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Fight 1. UNDERGROUND CLUB

某大人気格闘漫画をリスペクトして書いています。

楽しんで読んでくれたら幸いです。

 東京S区に位置する中高一貫校、加美山学園中学・高等学校では入学式が終わり、部活の新勧が盛り上がりを見せていた。


 過酷な受験勉強の反動か、青春を彩る強い刺激を求め6年の学校生活を捧げるに相応しい部活を血眼で見極め探さんとするおよそ200人もの新入生達。

 そして自分らの部をより強く、新しくするために活気のある一年生達を死に物狂いで取り合う先輩達。


 二つの勢力が自らの求めるものを探し、入り乱れる様はさながら、金脈を狙う採掘者達が恥も外聞もなく一攫千金を目当てに殺到した19世紀のゴールド・ラッシュのようである。


 その新歓の影で、一人の整った顔の新入生が上級生に連れられ人気のない校舎裏を歩いていた。


「へえ、五年間も総合格闘技(MMA)やってたのか~」


 凄いじゃないか、と感心したように言う上級生に新入生───橋爪はしづめ慧秀けいしゅうは謙遜で返す。


「いえそんな……。五年生の時に受験に専念するために辞めて以来、練習も何もしてませんから。もうほとんど忘れてますよ」

「過去に経験ある奴は強いぞ。身体が覚えてるからすぐにカンを取り戻すさ」


 慧秀は上級生に部室まで案内されている最中だった。


 部活を選ぶ際、小学生の頃に通ってた習い事の続きをしてみようかと思った慧秀は格闘技か武道系の部活がないかと探していた。

 この上級生はそれを聞きつけ慧秀の前に現れ、自分は『格闘技部』に所属する者だ、もし興味が見学に来ないかと誘われたのだ。


 既にボクシング部や空手部に柔道部、珍しいところでは薙刀部なんてところも見つけていた慧秀だったが、上級生の言う『格闘技部』が一番自分のやっていたMMAに近そうだと感じ、その誘いを受ける事にしたというわけだ。


「着いた着いた。ここが我が『格闘技部』の部室だ」


 上級生が指差したのは体育倉庫のような小屋だった。

 そこそこ広いが、明らかに古い。校舎が建つよりも前の年代に建てられたのであろうと一目で分かるぐらい、外壁も屋根もボロボロだ。


「……本当にここで、格闘技みたいな激しい運動やって大丈夫なんですか?」

「あはは、俺らもたまに不安になるわ」


 怪しい、という程ではないが慧秀は他にも少しの違和感を感じていた。


 この倉庫があるのは校舎の裏側の隅、真昼でも陽が殆ど当たらず、人もまるで寄りつかなさそうな場所だ。

 弱小部活なのかもしれないが、それにしたってもう少しマシな活動場所が他にあるだろう。


(それに、新歓を部活でやってるというのも……ここが初めてだ)


 慧秀が他に回った部活は全て、新歓を行う場所として学校から校内の空き教室を割り当てられていた。

 加美山中高の新歓は期間中の放課後に行われる。一つの部活につき一教室が割り当てられ、そこを使って各々新歓活動を行うという形式を取っている、とボクシング部の者が言っていた。


 ならば、何故この『格闘技部』は校内の教室ではなく、こんな人気のない倉庫を使っているのだ。  普段この場所で活動しているのかもしれないが、新歓ならこのような誰も寄り付かない場所ではなく、人を集めやすい校舎内で行った方がいいのではないか?


 これではまるで、コソコソ隠れてやっているような───。


「他の先輩達もいる。紹介するぜ」


 上級生に促され、慧秀は我に返る。


(……考えすぎか)


 そう思い、彼は上級生に着いていく。


 だが、慧秀はこの後、その選択を後悔する事となる。




 ボロ倉庫改め『格闘技部』の部室に入った慧秀。


 最初に視界に飛び込んできたのは───。


 


 マットの上で、下着のような格好のまま激しく絡み合っている二人の女子生徒だった。


 


