第11話
仕事帰りに、あかりちゃんと会うのは久々。お互い、今日はほぼノー残業で待ち合わせた。
『大事な話がある』
昼休みにあかりちゃんからのLINEを見て、即会うことにした。
あかりちゃんは、会うと涙目でこう言った。
「私、転勤になっちゃった。」
「え??」
もう、ビックリし過ぎると声にならない声しか出ない。
「今、都内だけど、本社が大阪で……。」
あかりちゃんはそれ以上言えなくなっていた。バリキャリで、ついに本社に呼ばれたのだろう。凄い出世だ。……でも……。
なんだか、最後な気がして、家に呼んだ。
「マユ、お邪魔しちゃって、ごめんね。マユの部屋落ち着く……って言うかさ、入口にHYEIの等身大ポスターとか、笑うんだけどw……でも、マユっぽい。」
あかりちゃんは結構呑んで、泣いたり、笑ったり、怒ったりとかなり忙しい。でも、可愛い。
「マユ、私、推し活頑張ったよね?」
「うん、頑張った。」
「私、推し活の為に仕事してたよね?」
「うん……。」
あかりちゃんは、確かに推し活の為に仕事をしているように見えてた……いや、見せてたのかな?
「あー!HYEIのライブ、都内多いのに!!!」
「うん。」
「私、こういう時、真っ先に推し選ぶと思ってた!クソー―!自分可笑しい……仕事も大事みたい……。」
「うん。」
知ってたよ。あかりちゃんが仕事に燃えてて、息抜きに推し活してること。でも、そんなあかりちゃんに憧れてた。私はHYEIを見つけるまで、本当に何もなくて、空っぽで……。5年前のあの頃、私は人生に絶望していた。推し活なんてしたこともなかった。ただ、仕事して帰って寝て、また仕事。
「あかりちゃん。ありがとう。私、本当にあの頃、何も無くて……。」
気が付くと涙でいっぱいだった。
「マユーーー!」
あかりちゃんは抱きしめてくれた。
5年前のあの時みたいに……。
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私は、会社の同僚に誘われて、初めて、NoeLのライブに行った。
他のアーティストのコンサートには行ったことはあるけど、ライブハウスなんて初めてで、席もなくて、ぎゅうぎゅうで、何をどうしたらいいのか分からない、そして、同僚とはぐれて、揉みくちゃにされて、遂に、しゃがんでしまった。
「あんた!何してんの??しゃがんだら危険だよ!!」
そして、私を起き上がらせて、ギュって抱きしめて、外に出してくれた。
「あんたみたいな子が来るところじゃないんだよ。」
半分怒って、半分笑って、会場に戻って行った。それが、あかりちゃん。
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「あかりちゃんに出会えて本当に良かった!HYEIのライブで出会えたのが奇跡……。」
「マユは強くなったね。」
あかりちゃんは半分泣いて、半分笑ってた。
あかりちゃんは、大阪に来たら遊ぼう。って言って、帰って行った。
つづく。
※この作品は「カクヨム」にも掲載しています。