聖夜、くちびるの温もり
街はすっかりクリスマスムードに包まれ、キラキラと輝くイルミネーションが、まるで魔法の世界に迷い込んだようだった。
「すごく綺麗……!」
私は智希の腕にそっとしがみつきながら、光のトンネルの中を歩く。
「お兄ちゃん、見て! あのツリー、めちゃくちゃ大きい!」
「ほんとだな。あんなの家に置いたら、有紗の部屋、全部埋まりそう」
「そんなこと言わなくていいの!」
「はは、ごめん」
智希は私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「でも、有紗が喜んでるの、見てるだけで楽しい」
「……っ!」
そんなこと言われたら……胸が、ぎゅってなる。
ずるい……
ふいに手を繋ぎたくなって、そっと智希の袖を引っ張る。
「……ん?」
「……寒いから、手……」
恥ずかしくて最後まで言えなかったけど、智希はすぐに察してくれた。
「ほら」
すっと伸ばされた手を、ぎゅっと握る。
指と指を絡める、恋人つなぎ。
「……あったかい」
「有紗の手、冷たすぎ」
「寒かったんだもん……」
「これからは、ずっとこうしてればいいな」
「……え?」
「俺があっためてやるから」
「~~っ!!」
恥ずかしくて顔が熱くなる。
クリスマスにそんなこと言うの、反則だよ……!
智希は、私の反応を楽しむようにくすっと笑った。
クリスマスマーケットに着くと、あちこちから甘い香りが漂ってきた。
「お兄ちゃん、これ見て! 焼きたてのチュロスだって!」
「あぁ、いいね」
一緒に買ったチュロスを、二人で食べながら歩く。
「お兄ちゃん、チュロス半分こしよ?」
「ん……ほら」
智希が持っていたチョコレートたっぷりのチュロスを、そっと差し出してくれる。
私は遠慮なく一口かじる。
「ん~……おいしい!」
「そりゃよかった」
ほんの少し、私の頬にチョコレートがついてしまったらしい。
智希、くすっと笑いながら親指でそっと拭ってくれた。
「……っ!」
その仕草に、心臓が跳ねる。
「……可愛い」
「えっ……」
不意に零れた智希の言葉に、顔が一気に熱くなった。
「も、もう……!」
「照れるなよ」
「お兄ちゃんのせいだもん……」
口を尖らせながらも、幸せすぎて、胸の奥がいっぱいになる。
この時間が、ずっと続けばいいのに……
二人でイルミネーションの下を歩き続ける。
「有紗」
ふいに、智希が立ち止まった。
「え?」
「プレゼント、渡す」
「……!」
智希はポケットから、小さな箱を取り出した。
「……開けてみろ」
緊張しながら、そっと箱を開く。
「……っ!」
そこに入っていたのは――
指輪だった。
シンプルだけど、どこか温かみのあるデザイン。
小さな宝石がひとつ、優しく輝いている。
「お、お兄ちゃん……これ……」
「有紗のために選んだ」
智希は、私の手をそっと取ると――
「え……っ!?」
片膝をついた。
まるで、プロポーズみたいに。
「……俺は、有紗を愛している」
優しく、指輪をはめてくれる。
指先が震える。
「私も、愛してる……」
「……ああ」
涙が、溢れそうになる。
「お兄ちゃん……」
「有紗」
お兄ちゃんは、私の頬にそっと手を添えると――
「……目、閉じて」
「えっ……」
心臓が、早鐘を打つみたいに鳴る。
私はそっと、瞼を閉じた。
――そして。
ふわりと、優しい温もりが触れた。
お兄ちゃんの唇が、私の唇に重なる。
初めてのキス。
柔らかくて、あたたかくて、涙が出そうになるくらい――幸せな時間だった。
「……大好きだよ」
智希の言葉が、冬の夜に溶けていく。
「……私も、大好き」
雪が静かに降り始める。
まるで、この瞬間を祝福するかのように。
こんなに幸せなクリスマス……もう、忘れられないよ……
私たちは、恋人以上の絆で繋がっていた。