 一人は金髪に染めた髪と綺麗な脚が特徴的な目立つ見た目で、もう一人はよくいる黒髪だがグラビアアイドル顔負けの大きなバストがどうしても目を引く者だった。


「っ!!? す、すいません!」


 思わず目を背け、入口の扉を閉めようとする慧秀。


 だがそれを上級生が制止し、二人に声をかけた。


「お疲れ様です。鹿島先輩、大井川先輩」


 名前を呼ばれた二人の女子は組み合うのをやめ、慧秀の方を向いた。


「ああ、お疲れ。新歓は上手くいった?」

「はい。この一年がうちに興味あるみたいです」


 金髪の方───鹿島先輩と呼ばれた方が慧秀を連れてきた上級生と平然と話し始める。自分が非常識な格好をしている事などまるで気にも留めていない。


「へー。でかしたじゃん」


 もう一方、黒髪で爆乳で大井川先輩と呼ばれていた方も同様だ。


 彼等だけではない。部室内にいる他の部員も、鹿島と大井川が露出の多い格好でいる事を特に疑問に思っていない。

 それどころか、よく見ればパンツ一丁で室内を練り歩いている男子部員や制服を脱ぎ始めている女子部員もいる事に慧秀は気付く。


 服を着ていない事をおかしいと感じる者が、この場には慧秀しかいない。


「君が今年の新入部員か。あたしは鹿島晴恵、こっちは大井川湘子で二人とも高一。よろしく」


 手を差し出してくる金髪の方。慧秀は「ど、どうも」と言いながらおそるおそるその手を握り、自身の名を名乗った。


 近づかれるとどうしても露出した肌、胸の谷間などが目に入ってしまい、目のやり場に困る。


(い、いったい何なんだこの人達……)


 慧秀はこの不可解でありながら眼福な状況に緊張し、動揺する。

 そして同時に得体のしれない、嫌な予感も感じていた。


(見間違いじゃなければ……さっきのあの二人、お互いのきわどい部分に思いっきり触れてなかったか……?)


 二人が絡み合っていたのを見たのは一瞬だったし、慧秀自身突然の事に気が動転していた。

 だが、鹿島と大井川のスパーリング……のようなものは間違いなく普通ではなかった。

 鹿島の手は大井川の豊満な胸を鷲掴みにしていたように見えたし、反対に大井川は───鹿島の下着の中に手を突っ込んでいたように見えた。


 慧秀が見たのは一瞬の事だ。だが、その光景が見間違いや幻でなかったのなら、二人のやっていた事は明らかに異常だ。


 上手く言葉に出来ないが、慧秀はとにかく不安な気持ちになり始めていた。この『格闘技部』は本当にちゃんとした部活なのか、と。


「鹿島先輩、橋爪くんはMMA経験者なんですよ」


「へえ、それは凄い」


 慧秀を案内してきた上級生が告げると鹿島は興味深そうに彼を見る。


「じゃあ、さっそく私とスパーしてみよっか」


「え……」


「君の今の実力がどんなもんか知りたいからさ」


 まだ入部するなんて一言も言っていないにもかかわらず、まるで慧秀が部員になる事が前提であるかのように話を進めようとする鹿島。


 流石の慧秀も待ったをかける。


「いや、待ってください。自分は確かに総合の経験はありますけど、もう二年ぐらい前に辞めてからまともに練習してないんですよ……。いきなりスパーなんて言われても困ります……」


 普通、新歓というのはいきなり活動に参加させたりはせず、まずは部の概要や特色や活動内容などを説明する事から始めるものではないのか。

 例えばこの部が本当に格闘技部であるなら、部員達はそれぞれ具体的にどういう競技の経験者なのか、大会等はどういう団体のものに出ているのか、練習時間は週にどれほどか、エクササイズ中心のエンジョイ勢か大会で結果を残すガチ勢かどちらの方針で活動しているのか……。そういった事をまず説明するものじゃないのか、慧秀はそう思っていたのだ。


「大丈夫だって! 別に取って食おうってわけじゃないよ。遠慮せずに、ほら!」


 慧秀の腕を掴み、部室内の中央にあるリングに連れて行こうと引っ張る鹿島。


 あまりにも強引な姿勢に慧秀は思わず抵抗し、腕を振り払う。


「だ、だからスパーはやりたくありません! あ、あと鹿島先輩も大井川先輩も、いつまでそんな格好でいるんですか!」


 慧秀の声が思わず大きくなる。


 彼の中に芽生えた嫌な予感は底知れぬ不安へと変わりつつあった。

 下着同然の格好をした上級生が強引に自分とスパーリングをしようと迫ってくる、というこの状況。

 慧秀は宗教やマルチのような怪しい団体の施設に迷い込んでしまったかのような気分になっていた。




「え、着ないよ? あたしらいつもこんな感じでやってるし。ねえ、湘子」


「うん。なんなら裸でもいいし、橋爪くんも脱いで構わないよ」




 その返事を聞き、慧秀の頭はフリーズし、身体は硬直する。


(は……? なにを、言って……)


