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Fight 32. 新泉凜々志の哀しき過去……①

もしかして過去編を3〜4000字くらいで1話でまとめるのは不可能なんじゃないですかね?

 新泉凜々志は元々、どこにでもいるような普通の少年だった。ごく一般的な家庭に生まれ、本来なら争いとも殺人術とも無縁な人生を歩み、ごく普通で当たり前の幸せを享受できたはずの人間だったのだ。


 幼少期の凜々志は大人しくて少し気が弱いが優しく人懐っこい性格の子供だった。

 今のような、髪を金髪に染め、肌を浅黒く焼き、殺人術でバトル・ファッカーを何人も血祭りに上げるような尖った性格とは全くの真逆の人格を備えていたのだ。


 そんな彼を変えたきっかけとなった一人の人物がいる。


 幼い頃、凜々志には大好きな人がいた。

 新泉家と家族ぐるみで仲良くしていた隣の家の長女、凜々志より7つ年上の高階たかしな麻矢子まやこである。

 凜々志が赤ん坊の頃からの付き合いで、幼稚園の頃はよく一緒に遊んでもらった、いわゆる“お隣のお姉さん”という関係だった。

 子供好きで優しく、凜々志を可愛がってくれる麻矢子の事を凜々志は大変好いていた。将来は麻矢子お姉さんと結婚したいなどと、淡く幼い夢想を抱いた事もあったくらいだ。

 麻矢子が中学に進学してからはあまり顔を合わせなくなったが、凜々志はいつも彼女の事を考えていた。


 だが凜々志が小学校に入学した頃、事件は起きた。


「久しぶりだね凜々志くん、元気にしてた?」


 ある日、凜々志は下校中に懐かしい声を聞いた。

 後ろから投げかけられた言葉に驚き、振り返ると彼の顔はパァっと明るくなった。


「麻矢子お姉さん!」


 そこには中学生になった憧れの人がいた。

 最近は互いに新しい生活で忙しくなり、昔のように一緒に遊ぶこともなくなっていたが、その容貌は記憶の中の彼女の面影を残したままだった。


 凜々志は嬉しそうな顔で麻矢子に駆け寄り、彼女に挨拶をする。


「僕は元気だったよ! 麻矢子お姉さんは?」

「ふふ、私もよ。凜々志くんの元気な姿を見れて私も嬉しいわ」


 凜々志と麻矢子はその場でしばらく他愛もない話をする。

 小学校に入学したこと、新しく出来た友達のこと、学校のテストで100点を取れたこと───。会っていなかった間、麻矢子に聞いてほしいと思っていた事を沢山話した。

 話がひと段階した頃、麻矢子は凜々志にふと問いかける。


「ところで凜々志くん、この後って空いてる?」

「? うん、特に何もないよ」

「じゃあ久しぶりに私の家に来ない? ジュースとお菓子も出すよ」


 久しぶりに麻矢子お姉さんと遊んでもらえる。

 そう思った凜々志は二つ返事で「行く」と言った。

 手を繋ぎ、彼女に引かれる形で凜々志は隣のお姉さんの家に入っていった。


 そこが、彼の心に一生消えない傷を残すケダモノの巣であったとも知らずに───。



「お、お姉さん……この人達は……?」

「私のお友達よ、みんな凜々志くんと仲良くなりたいんだって」


 何年か振りに麻矢子の家に上がった凜々志は当惑する。

 彼女の家のリビングに、全く知らない何人かの男女が既に居座っていたからだ。


「麻矢子お姉さんのお父さんとお母さんは……?」

「パパとママは出掛けていて遅くまで帰ってこないの。だから今日は私たちと遊びましょ」


 ほら挨拶して、と促され凜々志は名乗りながらペコリと頭を下げるが、彼は麻矢子の“お友達”に対して怯えを隠せなかった。


 幼い子供ながら───いや、だからこそと言うべきか。凜々志は麻矢子の家にたむろしている男女がまともな人間ではないのではないか、と直感で感じていたのだ。

 顔つきも雰囲気も彼等が凜々志に向ける視線も、全てが凜々志に警戒心を抱かせるには十分な怪しいものだった。


