Fight 21. バトル・ファッカーの底力
黎命流の技考えるよりバトル・ファッカーの技考える方が遥かに難しい
(服を脱ぎ捨てた───ようやく『バトル・ファック』とやらの技が出てくるということか?)
慧秀はTシャツを脱ぎ捨て、上半身が丸出しになった大井川を見ながら警戒を強める。
彼女の爆乳は老若男女誰もが目を引くレベルの大きさだったが、戦闘中の慧秀はそんなもので集中が揺れ動く事はない。
性技、つまりは女の武器を惜しげなく使ってくるであろう相手と戦う準備を一年間積んできたのだ。女の裸体を目の前にしても何も感じない精神状態に一瞬で移行できる瞑想法は会得しているし、そういった技を使ってない状態でも平常心でいられるようなトレーニングもした。
しかし、今この状況で脱いだのは流石に意味がわからなすぎて困惑する。
「どうした? 早く来いよ。それとも童貞だからおっぱい見て緊張してるのか?」
大井川が笑いながら挑発してくる。
どうやら向こうから仕掛ける気はないらしい。
(正直、特に何かが変わったようには見えないんだがな……)
防御力や攻撃力が上がるわけもない。特に纏う雰囲気やオーラが変わった様子もない。
本当にただ上を脱いで、そして何故かやたらと自信満々になっただけである。
(……睨み合ってても埒が開かないな)
分からないなら考えても仕方ない。慧秀は仕掛ける事を決断する。
「そこまで言うなら何が変わったのか見せてもらいますよっ」
ボッボッボッと音を立てて慧秀の拳が空を裂く。
大井川の掌がそれを捌き、パンパンパンと手と手が衝突する音が鳴り響く。
(顔を重点的に守っているな)
打ち合いの中で慧秀は気付く。
おそらく、先程の飛翔猛禽脚がかなり効いているのだ。もう一度顔面にクリーン・ヒットしたらそれで終わりなのだろう。
「なら他をじわじわ削るまでっ」
慧秀は狙いを変え、大井川の肋骨を狙う。
“気”を骨と表面に浸透させ強化した拳は相手の骨を砕くのに十分な硬さを誇る。放たれたボディブローは大井川の脇腹に命中し肋骨を粉砕した───。
かに思えた。
彼の拳は肋骨に当たる前に、大井川の乳肉によって防がれていたのだ。
「なにっ」
大井川は被弾する直前に身体を少し捻り、遠心力で揺らされた自らの爆乳で慧秀の拳を受け止めてみせた。
大井川の乳肉はかなりの弾力性があった。“気”を纏った慧秀の拳による衝撃をかなり軽減し、脇腹へのダメージをほぼ殺している。
「しゃあっ」
まさかこんな防がれ方をするとは思わず、一瞬反応が遅れる。
そして至近距離で繰り出された大井川のアッパーが慧秀の顎を捉えた。
またしても大井川が慧秀に攻撃を当てたのである。
「ちぃっ」
顎を抑え、離れる慧秀。身体に“気”を染み込ませて防御力を上げていたのに加え、元からの体重差や大井川に蓄積したダメージなどの要因も相まって喰らってもさほど問題はない。
しかし、圧倒していたはずの相手からいいのを貰ってしまったのはいい流れとは言えない。
「クーククク、この胸は幾人もの男を極楽に送ってきた私の最大の武器なんだよ。お前も無様に射精させてから殺してやるよぉっ!」
大井川は慧秀に啖呵を切る。
(ふざけやがって……。だが確かにヤバい戦法ではある)
あまりにも奇抜な技を見せられたこと、圧倒的な差を付けたと思っていた相手に一撃入れられたという事実が慧秀の心境を変える。
というか、バトル・ファッカーの技が奇想天外かつ荒唐無稽なものだとは聞いていたが、まさかこんな真似が出来るとは想定外だった。
(出し惜しみはやめだ。ここからは殺す気でやる)
慧秀が最短で終わらせる事を決意する。
何をしてくるか予想もつかない相手の対処法は『何もさせないまま瞬殺する』事だ。
「黎命流“翔破猛禽脚”ッ!」
