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まるで恋人みたいに

『お揃いのストラップをつける』


ノートに書いた願いを見つめながら、私は自然と頬が緩んだ。


智希は最初、「ストラップかぁ……まぁ、いいんじゃないか?」と軽く流していたけれど、いざお店に行く約束をすると、なんだかんだで付き合ってくれることになった。


「じゃあ、今度の休みに、一緒に買いに行こう!」


そう言うと、智希は「はいはい」と苦笑していたけれど、少しだけ楽しそうだった。



そして迎えた休日の午後――。


私たちは、一緒に駅前の雑貨屋さんへ向かった。



「こんなに種類があるんだね……」


雑貨屋のストラップコーナーには、シンプルなものから可愛いものまで、たくさんの種類が並んでいた。


「有紗、優柔不断だから時間かかりそうだな」


「そ、そんなことないもん!」


「へぇ、じゃあすぐ決められる?」


「……それは、じっくり選びたいから……」


「ほらな」


智希にからかわれながら、私はいくつかのストラップを手に取ってみる。


どれも可愛いけど、せっかくならお兄ちゃんとお揃いにしても違和感のないものがいい。


「これとかどうだ?」


智希が指さしたのは、猫のシルエットがついたストラップだった。


「わぁ、かわいい!」


シンプルなデザインだけど、さりげなく猫の形があしらわれていて、おしゃれな雰囲気だった。


「有紗、猫好きだろ?」


「うん! これがいい!」


智希とお揃いのストラップを選んで、レジへ向かう。


たったそれだけのことなのに、すごく嬉しくて、心が弾んだ。



お店を出ると、春の暖かい風が吹いていた。


「さて、帰るか」


智希が歩き出す。


私は、その横を歩きながら、手の中にある小さな袋を見つめた。


お揃いのストラップ……なんだか、それだけでお兄ちゃんとの繋がりが深まった気がする。


もっと、お兄ちゃんを近くに感じたくて――。


私はそっと、智希の手に触れた。


「……ん?」


智希が私を見る。


でも、私はそのまま意を決して、智希の手をぎゅっと握った。


「有紗、どうした?」


「え、えっと……その……」


私は言葉に詰まりながらも、ぎゅっと握りしめた手を離さなかった。


「ノートに書いた願いなの。『手を繋いで歩く』って……」


「有紗、そんなこと書いてたのか?」


「うん……」


「なんか、小さい子供みたいだな」


「そ、そういうことじゃなくて……」


「……ま、いいか」


智希は小さく笑って、繋いだ手をそのままにしてくれた。


それだけで、胸が高鳴る。



しばらくそのまま歩いていると、智希がふっと立ち止まった。


「……ん?」


「手、こっちの方がいいんじゃないか?」


智希はそう言うと、私の手を握り直した。


――恋人つなぎ。


「っ……!」


指と指が絡まるように繋がれた手。


ドキドキする。


顔が熱くなる。


「ど、どうして……?」


「有紗が急に手を繋ぐから、仕返し?」


「仕返しって……」


私は唇を尖らせるけれど、心の中では嬉しさでいっぱいだった。


「……嬉しくない?」


「……ううん、嬉しい」


「そっか」


智希は、それ以上何も言わずに、繋いだ手のまま歩き出す。


まるで、本当に恋人みたいで――。


私は胸の高鳴りを抑えながら、その手の温もりをぎゅっと感じていた。



家に着いたあとも、私の心臓はまだ少しドキドキしていた。


「ほら、有紗の鞄にストラップつけてやるよ」


「……うん」


智希が、器用に私の通学鞄にストラップをつけてくれる。


「はい、できた」


「ありがと……」


通学鞄についた、小さな猫のストラップ。


「お兄ちゃんのもつけた?」


「もちろん」


お兄ちゃんの通学鞄にも、同じ猫のストラップが揺れていた。


「ふふ、お揃いだね」


私は鞄を胸に抱きしめる。


手を繋いだ時のことを思い出して、また顔が熱くなる。


このストラップを見るたびに、今日のことを思い出すんだろうな――。

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