お兄ちゃんの想い
手を繋いだまま、智希はずっと黙っていた。
私の心臓は早鐘を打つようにドキドキしている。
「……お兄ちゃん?」
声をかけると、智希は小さく息をついて、意を決したように口を開いた。
「有紗……」
真剣な瞳で、私をまっすぐ見つめる智希。
「俺、有紗のこと……一人の女の子として、好きだ」
——ドクンッ。
心臓が大きく跳ねた。
「……え?」
「妹としてじゃなくて、ちゃんと……女の子として好きになってた」
その言葉が信じられなくて、私は目を見開いたまま固まった。
「……ほんとに……?」
「本当だよ。……ずっとごまかしてたけど、やっぱり無理だ」
智希は困ったように笑いながら、手を強く握る。
「有紗が告白してくれたとき、すごく嬉しかった。でも、兄妹だから……って、自分に言い聞かせてたんだ。でも……やっぱりダメだ。有紗が好きだって思いが、どうしても消せなくて」
私は、信じられない気持ちと、胸がいっぱいになるような感情が入り混じって涙が溢れた。
「私……私も……ずっと好きだった……」
「うん……」
智希は少し切なそうに笑う。
「もう我慢できない。……俺たち、兄妹だけど……気持ちだけでも恋人になろう?」
「……気持ちだけ……?」
「うん。誰にも言えないし、形にはできないけど……お互いに好きって気持ちだけは、本物でいよう」
その言葉が、どれほど嬉しかったか分からない。
「……うん。気持ちだけでいい……お兄ちゃんが私を好きでいてくれるなら、それだけでいい」
涙を拭いながらそう言うと、智希は起き上がった。
私もつられて起き上がると、智希はぎゅっと私を抱き寄せた。
「……好きだよ、有紗」
「私も……大好き」
布団の上で抱きしめ合い、二人は静かに、でも確かに恋人になった瞬間だった。
翌朝、目を覚ますと隣には智希がいた。手を繋いで眠った昨夜の余韻がまだ残っている。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう、……有紗」
少し照れくさそうに見つめ合い、ゆっくりと支度を始めた。
電車に乗り、観光地に到着。
「有紗、どこ行く?」
「ねえねえ、あのソフトクリーム食べたい!」
「……やっぱり甘いものか」
「だってお兄ちゃんも好きじゃん」
「まぁな」
二人でソフトクリームを食べながら写真を撮り合う。
「有紗、次はどこ行く?」
「あの遊覧船に乗りたい!」
「じゃあ行くか」
船のデッキで風を浴びながら、自然と寄り添う。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「……手、繋いでいい?」
「……今さら?」
「いいからっ」
笑いながら手を繋ぎ、二人きりの世界を満喫した。
帰りの電車でもずっと手を繋いだまま。
「お兄ちゃん、楽しかったね」
「……あぁ」
「また行こうね」
「あぁ……絶対」
二人きりの旅行。いつもと違う二人の時間。そして、今までとは違う私たちの関係。
私たち、やっと両思いになれたね——