 確かに、女子格のプロ大会などでは注目や人気を集めるため、露出を多めにした衣装を着て試合を行う場合もある。

 だが、ここは部活だ。学生による健全なスポーツをするための場所のはずだ。

 無駄に肌を出す必要などないし、そんな格好でスパーリングするなど安全面から言って論外だ。


「まあまあ橋爪くん。せっかく女子高生のお姉さんと肌を密着させ合うチャンスだぞ、やってみたらいいじゃん」


 さっきの上級生までそう言って急かしてくる有様だ。慧秀の警戒心は最大まで高まりつつあった。

 それ故か、彼はある事に気付く。


「あの……先輩。ヘッドギアは?」


「ん?」


「ヘッドギア、見当たらないんですけど……」


 部室を見渡しても防具の類が見当たらないのだ。


 慧秀の通っていたジムのキッズクラスでは練習中必ずヘッドギア等の防具を装着する事が義務付けられていた。

 指導員からは繰り返し防具の重要性と必要性を説明され、徹底するように言われたものだ。

 それが一つもない、なんていうのは慧秀にとってあり得ない事だった。


「ヘッドギア? うちではそんなの着けないよ?」


「え……。じゃあファールカップは?」


「それもないよ」


 慧秀は絶句し、信じられないという目で先輩達を見る。


 同時に彼の腹は決まった。


「か、帰りますっ!」


 未成年しかいないにもかかわらず、防具も用意されていないどころか下着のような格好で練習を行う。

 スパーリングは互いの同意が取れないならやらないのが鉄則なのに「したくない」と言っている慧秀の意思を無視して執拗に迫る。

 おまけに人気のない怪しい場所で活動している。


 これらの要素から慧秀はこの『格闘技部』がまともな団体ではないと判断した。

 仮に怪しい集団でなかったとしても、少なくとも格闘技をやる上で必須である「まともな指導者」が存在していない事は明らかだ。


 慧秀は扉に手をかけ、外に出ようとした。


 その瞬間だった。


 突如、脇腹に強い衝撃が走り、続いて鋭い痛みが襲ってきた。


「がっ!?」


 ズダン、と音を立てて床に倒れる慧秀。痛む部位を必死で押さえる。


「おらよっ!」


 頭が思考力を取り戻す前に、慧秀を連れてきた上級生のかけ声が聞こえ、直後に腹に重い何かが突き刺さったかのような気持ち悪い感覚が走る。


「……っ、かはっ!?」


 口が自然に開き、飛び出た唾液が床を濡らす。突然襲ってきた激痛に、慧秀は動けない。

 助けを呼ぼうにも声を出すための喉が思うように動いてくれず、タイヤから空気が漏れ出るかのようなか細い音しか鳴らない。


「面倒くせえな。もうヤッちまいません? 先輩」


 ヘラヘラと笑いながら口を開く上級生。先程までの優しい態度を一変させ、顔に醜悪なニヤケ面を貼り付けている。

 慧秀はようやく、自分がこの男に不意打ちで蹴られ、倒れたところを追撃されたのだと理解した。


「うん、そうだね。ナイスだよ後輩」


「ヘッドギアがどうとか五月蠅くてウザかったからスカッとしたわ」


 そして鹿島と大井川はそんな彼を咎めるどころか、良い働きをしたと褒めている。室内にいる他の部員も、三人を止めようとせず黙って倒れ伏す慧秀を見ている。


「い、いきなり……何をするんですか……」


 吐き気を堪えながら慧秀は言う。嫌な汗が額から流れるのがわかった。


 鹿島は臆面もなくそんな彼の問いに笑いながら答えた。


「逃げようとするから悪いんじゃん。君みたいなタイプ、こうでもしないと部員になってくれそうにないからね」


 鹿島は動けない慧秀を蹴飛ばして転がし、仰向けの体勢を取らせる。

 そしてなんと、そのまま股間部分をその足で踏んだ。


「がっ!?」


 強烈な痛みが慧秀を襲う。腹部の痛みが飛び、急所をいきなり踏まれた事による痛みがそれを上書きした。


「や、やめろっ!」


 慧秀は抵抗しようとするが、不意打ちの蹴りをまともに喰らったダメージは重く、さらに鹿島に股間を踏まれているため身体が上手く動かない。

 さらに大井川まで鹿島に加勢し、二人がかりで慧秀を押さえ込んだために完全に振り払えなくなってしまった。


「それじゃ改めて───”加美山学園バトル・ファック部”にようこそ、橋爪慧秀くん」


 鹿島は『格闘技部』を騙る野蛮人集団の真の名前を明かす。