 それでも凜々志はその場から逃げ出さなかった。彼らと麻矢子が親しい関係なのは本当のように見えたからだ。

 凜々志は麻矢子の事を信じていた。

 彼女の友達ならきっと悪い人ではないはずだ、仮に何か起こっても麻矢子なら止めてくれるだろう、そう思っていたのだ。


「ねぇ、凜々志くんは格闘技に興味はある? 空手とかボクシングとか」

「え……ううん、あんまり……」


 そんな凜々志に、麻矢子は不可解な問いを投げかけてくる。

 格闘技。その三文字が麻矢子の口から出てきた事に凜々志は困惑を隠せない。彼の知る麻矢子はそんな野蛮なものとは無縁の性格をしていたはずだからだ。

 それに、麻矢子だって凜々志がそんなものに興味を示さない子供である事は知っているはずなのに……。


「そんな事言わずにさ、やってみようよ。実は凜々志くんのために用意したんだよ」


 戸惑う凜々志に構わず、麻矢子は鞄から何かを取り出す。

 それは小児用のボクシング・グローブだった。


「えっ、やってみるって……?」

「私と少し打ち合いしようよ、好きなように殴ってきていいよ」


 そう言いながらグローブを差し出してくる麻矢子。

 本音では、凜々志は別にそんな事やりたくはなかった。麻矢子の家に入ったのだって、てっきり昔みたいに一緒にテレビゲームをしたり、ボードゲームやトランプで遊んでもらえるのだと思ったからだ。凜々志は他人と殴り合うような競技に興味などなかったし、ましてや相手が尊敬しているお隣のお姉さんとなれば尚更気が進まない。


 しかし、凜々志はわざわざ自分のために子供用のグローブを用意してくれた麻矢子の好意を無下にする事が出来なかった。嫌だと言ったら麻矢子を悲しませてしまうかもしれない。そう思うと断れなかった。


「う、うん……」


 そうして凜々志はグローブを受け取る。それを確認すると麻矢子も自分のグローブを取り出し、自身の手に嵌める。


「さっ、好きなところに打ってきていいわよ」


 手を広げ、打ってくる事を促す麻矢子。

 だが、凜々志は憧れの人に殴りかかる事を躊躇し、しばらく困ったように自分の手と麻矢子の顔を交互に見ながらオロオロとしていた。


「遠慮しないの、ほら」


 麻矢子は困惑している凜々志に優しく微笑みかけ、彼の手をそっと掴んで自分の腹のところに当てさせる。


「こんな感じでやればいいのよ、ほら」

「う、うん……」


 その笑顔は昔のままだった。昔、一緒に遊んだ際にゲームのコントローラーの操作を教えてくれた時と同じ、優しい麻矢子のままだった。

 だから凜々志は彼女を信じて、ようやくパンチを繰り出した。


 ポス、と軽い音がした。

 当時7歳で全くの素人だった凜々志。体格差に加え、躊躇いが抜け切れていなかったそのパンチは打撃というより軽く手を前に突き出しただけだった。


「ふふっ、上手上手」


 それでも麻矢子は褒めてくれた。

 凜々志は安心した。やっぱり麻矢子お姉さんは昔のままだ、さっきからしていた嫌な予感はやっぱり自分の杞憂だったんだ、と。


「じゃあ、今度は私の番ね」


 だが次の瞬間。

 凜々志が感じたのは、今まで味わったことがないほどの衝撃が腹を突き抜ける感覚だった。


「がっ、ひゅっ……」


 ドスッ、と鈍く重い音が自分の体の中から鳴るのが聞こえた。

 身体がくの字に曲がり、強烈な痛みと気持ち悪さが襲いかかってきた。前のめりに倒れ込んだ凜々志は何が起こったのか理解できなかった。


(あ、え……? 麻矢子……お姉、さん……?)


 額に脂汗が浮かび、喉から気持ち悪い吐息が込み上がってくるのを我慢して、おそるおそる顔を上げて前を見る。


 凜々志が目にしたのは、パンチを放った状態のまま立っている麻矢子の姿だった。


(なん……で……)


