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Fight 23. 大井川湘子と鹿島晴恵の哀しき過去…… ①

今回と次回は鹿島と大井川の哀しき過去編です。

 大井川湘子と鹿島晴恵が出会ったのは、実はバトル・ファック部ではない。

 彼女らは元々、そのようなアンダー・グラウンドな世界とは無縁の人間だったからだ。


 二人が出会ったのは加美山学園のテニス部だ。

 中学進学と同時に始めた未経験者同士であり、趣味も合う彼女らはすぐに仲良くなる。“親友”となるのにそう時間はかからなかった。


 だが入部から一年が過ぎ、二人が中学2年生になった頃の事だった。


 テニス部に突如、OBを名乗る二人の大学生が出入りするようになったのだ。

 彼等は一見すると先輩らしく丁寧に指導しているように見える。

 だが大井川と鹿島にはその視線が自分らの身体に向いているような気がしてならなかった。フォームを見てあげようなどと言いながらのボディタッチも多く、話しかける口調もどこか怪しい感じがするのだ。


 しかし二人の大学生は上級生や顧問に信頼されていた。入って一年の二人が相談したところで、先輩や教師は「考えすぎだ」と笑っていなすだけだった。


 そんなある日、事件は起きた。


 ある夏の暑い日、大学生達は差し入れと言って部員全員分のスポーツ・ドリンクを持ってきた。


「ほら、君達もどうぞ」


 大井川と鹿島にも朗らかな顔で渡してくる。二人とて彼等から渡されたものに対する警戒心がなかったわけではない。

 だが他の部員も同じものを飲んでいるし、何よりその日は暑くてとても水分を我慢出来るような気温ではなかったのだ。


 流石に自分らの思い過ごしだろう、と思うことにして二人はそのスポーツ・ドリンクに口を付けた。

 大学生が彼女らを狙い撃ちするために、その二本にだけ注射器で変なクスリを注入していたとも知らずに───。


 しばらくして、大井川と鹿島はほぼ同時に具合が悪くなった。強烈な怠さ、そして眠気に襲われたのだ。


「あっ、俺らで送りまーす」

「ちょうど帰る時間なんでついでッスよついで」


 薄れゆく意識の中で大学生達がそう言うのを聞いた二人。目を覚ました時、彼女らは知らない部屋にいた。


「ちょっ、ちょっと! ここはどこですか!?」

「あん? 俺らのアパートだよ」


 その答えを聞き、驚いた鹿島は当然抗議をする。


「な、何のつもりですか!? 帰してくださいっ」


 大学生はそれに対し───。


「うるせえんだよっ」


 強烈な平手打ちで返した。パン、と乾いた音ではなくバシンと鈍い音が鳴り、鹿島の身体は倒れる。


「ひっ……」


 躊躇なく暴力を振るってきた大人の男。目の前で打たれた親友。

 そんな光景を目の当たりにした事は、当時ただの女子中学生に過ぎなかった大井川を恐怖させるには充分すぎた。


 そして、自分らがこれから何をされるのかも察してしまった。


「言っとくが絶対に騒いだり大声で泣いたりじゃねえぞ。外に漏れるような声を出したら殴られるだけじゃ済まねえからな?」

「まあこのアパート他の住人は全員昼間いないから叫んでも無駄なんだけどなヒャーヒャヒャヒャ」


 二人の大学生がそう言いながら大井川と鹿島の腕を掴み、無理やり床に引き倒す。


「い、いやっ、やめてっ! 嫌ぁっ!」

「嫌だっ! やめてやめてっ、お願い許してぇっ!」


 何も悪い事をしていない無垢な少女が醜悪で悍ましい犯罪者に必死で許しを乞う。人の心を持たぬ鬼畜はそんな彼女らの懇願を嘲笑うかのように、大井川と鹿島を蹂躙した。


 二時間後。悪夢のような時間がようやく終わり、啜り泣く二人に向かって大学生達はスマートフォンの画面を見せながら言ってくる。


「ヒヒッ、今日のことは俺たちだけの秘密だよ」

「エロ動画サイトで有名人になりたくなかったら黙っとけよ?」


 その日から地獄が始まった。

