Fight 34. 新たな技
更新しないとあっという間に閲覧数が減っていくの怖っ、怖いですよ
突然襲いかかってきた慧秀を見ても、鈴木は全く慌てた様子も驚いた様子もない。
肺裂拳が目の前に迫ってきても、ただ少しため息を吐くだけである。
「やれやれ……やはり私の理想はどうにも理解されないようだ」
鈴木は慧秀の拳を掌であっさりと受け止めた。
完全なる不意打ちが簡単に見切られた慧秀が驚きの声を上げる間もなく、鈴木は反撃に入る。
「ふんっ!」
ドゴォっと強烈な音が慧秀の腹から鳴る。
鈴木の腹パンがモロに突き刺さったのだ。
「はうっ」
たまらずその場に蹲る慧秀。
鈴木は彼を見下ろしながらやれやれといったように口を開く。
「凜々志にも遠く及ばない君が、その師である私に勝てると思ったのか?」
「すいません……なんかさっきの話で全身の身の毛がよだって“コイツ今すぐ殺さねえと”って思ってしまいました」
「またか……。この話を聞いた者は何故か皆私を殺そうとしてくる」
先程よりも大きなため息を吐いて鈴木は嘆く。
「凜々志ですらたまにキレて私を殺そうとしてくるのだ」
「いや当たり前だろ」
幼い子供同士の性行為が大好きな異常性愛者というだけで相当気持ち悪いのに、性被害を受けて負った心の傷を性行為で治そうと提案してくる。
そんな奴に抱く嫌悪感は計り知れないほど大きなものになるに決まっているだろう。
「凜々志以外の門下生達は大半、私の考えをわかってくれたのだがな」
「……はい?」
「この道場にいる他の子達は皆、運命の女児や男児と出会いインピオ・セックスをして結ばれているのだ。彼らは素晴らしき純愛の証を私に見せてくれる───」
感慨深げに言う鈴木。
そういえば、と慧秀は思い出す。
この道場にきた際、やたらと仲睦まじげにしている少年少女のカップルが多かった事を───。
(まさか……あの子達は皆もう既に……)
流石に開いた口が塞がらない。
殺人術の修練に励んでいる以外はごく普通の子供達に見えたあの者達が皆、ある意味では人として慧秀よりずっと先に行っているというのか。
「凜々志も今年で11歳。あと一年と少しで小学校を卒業し男児ではなくなる。凜々志はその前にどうにか皆川零花の処女を貰い受け、彼女とインピオ・セックスで結ばれ、生涯離れぬ恋人同士とならねばいけないのだがな」
「俺がもう少し強かったら師匠に代わってアンタをぶち殺してるところですね」
「ワンパンで返り討ちに遭っておいてよく言えたものだな……。大体、さっきの肺裂拳だって雫子のそれと比べるとまるで踏み込みがなっていな───」
その時、鈴木が何かに気付いたような顔をする。
顎に手を当て、少し考え込み始めた。
「……橋爪慧秀」
「なんですか?」
「もしかしたら、一つだけあるかもしれない。今の君が決戦までに習得可能な、徒手で使える白命流の技が───」
「!?」
そして鈴木は口を開き、伝える。
慧秀が涙霧や雫子を納得させるための“何か”となり得るかもしれないその技の名を。
◇
「……なるほど。ここ最近なんかコソコソしてると思ったらあの変態のところに行ってたわけか」
早くも、鹿島や大井川らとの戦いから一週間が経った。
その間、黎命流の修行の傍ら白命流にも顔を出していた慧秀はこの日、雫子と涙霧にその事を打ち明けつつ修行の成果を見せようとしていた。
「……その口ぶりだと、やっぱり鈴木師匠がどういう人間かは知っていたんですね」
「ああ、あいつの異常性癖は昔からだ。何回か本気でぶち殺そうとした事もあるが、奴は異常に生命力が強くてな……いまだに上手くいっていない」
一人の良識ある人間として、あるいは親戚流派の宗家として。雫子は子供達に良からぬ影響を与えまくり、流派の名と看板を汚す鈴木にブチ切れた事が何回かある。
だが鈴木はただでさえ強い上に信じられないほど生命力が強い。
子供達や流派のために鈴木を殺しにかかっては上手く行かず、長引く消耗戦に疲れ果てて諦め、結局なあなあになってしまう。そんな事を繰り返しているのだという。
「それに……。あいつはあくまで幼い少年少女が純愛の末に結ばれてセックスするのを見るのが好きなだけで、別にペドフィリアというわけじゃない。“インピオ・セックス”とやらを見ながら隅の方でシコったりはするが、自らが子供達に手を出した事は一度としてないんだ。だから、まあ……」
本当は良くない事は承知の上で。児童に性的暴行するような人面獣心の輩と比べればまだマシだ、と自分に言い訳をして放置してる。というかせざるを得ないようだ。
「無駄に権力者とのコネクションもあってな……司法の裁きを受けさせるのも困難なんだ」
疲れ切った顔をしながら語る雫子。
鈴木に関しては、幾度となく何とかしようとしては徒労に終わった経験を積み重ねた結果、もはや諦めの境地に至った。そんな表情をしていた。
横で聞いていた涙霧もドン引きの表情をしている。
「まあだがそれはともかく。あいつは人としては狂人と言うほかないが、武術家としては本物だ。そんな男から指導を受け、私と涙霧を納得させるに足る“何か”を掴めたから見てほしい……そんなところだろう?」
「ええ、まさに」
閑話休題。
鈴木に関する話に区切りをつけ、本題に戻る。
「白命流の“とある技”を黎命流と組み合わせて使う───それが答えです」
「ほう? だがあそこの“統間”は習得にかなりの時間を要するはずだが」
「いえ、“統間”ではありません」
答えながら、慧秀は“内臓揺らし”の構えを取る。
雫子はその意図を察し、自らも受けの構えを取る。
「俺が会得したのは───白命流“滅空”です」
直後。ズゥン、と部屋全体が揺れるほどの衝撃が響いた。
“滅空”を併用して放たれた慧秀の“内臓揺らし”を腕でガードした雫子は驚きを隠せず、目を丸くしたまま呟いた。
「……驚いたな。わずか一週間でここまで───」
雫子の腕はビリビリと痺れ、衝撃により赤くなっている。“気”である程度ガードしていたにもかかわらず、だ。
彼女は涙霧を見て問う。
「どうだ涙霧、近藤乃莉凪の相手は慧秀に任せてもいいんじゃないか?」
「……ええ。確かに認めざるを得ませんね」
渋々、といった感じだが、そう答える涙霧。
ふう、と軽く息を吐いて慧秀の顔を見る。
「分かったわ、近藤の相手は橋爪くんに任せて、私は平河希美をやる。仮に橋爪くんが負けても、私が二人倒せばいいだけだしね」
「ありがとうございます」
ただし、と涙霧は釘を刺す。
「その新技の威力は認めるけど、それがあるから必ず勝てるというわけじゃない。重々気を抜かないようにしなさい」
「もちろんです。残りの一週間、さらに励みます」
「あと中間テストもね」
「あっ……」
黎命流、白命流、そして期末テストに追われて忙殺される慌ただしい一週間はあっという間に過ぎていった───。
どんな技なのか───?




