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Fight 30. 凜々志の師匠

私事ですが、2番目くらいに推してたキャラがなんか変わり果てた姿で再登場するみたいな展開を読まされました

「なるほど……。おにーさんも大変なんですねぇ」


 道すがら、慧秀は今までの自分の経歴を凜々志に話していた。

 凜々志はそれを興味深そうに聞き、上記の感想を残した。


「おれとしちゃ、たかが中高生のバトル・ファック部如きにそんな強者がいるとは俄かに信じられないけど……。まあ、白命流に興味があるなら別に案内するのは構いませんよ」

「恩に着ます。凜々志師匠」


 ピタ、と凜々志の歩む足が止まる。

 聞き間違いであってくれ、と言いたげな苦々しい表情で振り向き、慧秀を睨む。


「……どういうつもりです? 今の」

「なにって、白命流において俺は凜々志師匠から色々教わる身です。目上の人間には敬意を込めた呼び方をしないと」


 本気で言ってんのかコイツは、と凜々志は内心で呟く。


「……おにーさん。小学五年生のおれとしちゃ、中学二年生に『師匠』とか呼ばれたり敬語使われるのはむず痒いを通り越して寒気がするんだけど」

「大丈夫です、俺は黎命流の道場でも小学生の姉弟子を『師匠』って呼んでますから」

「マジかよあんた……」


 というかそれ以前にまだ白命流から教えを受けられると決まったわけじゃないだろ、とぼやく凜々志。


「……皆川の奴も大変そうだな」

「えっ?」

「なんでもない。急ぎますよ」


 誤魔化すように急かす凜々志。

 だが慧秀は彼が確かに「皆川」と口にしたのを聞いた。


(……黎命流のことを、師匠の事を知ってるのか?)


 慧秀は凜々志の口にした「皆川」が自らの師である皆川雫子の事を指しており、もしや面識があるのかと考える。

 しかし、仮に知り合いだったとしても一流派の宗家で、しかも自分の親くらい歳の離れた彼女を苗字で呼び捨てにするだろうか……?


(ん? もしや……)


 だが、凜々志と歳が近い「皆川」姓の者が一人いた事に慧秀は気付いた。


(零花師匠と何か関係が……?)


 皆川零花。雫子の娘にして、慧秀の姉弟子。彼女なら凜々志と同じ11歳だし、知り合っててもおかしくない。苗字で呼び捨てにするのも違和感はない。


 だが慧秀は今日会ったばかりの相手に踏み込んで聞く気にはなれなかった。気になりつつも、特に深掘りする事なく凜々志の後を追うのだった。



「着きました。ここが白命流武器術の道場です」


 凜々志に案内され、やってきたのは黎命流の道場から四駅ほど離れた地域の中心地。

 駅からさほど遠くない好立地にその建物は聳え立っていた。


「……黎命流の3倍くらい広いんですが」

「あのオッサンやたらと金は持ってるからな」


 白命流の道場はとにかく広く、大きかった。敷地面積も建物の大きさもとても武術の道場とは思えない。

 見た目もかなり高級感のある立派な和風木造建築といった感じで、道場というよりどこかの名家の豪邸に見える。


 だが入り口に備え付けられた立派な門にはデカデカと『白命流道場』の文字があしらわれた看板が垂れ下がっており、ここが紛れもなく目指していた目的地である事を思い知らされる。


 現代にこんなに大きく景気のいい武術の道場なんて存在するものなのか?

 慧秀は疑問に思わずにはいられなかった。


「それと、うちの師匠はかなり……。いや、極めて癖が強くてイカれてるから気を付けてください」

「えっ」


 さらりと重要な事を言う凜々志。門をくぐる直前になってそんな事を言われた慧秀は内心穏やかではない。


「それってどういう……」

「しばらく会話すれば分かります。こっちです」


 だが凜々志は詳しい説明をしないまま、さっさと道場の中に入って行ってしまう。

 少し不安になりつつも慧秀はその後を追うのだった。



(……黎命流と違って凄い賑わってるな)


 凜々志に着いていき、白命流の道場に入った慧秀。

 道場の内部はとても広く、かなり多くの部屋があり入り組んだ構造をしていた。凜々志の案内がなければ確実に迷子になるだろう。


 だが、慧秀の興味は建物の構造よりも、行き交う人々の多さにあった。

 白命流は門下生の数がとても多かったのである。


(うちとは比較にならないほどの人数がいる……。師匠が見たら羨ましがりそうだ)