繰り出したのは先程も使った“翔破猛禽脚”。普通の人間ならまず対処出来ない、自分の身長よりも高い位置から繰り出される強烈な蹴撃。
さっきの大井川は反応すら出来ず顔面に直撃した。
再び食らえば今度こそ大井川の意識は地に沈むだろう。
そんな必殺の一撃が彼女に迫る───。
◇
東京都S区某所。とある廃ビルの地下二階。そこには巧妙に偽装され、隠された地下闘技場……のような施設が存在している。
「俺が今までヤり合った中で一番強かった女、ねぇ」
とある男が何者かの質問に答えようとしていた。
彼の名は青澤武龍。中小バトル・ファック団体『王雅澄』の現王者である。
「笑うなよ? ……少し前にエキシビジョン・マッチで闘った女子高生だよ。名前は大井川湘子っていったかな」
学生がプロより強いなんてことあるんですか、と質問者が聞く。
青澤はそう思うのも無理はないと同意しつつ、この答えが変わる事はないと断言した。
「なにせ、この俺が完膚なきまでに“負けた”と思わされた唯一の女だ」
驚く質問者。青澤は闘った当時の事を回想する。
「俺のファイト・スタイルは知ってるだろ? そう、チンポビンタだ」
それは知っている、と答える質問者。
青澤武龍は“チンポビンタの青澤”の異名を持つバトル・ファッカーである。
その名が示す通り、黒人にも勝るとも劣らない大きさの巨根を変幻自在に振り回し、鍛えた足腰でリング内を縦横無尽に飛び回りながら相手にチンポビンタを喰らわせる。
彼のチンポビンタを何発も喰らい続けた女はその威力と痛み、そして屈辱で次第に心を屈服させられ、やがてダウンしてしまう……。
それが青澤の必勝パターンなのだ。
「だが、あの大井川って女は俺のチンポビンタを10発食らっても倒れなかった。かなりタフだったよ」
しかし、それだけでは勝てないのでは?
質問者がまた聞き返す。
「もちろんそうさ、タフなだけの女だったら幾らでもいる。だが、信じられないだろうが───」
「あいつは俺のチンポビンタを爆乳で挟み、掴んでみせたのさ。真剣白刃取りのようにな」
あの時の事を思い返すと今でも恐ろしさを感じる、と青澤は語る。
「そのまま凄まじい“乳圧”でチンポを圧殺され……極限まで搾り取られてKO負けだ。あれは恐ろしかったよ、なにせそれから一週間全く勃たなくなってしまったんだからな……」
カタカタと震え出す青澤。
大井川湘子の“乳殺”による圧倒的な破壊力と搾精力……。一度モロに体験してしまった彼は生涯彼女の胸に恐怖を抱きながら生き続けなければならないのだ。
◇
慧秀の翔破猛禽脚が大井川目掛けて蹴り下ろされる。
上空から兎に襲いかかり爪を食い込ませる鷹の如く、相手を上から蹴り潰す一撃が満身創痍のバトル・ファッカーに引導を渡さんと無慈悲に放たれた!
「先輩っ!」
リングの外で這いつくばりながらも磯目みくるは思わず叫ぶ。その一瞬のち、慧秀の脚が大井川の胸に突き刺さった───。
「狙い通り……捉えたぞ!」
衝撃で目を剥いたのは慧秀の方だった。
必殺の一撃だったはずの翔破猛禽脚が、受け止められたのだ。
大井川湘子の胸の谷間によって───。
「あ、あれはっ! 大井川先輩の“双丘白刃取り”っ!?」
「橋爪の蹴りを爆乳で挟み込んで捕まえたぁっ」
慧秀にやられて立てないながらもまだ意識を保っていたバトル・ファック部員達が歓声を上げる。
驚きを隠せない慧秀に大井川は得意げに笑いながら言う。
「確かに私にはお前の打撃を見切れないが───こちとら腕より胸で防ぐ方が遥かに得意なのよっ」
慧秀の脚を胸で挟んだまま、大井川は身体を捻り彼の身体をリングに叩きつけた。
「はうっ」
落下の衝撃で口から肺の中の空気が出ていく。それにより一瞬、慧秀に隙が出来る。
「しゃあっ」
胸で慧秀の足首を挟んだまま転がした大井川は流れるようなコンビネーションでそのまま両足で脚を絡めとる!
