禁断の恋
夜の静寂の中、私はベッドに座り、指輪を見つめていた。
クリスマスの夜、智希がくれた指輪。
何度も指に通して、何度も外して。
「……智希……」
ぽつりと名前を呼んでも、返事はない。
私たちは恋人じゃない。
どれだけ愛しくても、触れ合っても、それ以上に深く繋がることは許されない。
「……どうして……?」
こんなに好きなのに、どうして――。
指輪をぎゅっと握りしめると、涙がポタリと落ちた。
胸が痛くて、苦しくて、息が詰まりそう。
「智希……」
会いたい。
今すぐに――。
ドアをノックする音。
「……有紗?」
智希の声。
はっとして涙を拭ったけれど、扉の向こうの気配に気づかれている気がした。
ゆっくり扉を開けると、智希と目が合う。
「……どうした?」
智希は私の顔を見るなり、すぐに異変に気づいたみたいだった。
「泣いてる?」
「……っ、泣いてなんか……」
強がろうとしたのに、涙がまた滲んでくる。
「……お兄ちゃん……」
その一言だけで、胸がいっぱいになってしまう。
智希は何も言わずに、私の手を引いて、ベッドの上に座らせた。
「話して」
「……」
「有紗がそんな顔してるのに、何も知らないままでいるのは嫌だ」
智希の手が、私の頬を優しく包む。
温かくて、優しくて、触れられるだけで涙が溢れてしまう。
「……私たち、恋人みたいだけど……でも、本当の恋人にはなれないんだよね……」
小さな声で呟くと、智希の瞳が揺れた。
「そんなの、つらすぎる……」
「……有紗……」
「お兄ちゃんがくれた指輪、すごく嬉しかった。でも、これを見るたびに、もっと苦しくなるの……」
智希の腕が、ぎゅっと私を抱きしめる。
「俺も同じ気持ちだよ」
「……」
「有紗を抱きしめるたびに、キスをするたびに、もっと――って思う。だけど、俺たちは……」
「……やだ」
「……」
「嫌なの。もっとお兄ちゃんに愛されたい……本当の恋人みたいに、全部……」
涙が止まらなかった。
智希の温もりをもっと感じたいのに、これ以上を望んじゃいけない。
それが苦しくて、悲しくて――。
「……有紗」
智希はそっと私の顔を上げて、真剣な目で見つめてきた。
「……俺も、本当は……」
「……?」
「もっと、有紗を……」
智希の指が、私の唇に触れる。
優しく、だけど、戸惑いを含んだ指先。
「……でも、それでも……俺たちは、ずっと一緒にいる」
「……っ」
「たとえ形にできなくても、有紗が俺を好きな気持ちと同じくらい、俺も有紗を好きだから」
「……お兄ちゃん……」
「だから、泣かないで」
智希は私の涙をそっと拭って、額をコツンと合わせた。
「有紗を苦しませたくない、俺は有紗を離さない」
「……」
「有紗がどんなに俺を求めても、それを拒んだりしない。でも、どんなに強く想っても、俺たちはこのままだ」
「……うん……」
「それでも、俺は有紗を誰よりも大切にする」
智希の腕が、私をぎゅっと抱きしめる。
「俺たちは……たとえ繋がれなくても、ずっと恋人だよ」
「……」
智希の胸の鼓動が聞こえる。
私の全てを包み込むみたいに、強く抱きしめてくれる腕。
それだけで、涙がまた溢れそうになる。
「……大好き」
「俺も、大好きだよ」
今まで何度も交わしてきた言葉、「大好き」――。
何度言われても、私の心は強くて温かい愛で満たされる。
この想いは、永遠――。
お兄ちゃんを求めちゃうけど、もう、心は深く繋がってる。この繋がりを、より深めていきたい。