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Fight 27. バトル・ファッカー狩り

徐々に評価ポイントも付けてもらえるようになってきました!

私も嬉しいです。

「すいません近藤部長、平河副部長……。テストが近いのにお見舞いに来てもらって……」

「気にするな。可愛い後輩のためなら当たり前のことだ」


 やたらと高そうな果物が沢山詰まった見舞品のフルーツ・バスケットを置きながら、近藤は大井川の礼に返事をする。


 ここはとある病院。鹿島晴恵と大井川湘子が搬送され、入院している場所だ。彼女らの病室を近藤乃莉凪と平河希美が訪れていた。

 この病院はバトル・ファック界との繋がりがある者が営んでいる。バトル・ファックは非合法な存在故、通常の病院で怪我の理由などを聞かれて自身がバトル・ファッカーである事が露呈する事を恐れる者も多い。

 だからこういった業界と“提携”している医療団体があるのだ。


「主治医の先生から聞いたよ。鹿島、大井川、君達は……その……」


 先の言葉を口に出すのを躊躇う近藤。

 鹿島はそんな彼女に気を遣わせまいと、自分から続きを言った。



「ええ。肺の損傷が酷くて───もう一生、バトル・ファックのような激しい運動は出来そうにない、そう言われました」



 力無く笑いながら鹿島は言った。


「日常生活には支障はないらしいですけど……。もう、バトル・ファッカーとしてはやっていけなさそうですね。このまま引退です」


 大井川が鹿島に続くように言葉を漏らした。平静を装おうとしてはいるが、ベッドの布団をぎゅうっと握りしめている。


 近藤は彼女らにかける言葉が見つからず、ただ無言で項垂れて唇を噛みしめるだけだった。

 数年前、OBからの卑劣な性暴力に遭い、自死を考えるまで追い詰められていた二人と偶然出会い、止めたのが出会いだった。

 二人がOBに復讐するための手段としてバトル・ファックの技術を教えたのは他でもない近藤だ。近藤が鹿島と大井川をこの世界に引き込んだのだ。


(私が二人にバトル・ファックを教えなければ……こんな事にはならなかったかもしれない……)


 肺に深い後遺症を負った鹿島と大井川はバトル・ファックどころか、激しい運動全般が難しい身体になってしまった。

 今後、もしまた性暴力に遭ってしまったら抵抗できずに為す術なく蹂躙されてしまうかもしれないのだ。近藤は責任を感じずにはいられなかった。


(せめて……仇は取らねばならない)


 他人でしかない自分には鹿島と大井川の5年、10年先の未来の責任など取れない。しかし、彼女らに一生消えない傷を付けた者達に落とし前を付けさせる事なら今の自分にも出来る。


「聞いてくれ二人とも。私と希美も、今度あの二人───冴木涙霧と橋爪慧秀と戦うことになった。だから実際に相対したお前達から少しでも多く情報を聞きたい」


彼女のその言葉を聞いた鹿島と大井川は目を丸くしながら叫ぶ。


「なっ……それは駄目です! 危険すぎます!」

「あの二人の使う黎命流は私らの理解が及ぶものではありません!」


 慌てて近藤を止めようとする二人。黎命流の強さ、恐ろしさを身を以て体験した彼女らは敬愛する恩人が死地へ向かう事をよしとしない。

 しかし近藤の意思は固かった。


「相手の実力を侮っているわけじゃない。ただ、誰であろうと大事な仲間に手を出されて黙っているわけにはいかないんだ」

「で、でも……」


 なおも止めようとする大井川。しかし、ここでずっと後ろで三人の会話を見聞きしていた平河が口を挟む。


「無駄よ、こうなった乃莉凪はもう止まらない。もしあなた達が乃莉凪の無事を祈ってくれるなら、少しでも勝率を上げるために一つでも多く先の死闘の事を思い出して頂戴」


 近藤の親友にして、共に加美山学園バトル・ファック部の双璧を為す副部長、平河希美。

 最も近藤の近くにおり、最も彼女を説得できる可能性がある平河にそう言われてしまっては大井川も閉口するしかなかった。


「それと……私からも聞きたい事がある」


 平河は鋭い視線と共に問いかける。



「あなた達───何故自分らが襲撃されたのか、本当に心当たりはないのね?」



 平河の目に睨まれ、鹿島と大井川は一瞬身体を硬直させる。見透かされているかのようなその視線に恐怖すら覚える。

 しかし───。


「は、はい……全く、ありません……」

「何で襲われたのか、全然分からないです……」


 鹿島も大井川も、この期に及んでなお真実を打ち明ける事が出来なかった。


 自らのしてきた数々の蛮行も、その因果応報が先の死闘の末の肺の損傷という形で返ってきたのだという事も。二人は言えなかった。


 恩人であり、誰よりも敬愛している近藤乃莉凪が。自分らを完膚なきまでに叩きのめし、一生残る傷を刻みつけた、恐ろしく無慈悲な殺人武術の遣い手と戦う事になってしまってもなお。

 鹿島と大井川は、近藤乃莉凪に失望されるのが怖かった。


(言えるわけがない……!)