 凜々志の後に続いて廊下を歩いているだけで、もう20人くらいの人とすれ違った。

 黎命流は涙霧と慧秀くらいしか熱心に通う者がおらず、いつも閑散としいるのに対して、白命流は大賑わいの様子だ。

 とても殺人術を教える場所とは思えない。


 そして、慧秀は門下生達を見て気付いた事があった。


(なんか、やたらと子供が多い気がするな……)


 子供が多い、というより子供しかいない。

 目に映る白命流の門下生達は皆、慧秀よりずっと歳下の幼い子供ばかりだった。大きい者でもせいぜい小学校高学年くらいだ。


 そして、よくよく観察するともう一つ不思議な点がある。


「……凜々志師匠」

「その呼び方は結局変える気ないんだね」

「なんか……やたらとカップルが多くないですか、この道場」


 子供達はそのほとんどが、恋仲と思われる異性と一緒にいる者ばかりなのだ。

 仲睦まじそうに手を繋いで歩いている少年少女、休憩室で抱き合いながらじゃれている少年少女、修練場でペアを組み微笑み合いながら共に励んでいる少年少女……。


 とにかく、幼い子供同士のカップルばかり目につくのだ。


「あー……。気にしないでください」


 凜々志はバツが悪そうな顔をしてそう言う。

 慧秀の疑問に対し否定をしなかった。


 何やら異様な雰囲気に呑まれつつある慧秀だったが、不意に凜々志がとある部屋の襖の前で止まった。


「師匠ー、凜々志です。入りますよー」


 どうやらいつの間にやら目的の部屋に着いていたらしい。


 いよいよ白命流武器術の現宗家、凜々志の師匠に相対する。慧秀はゴクリと唾を飲み込み、緊張の面持ちで凜々志が襖を開けるのを見守った。



「おや、来客かね」



 現れたのは道着姿の中年

現れたのは道着姿の壮年の男だった。

 短く刈った黒髪、細いが鋭い目、そしてがっしりとした体格。落ち着いた物腰の柔らかそうな様子を見せながらも、隙のない佇まいをしている。


「ええ。白命流に興味があるらしいんですよ」

「ほう……。だが見た感じ、既に違う流派をある程度会得しているようだが?」


 凜々志の師匠は慧秀を一瞥しながら言った。

 一目で見抜かれるのか、と内心で驚嘆しながらも慧秀は名乗る。


「黎命流殺人術の皆川雫子師匠の元で世話になっています。橋爪慧秀と申します」


 よろしくお願いします、と頭を下げる。

 凜々志の師匠はそんな慧秀を見ながら興味深そうに「ほう」と呟く。


「黎命流……。それに皆川雫子とは……。また懐かしい名を聞いた」

「師匠をご存知なんですか!?」

「ああ、よく知ってるとも。昔はよく彼女と技術交流会を開き、互いの技を高め合ったものだ。よく本を借りパクされたが」


 凜々志の師匠は弟子の方を向き、聞く。


「それで凜々志。彼とはどうやって知り合ったんだ?」

「バトル・ファッカー狩りしてたら偶然エンカウントして、流れで一戦交えました。そしたら強くなるために白命流の技を教えてほしいと言ってきたんで連れてきました」


 簡潔に説明する凜々志。

 彼の師はその話を聞き、少し驚いたような顔をする。


「お前がバトル・ファッカーを倒す以外の目的で刃を振るうなど滅多にない事だ。この少年に一体何を感じた?」

「別に……。ただ、たまにはバトル・ファッカーも復讐も関係ないところで純粋に立ち合いをしたくなっただけですよ」


 そうか、とだけ言って凜々志の師匠はそれ以上の追求をしなかった。

 彼は再び慧秀をじっと見る。

 弟子に喧嘩をふっかけてきた他流派の者に怒ってるのか、と一瞬身構えた慧秀だが、彼がフッと笑いながら手を差し出してきたことでその心配は消える。


「私は鈴木秀興(ひでおき)。白命流武器術の当主であり、この子の師だ」


 慧秀が手を差し出すとその手を握り、よろしくと挨拶する鈴木。


「凜々志は強かっただろう?」

「はい……。完敗でした」


 朗らかな顔で自慢げに聞く鈴木に、慧秀も笑いながらそう答える。


(なんだ、いい人そうじゃないか)


 極めて癖が強い上にイカれてる、そう聞いていたからどんな危険人物かと思えばとても弟子思いな好漢だった。

 この時の慧秀はそう思っていた。


 数時間後、彼は鈴木の狂気を思い知る事になる。


ついに現れた白命流宗家───その実力や如何に!?


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