 大井川と鹿島は撮られた動画をネタに何度も脅迫され、性的関係を何度も強要された。


 大好きだったテニスは出来なくなってしまった。

 テニス部に顔を出せばあの二人の大学生がいるかもしれないからだ。あの鬼畜を品行方正な好青年だと信じ切っている教師と部員がたくさんいるからだ。


 誰にも相談出来ず、ただ言われるがままに従わされ獣欲をぶつけられる日々。

 そんな地獄から救い出してくれたのが、他でもない近藤こんどう乃莉凪(のりな)だったのだ。


「───そうか。辛かったな」


 彼女と出会ったのは屋上だった。


 身も心も耐えきれなくなったから二人で飛び降りて死のうとした。それを偶然、当時中学3年生であり、中等部の生徒会長であった近藤乃莉凪が見かけて止めたのだ。


「私が君達の力になる。まずは、共に何が出来るか探そう」


 何故こんな事を、と聞かれたから事情を話した。

 近藤乃莉凪はその全てを信じてくれた。大井川と鹿島の訴えを否定する事も疑う事もなく、ただ信じて親身に聞いてくれた。


「今のところ、私が提示出来る選択肢は二つだ。もし君らが司法の裁きを望むなら、私の親の人脈を使って奴等を捕まえられる。弁護士や刑事に警察庁の官僚……父の“お友達”は色々といる。父の口から頼めば必要以上の追い込みをかけきっちり社会的に殺してくれるはずだ」


 まず提示されたのは真っ当な手段。然るべき機関に被害を訴え、法による裁きを下してもらうというものだ。


「そしてもう一つ───もし君らが自分らの手で直接奴らを叩き潰したいと望むなら、私がそのための手段を教授しよう」

「えっ?」


 直接叩き潰す……?

 つまり暴力という事か……?


 品行方正で通っている生徒会長からそんな提案が出るとは思ってもいなかった二人は困惑する。それに───。


「で、でも……中学生の私たちが大人の男に力で勝てるわけが……」


 そもそも非現実だと思ったのだ。


 何度も性交を強要された彼女らは二人の大学生の身体の分厚さと力の強さを知っていた。殴りかかっても返り討ちにされ更に酷い目に遭わせられるとしか思えなかった。


「そうだな……。格闘技に武道、あるいは筋トレなどで強くなろうとするのはかなり時間がかかる。なれたとしても地力の差を覆すのは難しい」

「で、ですよね?」

「だが、“バトル・ファック”の技術なら話が別だ」


 聞いた事もない変な単語を口に出したその時、近藤乃莉凪の目の色が変わった。


「特に性行為の最中であれば確実に決まる。体格差や筋力差があっても奴等の息の根を止める事が出来る」


 近藤は改めて二人に問う。


「さあ、“普通のやり方での社会的制裁”と“バトル・ファックによる直接的報復”……どちらを選ぶ?」


 これが、大井川湘子と鹿島晴恵がバトル・ファックと出会ったきっかけだった。


 その後、二人は悩んだ末にバトル・ファックを選び、自分らを凌辱した大学生らに復讐を果たした。

 乳圧で肉棒をプレスし、金的で睾丸を破壊して奪われた尊厳の代償を支払わせた。


 さらに後日、大学生二人が警察に逮捕されたというニュースがテレビに流れた。

 鹿島も大井川も心当たりがない。近藤に聞いても「罪状が別件だから偶然だろう」とはぐらかされるだけだったが、彼女が親に頼んで手を回してくれたのは誰の目にも明らかだった。


 こうして、バトル・ファックのおかげで、近藤乃莉凪のお陰で恐怖に怯えるだけの日々は終わったのだ───。



 それから更に一年が経った頃、大井川と鹿島はバトル・ファック部に入部していた。


 自分らを助けてくれた近藤乃莉凪に深い恩を感じた二人は彼女に報いるため、自らバトル・ファックの世界に入る事を決めた。


 怯えながら肉食獣に喰い散らかされるだけの子羊だった自分らに手を差し伸べ救ってくれた近藤。そんな彼女が大切にしているバトル・ファック部を支え、躍進させる事こそ自分らに出来る恩返しであると大井川も鹿島も信じて疑わなかった。