 バトル・ファックという聞き慣れない言葉に慧秀は戸惑いの表情を見せる。


「バトル・ファックっていうのはね、格闘とセックスを融合させた“裏”の競技だよ」


「相手を倒して犯し、肉体的にも精神的にも屈服させる。その感覚は一度味わったらクセになるよねぇ」


 言いながら二人は慧秀の服を強引に脱がそうとする。


「でも、橋爪くんはまず最初に“敗北と屈辱の味”を知る事になる。あたし等に一方的に嬲られ、無様に射精し、それを動画に撮られるんだ」

「誰にも余計な事を言わず、バトル・ファック部に入部して部員として私達と一緒に“バトル・ファッカー”として活動するなら動画はどこにも流出しないと約束するよ」


 鹿島と大井川の手が慧秀の服に伸びる。


「やめっ───」


 抵抗しようともがく慧秀。


「大人しくしろっ!」


 だが、鹿島がそれを許さない。慧秀の股間を踏んでいた足を一旦宙に浮かせ、そのまま足の甲で彼の急所を勢いよく打ち抜いた。


「がああああああああっっ!!!??」


 睾丸を容赦なく蹴りの衝撃が襲い、慧秀は悶絶する。あまりの痛みに腹の中の内臓が胸まで上がってくるかのような嫌な感覚を覚える。


「大げさね、この程度で潰れはしないわよ」


 鹿島の嘲るような薄ら笑いも今の慧秀の目には入らない。それほど強烈な痛みだった。


 もはやもがく元気すらなくなった彼にはバトル・ファック部員達を止める術はない。

 慧秀の制服のズボンはなすすべなく脱がされ、下着が露わになってしまう。


(く、クソっ! 誰か───)


 慧秀の下着に大井川の手がかかる。万事休すと思われたその時だった。




「う ぎ ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ」




 外から断末魔の如き叫び声が聞こえてきた。


 突然の悲鳴にその場にいる者全ての視線が扉に集まる。


「なにっ。なんだぁっ今の声は!?」

「見張りに立ってた奴の声じゃねえかっ」


 部員達が騒然とする。


 鹿島と大井川も一旦慧秀を陵辱しようとするのを止め、立ち上がって警戒態勢に入る。


(た、助かった……? でも一体何が起きたんだ?)


 慧秀もバトル・ファック部の部員達同様、まるで状況が読み込めない。


 やがて、全員の視線を集めている扉の戸がゆっくりと開き、空気が一気に緊張を帯びる。




「───邪魔するぞ、人頭蓄鳴じんとうちくめい塵屑ゴミクズ共」




 入ってきたのは、一人の女子生徒だった。


 着用している制服から、高校生ではなく中学生である事が分かる。つまり歳は慧秀と一つか二つしか違わない。


 だが、慧秀はその女子生徒がただならぬ存在であると一目で悟った。

 鋭い眼光、信念が籠もった威圧感のある声、そして何より彼女の全身から発する凄まじい闘気───。

 かつて通っていたジムにもこのような者はいなかった。


 開いた扉から外の景色が僅かに見える。彼女の後ろに一人、男子生徒が倒れているのが確認出来た。

 それが彼女によって排除された見張り役だという事は明らかだった。


「な、なんだテメエっ!」


 扉の近くにいた一人の部員が殴りかかる。慧秀をここまで連れてきた上級生だ。


 だが、女子生徒はその拳を完全に見切っていた。必要最小限の動きであっさりと躱し、同時にカウンターで腹部に掌底を叩き込む!


「ごぶえぇっ!」


 掌底をモロに受けた上級生の口から胃液と吐瀉物が吹き出す。そのまま彼は崩れ落ち、倒れるようにその場に崩れ落ち、腹を押さえながら蹲ってしまう。

 胃へのダメージによる吐き気で動けなくなってしまったようだ。


「私か? 中等部二年、冴木さえき涙霧なみきり


 女子生徒───涙霧は名乗った。


 あっという間に二人の部員を戦闘不能にしてしまった彼女にバトル・ファック部は戦慄する。


「野蛮人の出来損なった脳髄にも分かるように言ってやる」

「その子を解放しろ。でないと絶痛絶苦の地獄を貴様らの臓腑に叩き込む」


 涙霧は不敵な笑みを浮かべながらも、怒りを宿した目でそう言った。

この少女は一体───!?

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