 理解できなかった。理解したかなかった。

 麻矢子が、自分の腹を思いっきり殴ってきたなんて。


「ふふっ、うふふ……!」


 麻矢子は倒れ込んで苦しんでいる凜々志を見て、恍惚とした笑みを浮かべて笑っていた。


「悶えてる凜々志くん、すごく可愛い……」

「お、お姉さん……?」

「ああ、もう我慢できない。ようやく欲望をぶちまけられるわっ」


 麻矢子はそう言うと凜々志の服を脱がせにかかった。

 驚いた凜々志は抵抗しようとするが、腹へのダメージのせいで上手く動けない。あっという間に全ての服を剥ぎ取られてしまった。


「や、やめて……なんで、こんなこと……するの……っ」


 凜々志を全裸にした後、麻矢子は自らも服を脱ぎ始めた。

 何をされるのか、幼い凜々志には具体的には分からなかったが、それでも本能からくる恐怖が危険信号を出していた。


「お、お姉さん……やめて、怖いよ……やめて……どうして、どうしてこんな酷いこと……」

「心配しないでいいのよ凜々志くん、今からするのはとっても気持ちいいことだから───」


 そして、麻矢子の手が凜々志の肌に触れた───。



 麻矢子は当時の凜々志には分からない、色々な事を彼の身体に行った。

 身体と心に刻まれた数々の傷と共に解放された時、凜々志はガクガクと身体を震えさせ、涙で頬を濡らしていた。


 自分は一体何をされたのだろう。

 なんで優しかった麻矢子お姉さんはあんなに怖い目をしていたのだろう。


 何もかも分からなかったが、幼い凜々志でもこれだけはわかった。


 自分は、とても嫌な事をされた。

 麻矢子は何かとんでもない事を、無理矢理凜々志に対して行ったのだと。


 痛かった。苦しかった。怖かった。

 何より、大好きな麻矢子お姉さんが、自分をそんな目に遭わせたという事実が一番苦しかった。


「麻矢子お姉さん……なんで、なんで……」


 彼はショックのあまり、泣きながらそう問いかけ続けることしかできなかった。

 しかし、麻矢子はそれに答えようともせず、ずっと待機していた“お友達”に対して言い放った。


「お待たせみんな。みんなも凜々志くんと遊んであげてね」


 麻矢子のその言葉を聞いた瞬間、凜々志の頭の中が一瞬で真っ白になり、心は瞬時に凍りついた。


「ひっ……!」


 逃げなければ、そう思った凜々志は立ち上がり駆け出そうとする。


「おおっと待ったァ」


 だが恐怖で硬直し、麻矢子による陵辱で疲弊した身体ではそれも叶わず、あっという間に捕まってしまった。

 凜々志を捉えた男は、舐め回すような視線で彼を見て、手でデリケートな部分を遠慮なく撫でてきた。


「へへっ、やっぱこのくらいの歳のガキは綺麗なケツをしてるぜ」


 凜々志は先ほどよりもより大きな恐怖を感じた。

 このままだと自分は、さっき麻矢子にされた事よりもっと酷い仕打ちを受ける。そう確信していた。


「お、お姉さん助けて!」


 凜々志が縋ったのは麻矢子だった。

 幼い頃から知り合いで、何度も一緒に遊んでくれた、優しくて大好きだった憧れの麻矢子お姉さん。


「麻矢子お姉さんっ! 怖いよ! 嫌だよ! お願い助けて!」


 助けてくれると信じていた。あんな事をされた直後だったが、まだ自分の知る優しい彼女が残っているなら助けてくれるはずだ。

 凜々志はそう思って必死に呼びかけた。

 だが───。



「ふふ、うふふふふ……凜々志くん……」



 麻矢子は興奮したような目で凜々志を見て、顔を赤くしているだけだった。



「可愛いわ、とっても───」



 その瞬間、凜々志は自身の胸の奥で何かが砕けるような音がした。


 その後、ケダモノ達が獣欲を自身にぶつけていた時間がどれくらいだったのか、凜々志は思い出せないし分からない。

 彼は粉々になった心で、ただひたすら時間が早く過ぎ去る事を願っていた。何も考えないように、何も感じないように、何も言わないように───ただ両目から涙を流しながらじっと終わりが来るのを待っていた。


 彼が受けた苦痛は、身体的なものも精神的なものも計り知れないほど大きなものだった。とても幼い7歳の子供が耐えられるようなものではない。


 しかし、凜々志にとって一番辛かったのは。



 誰よりも信頼していた、大好きだった憧れの麻矢子お姉さんに陵辱され、裏切られた事だった───。



心に負った傷はあまりに深い───。


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小学生(それ)はダメだろガッ
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