 二人は誰よりも厳しく、誰よりも長く練習に打ち込んだ。やる気に乏しい後輩には時に苛烈な手段を持ってヤキを入れた。近藤の覇道を阻みそうな者が現れたなら即座に襲撃し黙らせた。


───あの日もそうだった。


「本当に申し訳ありませんっ!」


 その日は打ち合わせだった。


 バトル・ファック部は年に何回か大きな行事がある。

 その一つがプロのバトル・ファッカーの試合イベントの時間を一部借りて行われる“新人戦”。

 あらゆる学校のバトル・ファック部からそれぞれ入部したての一年生を招き、新人同士の対抗戦を行うというもの。

 今回はその打ち合わせだったのだが───。


「加美山学園さん、これで何回目かしら? 直前で出場予定の新人が退部してスケジュールを変更せざるを得なくなるのは」


 怒りと呆れを含ませた声色で主催側の女性バトル・ファッカーが近藤に問う。


 そう。近藤は詫びを入れに来たのだ。

 新人戦本番一週間前にもかかわらず、出場予定だった新入生が「やっぱり知らない相手とこんな事するのは嫌だ」と退部してしまったことを。


 付き添いで来ていた大井川と鹿島は嫌味と共にプロバトル・ファッカーに詰められる近藤の姿を目の当たりにしていた。


「確かにバトル・ファックは社会に認められてないし、運営も選手もちゃんとした人間とは言えないけどね。それでも“信用”というものがあるのよ。こう何回も何回も同じ事が続くと今後の付き合いは考えなきゃいけないわね」

「返す言葉もございません……。ですが、やっぱり辞めたい、続けるのが辛いと言う子達に強要させる事は出来ないんです」

「私らも別に学生相手にプロ並みの責任感を求めてるわけじゃないわよ。ただいい加減うんざりしてきたってだけ」


 主催側の女性は懐からタバコを取り出し、火をつけた。苛立ちを抑えようとするかのように煙を吸い込み、ふぅーと吐き出す。

 それで少し頭が冷えたのか、彼女はもういいわと言って近藤に八つ当たりするのをやめた。


「ええいいわ、しょうがないから今回は退部した子の抜けた穴はこっちで埋めるわ。けど次回からの参加はお断りさせてもらうわね。せいぜい別の団体探してちょうだいな」


 そう言って踵を返し、主催の女性は去っていった。

 帰り道、鹿島と大井川は近藤に問う。


「近藤先輩! 何でああなるのが分かりきってたのに退部を認めたんですか!?」

「せめて新人戦終わるまではいてもらう事にしても良かったじゃないですか! 学生は原則挿入無しルールなんだし……」


 近藤はそんな二人に疲れを隠しきれていない笑みを浮かべながら言う。


「普段から言っているだろ? バトル・ファックなんてやってる奴の方がおかしいんだ、辞めたくなったなら正気に戻った証拠だって。本人達からすれば挿入の有無なんて関係なく、嫌なものは嫌だろうしな。誰も強制は出来ないよ」

「でも……!」

「上に立つ者が苦労を背負うのは当然の事だ、気にするな」


 心配する鹿島と大井川を安心させようとするかのように言い聞かせる近藤。

 だが、先代達がずっといい関係を築いていたプロの団体に見放され、その負い目も癒えぬままこれからまた新たに新人戦をさせてくれるバトル・ファック団体を探さなければならない彼女の心労は相当なものだろう。


(新入生達はいつも自分勝手だ……!)

(先輩らの苦労を知りもしないで……!)


 鹿島と大井川はそんな近藤を見ているのが辛かった。


 自分らを地獄から救い出してくれた、誰よりも尊敬する人が……。目上の人間に嫌味を言われ、詰められ、責められ、責任を一身に背負って平身低頭しながら謝り倒す姿を目の当たりにして平気でいられる訳がなかった。


 心が痛んだ一方、彼女をそんな状況に追い込む自分勝手な後輩への怒りが段々溜まっていく。


 そして二年前のあの日、とうとう事件は起こる。



近藤に救われた二人……。

一体何をしでかしたのか───?


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