「こ、これはっ」
「手の代わりに爆乳を使った膝十字固めだあっ」
勝負を見守っていた部員達の声が色めき立つ。
一方の慧秀は表情から余裕が消え、驚愕を隠せない。
(な、なんだこの技……!? ふざけた技の癖に圧が強くて抜けだせないっ)
大井川の技術はそこまで大したものではない。この膝十字固めだって完全に極まっているわけではない。
MMAを数年習い、さらに“気”で身体を強化できる慧秀ならばいくらでも抜け出せるはずの技だ。
にもかかわらず、何故か外せない。
大井川の乳圧があまりにも強すぎて動かないのだ。
(なるほど……“乳殺の大井川”と呼ばれてるわけだ……っ)
慧秀は田岸を一撃KOした先程の“破面乳爆殺”を思い出していた。
そう、大井川湘子の「乳圧」の力はバトル・ファッカー全体でも抜きん出ている。
高校生にして爆乳と呼べる大きさまで成長した乳房に加え、徹底的にパイズリと乳プレスの技術を磨いて極めた彼女はとうとう胸でバスケットボールを挟み砕くほどの乳圧を手に入れたのだ。
手や足での攻撃より乳で挟み込む方が強い人間。それが大井川湘子なのである。
「ちいっ、何だこの固さはぁっ」
だが、ただ者ではないのは橋爪慧秀とて同じだ。
『パイズリ膝十字固め』を極めているはずの大井川の顔にも焦りが浮かんでいる。あまりにも関節が頑丈であり、極めきれないのだ。
それもそのはず、黎命流の遣い手である慧秀は“気”で身体を強化することが出来る。それは筋肉や靭帯、骨や関節も例外ではない。
慧秀は膝十字を極められる直前、“気”を脚に集中させ膝靭帯を強化していた。通常よりも遥かに強固になった彼の脚を大井川は壊せない。
そして彼女は既にかなり消耗している。そう長く極め続けられる体力は残っていないだろう。
疲れて胸で挟む力が緩んだところを抜け出し、今度こそトドメを刺す。慧秀はそう考えていた。
「しゃあっ “乳爆殺”っ!」
だがその時、大井川は慧秀の脚に自身の必殺技である“乳爆殺”を放つ。
脚を捉えていた自身の両胸を横から思い切り叩いた瞬間、凄まじい衝撃が慧秀の脚を襲い、その表面を覆っていた“気”の膜を全て消し飛ばした。
「なにっ!?」
防御壁を失った慧秀は驚愕の声を上げる。
まだ身体の内部に染み込ませた“気”は残っている。それを用いて強化している関節や靭帯が破壊されることはしばらくはないだろう。
だが“気”は有限だ。
このまま極められ続ければ体内の気はいずれ尽きる。その時がくれば慧秀の膝靭帯は断裂させられるだろう。
誰がどう見ても、今の橋爪慧秀は絶体絶命───……。
◇
「───とでも思ってるんでしょうね」
一方、リングの外で慧秀と大井川の戦いを見ていた冴木涙霧は冷静だった。
「橋爪くんは確かに実戦経験が多くないし、それ故にツメが甘いけど───それでも勝てるのが黎命流殺人術というもの」
涙霧はそう言うと床に目を落とす。
「って、聞こえてないか」
視線の先には、虫の息となりズタボロになって倒れ伏している鹿島晴恵がいた───。
起死回生の一手はあるか───!?




