してしまった。申し訳ありませーん。
ーーー
家に帰って、冷静に思い返すと自分の挙動のおかしさが憎い。布団に包まってもう出たくない。もうこのまま一生寝てたい。ごめんなさい。ごめんなさい。なんか、スタッフさんもごめんなさい。
もう次回のツアーまで観られないけど、っていうか、もう皆に嫌われたけど。もう、行けない……。うわーーーん。
ピロン♪
『マユちゃん、体調悪いの?大丈夫?』
え?板倉さんからLINE?何で?
『子供食堂で賄いあるよ。』
『行きます٩( ''ω'' )و』
電車に揺られながら、賄いに釣られる私ってって思うでしょ?でも、板倉さんの賄いは本当に美味しいの。食べて元気出す!でも、なんで、板倉さん体調悪いの知ってたんだろ?周りに咲夜って人居ないけどな……あ、居る。いや、でも、その咲夜さんの話は忘れないと恥ずかしすぎて死ぬ。
「あー美味しかった。板倉さん、ありがとうございます。」
「マユちゃんが倒れたって聞いてね。心配したのよ。」
え?倒れたのは昨日で……。あかりちゃんにも言ってない……。誰も知らないはずだけど……。え?どういうこと?
「板倉さん。その、誰に聞いたんですか?」
「あはは。もういいかな?咲夜よ。マユちゃん、推してるバンドのマネージャーなのよ。咲夜。知ってる?」
「え?……えーーー!!咲夜さんのお知り合いなんですか?」
「うん。孫。」
「ーーー」
本当に驚くと声も出ないんだな。
これ、板倉さんに500円返せば良かったんだ。
「あ!咲夜さん、500円の話してました?」
「え?500円?何のことかしら?」
あ、まずい!HYEIさんまだ、渡してくれてない?
「あ、何でもないです。すみません。」
ピロピロピロ~♪
「あ、電話だ。マユちゃん、ちょっと、ごめんね。」
まさか、咲夜さんが板倉さんのお孫さんだったなんて……。どんな確率?宝くじレベルで私生きてない?っていうか、神と話したのが500円って……。相当ヤバい。こんな機会絶対ないのに。もっと何かなかったのかな。自分のバカ。“新曲最高でした♡”とかさ?色々あるよね??
「そうそう、500円の話ってマユちゃん言ってたわよ。何かしら?」
え??500円の話??まさか……板倉さん……今、電話してるの……咲夜さんでは??
「あはは。元気よー。賄い全部食べてくれたのよー。」
あーーー。これは完全に咲夜さん!!これは、言わなければ!
「板倉さん!!」
「ん?マユちゃん、どうしたの。あ、咲夜?スピーカー?ああ、これね。押したわよ。」
「あ、あの、咲夜さん!昨日はすみませんでした!!ありがとうございました。お水も帰りに飲ませて頂きました。助かりました。」
「あ、ああ。別に。もう大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました。」
気が付くと深々と土下座していた。
つづく
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