(知られるわけにはいかないっ)


 こんな後遺症などいくらでも受け入れる。肺裂拳を打ち込んだ当人らに復讐したいなんて考えてもいない。自分らが悪かった事などとうに認めている。


 ただ、全てを正直に打ち明けたら、人生の恩人である近藤乃莉凪に見放され見限られてしまう。

 彼女に尽くし支える事が全てだった二人にとって、それだけはどうやっても受け入れられない事だったのだ。


「……そう。ならいいわ」


 平河とて、後輩の様子がおかしい事に気がつかないほど鈍くはない。

 だが、ここまで強固に話したがらないとなると口を開かせるのは至難だ。引かざるを得なかった。

 その時、平河と二人の会話を聞いていた近藤が思いついたように言う。



「なあ、今思ったんだが───あの二人、“バトル・ファッカー狩り”と関係あったりはしないか?」




 夕方、加美山学園近辺の住宅街。その一画にあるとある道に、数人の男女が集結し、何者かを待ち構えていた。


「ここが橋爪慧秀と冴木涙霧が定期的に通っているのが目撃されている道なんだな?」

「はい、その通りです竹田先生」


 殆どが十代の学生で占められているその集団の中、一人だけ大人の女性がいた。



「うちの有望株を潰したケジメ……。この竹田ひろみが取らせてもらうわ」



 竹田ひろみ。加美山学園の古文教師にして、バトル・ファック部の顧問である。

 表向きは教職として勤めつつ、秘密裏にバトル・ファック部の部員達を指導し───さらにはプロのバトル・ファッカーとして時折試合に出ている。

 界隈ではそこそこ名の知れた実力者である。


「しかし先生。例の二人は当時部室にいた十数人の部員全員を倒してから大井川先輩達と戦ったと聞いてます。我々だけで勝てるのでしょうか……?」

「確かに正面からやればこの人数じゃ勝ち目は薄い……だから今度はこっちの方から奇襲を仕掛けるのよ」


 ボッボッボッ、と空を叩く音を立てその場でシャドー・ボクシングをしながら生徒の質問に答える竹田。


 大井川や鹿島達が不覚を取ったのは相手を攻める側に回らせてしまったから。こちらが守勢になってしまったら勝つのは難しいが、奇襲により先手を取ることさえ出来れば勝機はある。

 それが竹田の考えだった。


 故に、昨日部活に参加しておらず難を逃れた部員達を引き連れ、慧秀と涙霧を待ち伏せしているのである。


「ん?」


 その時、前方から何者かが歩いてくるのが竹田の目に入る。一瞬、橋爪慧秀かと思ったがすぐに違うとわかった。


(なんだ……子供か)


 その者はランドセルを背負った男子小学生だったからだ。色黒で髪を金髪に染めている、少し個性的な見た目をしており、見た目も橋爪慧秀とは似ても似つかない。


(けど、ここら辺に小学校なんてあったか?)


 なんて思いつつ、竹田はその少年から目を離した。

 しかし次の瞬間。



「う ぎ ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ っ」



 血飛沫と共に竹田の連れてきたバトル・ファック部員の悲鳴が響き渡った。


「なっ、なん───うぎゃあぁっ!?」

「何が起こっ───げばあぁっ!?」


 突然の事に気が動転したのも束の間、次々に断末魔にも似た悲鳴と血飛沫を上げながら倒れていくバトル・ファック部員達。

 一瞬にして辺りは阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「お、落ち着けお前達───」


 そんな中、このパニックを引き起こした人物を竹田は見つける。

 先程の男子小学生が、両手に銀色に輝くナイフを握りしめ、また一人部員を切り刻んでいるのを目の当たりにしたのだ。



 時を同じくして、近藤達は病室でバトル・ファッカー狩りについて話していた。


「バトル・ファッカー狩り……? あの冴木と橋爪っていう二人が……?」

「ああ。三ヶ月ほど前から都内の様々なバトル・ファック団体を襲撃し、ほとんどの選手を再起不能に追いやっているバトル・ファッカー狩り……何か関係がありそうじゃないか?」


 正体は一切不明。分かっているのは突然現れては圧倒的な強さでバトル・ファッカー達を無差別に切り刻み、精神の奥底まで一生残る恐怖を植え付け再起不能にする災害のような存在という事だけ。

 既にその毒牙にかかった団体は五つを数える。


 近藤は二人がその正体ではないかと推測を立てたのだが───。


「いえ……違うと思います」


 黎命流コンビと戦った当人、大井川がそれを否定する。


「バトル・ファッカー狩りに襲われた人達は皆、全身に多くの切り傷を負ってました。ほぼ全員が“ナイフを持っていた”とも言ってます。けど、冴木涙霧と橋爪慧秀はいずれも徒手でした」

「私もそう思います。二人とも打撃系が主体で引き裂くような技はなかったです。それに───」


 鹿島が大井川の言葉を続ける。



「バトル・ファッカー狩りに遭ったら……この程度の負傷では絶対に済まないはずですから……」




「ば……馬鹿な……」


 竹田ひろみは目の前に広がる悪夢のような光景を見ながら思わず呟いた。


 彼女が率いていたバトル・ファック部員達は瞬く間に謎の小学生により全滅させられてしまったのだ。


 部員達は全員、少年の持つ二刀のナイフで全身を切り刻まれ血塗れになりながらアスファルトに倒れている。

 気絶している者が大半だが、意識を保っている者も無事ではない。言葉にも呻きにもならない掠れた音をヒュー、ヒューと口から漏らすだけだ。


 少年は最後に残った竹田を睨みながら口角を上げる。次はお前だ、と言わんばかりに。


「お、お前は……何者だ……?」


 声を震わせながら問う竹田。

 少年はナイフを持ったまま、片手をサムズダウンの形にして竹田に向ける。そして狂気的な笑みと共に口を開いた。



「初めましてェ。“バトル・ファッカー狩り”の新泉にいずみ凛々志(りりし)でェ〜す」



この少年は一体───?


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― 新着の感想 ―
不思議ですね。小学生の新泉が超危険生物のように見える
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