第2色 緑の旋風
「これより実技試験を開始する!」
実技試験が始まった。筆記試験の時は会場が分かれていたので気づかなかったが、思ったより人が多い…!まさか試験は全員に見られるのか!?
「そして、試験の内容についてだが…」
「今年は受験生同士の一対一の対戦によって試験を行う!」
「!?」
実技試験は試験官との勝負ではないのか!?そもそも、僕が『色』を発現していないことをまだあまり知られたくないし、それを一戦目で気づかれれば流石にその後の勝負で対策されるし、『色』よりも対策されやすいから、この形式は非常にまずい!
「そして、実技試験と筆記試験、その両方を踏まえて合否を判定する!」
「また、組み合わせはそちらで決めてもらう。ただし、一人最大五戦とする!それ以上の対戦は認めない!そして、対戦を求められた場合、五戦戦った者以外は必ず受けなければならないものとする!以上!これより、この会場にあるリング一つにつき一組での使用で、実技試験を開始する!」
声をかけられれば戦わなければならないこのルールなら、なるべく他の人の戦いを見て対策を立てたほうが圧倒的に有利になる。なら、他の人に声をかけられないようにしておいて、戦い終わったあとの自分が既に対策を立て終わった人に声をかけて戦いを挑めば『色』を使えない僕でも勝ち目があるんじゃないか…?
そう思ったが、周りも同じことを考えているのか、誰も声をかけようとしない。だが、最初に戦った人が不利なこのルールでは当たり前だ。特に、自分の『色』を見られてしまうという点が非常にまずい。どうしたものか…
「よーう!そこのお前!戦おうぜ!」
カイル!?あいつ、もう戦いを挑んだのか!?そう思い周りを見ると、ルミアも呆れたような顔をしている。まぁ、カイルの戦い好きは今に始まったことではないからあまり驚きはしないが…まぁ何にせよ、これで相手の対策が取れる。そこは感謝だな。ただ、カイル、そしてルミアには僕が『色』を使えないことを知られているし、何より同じ目的で来たんだから争いたくない。万が一でもそうならないためにもこのカイルの戦いはしっかり目に焼き付けておかないと…!
「おい。そこのお前、ジューク、と言ったか?」
「へ?僕、です…ッ!?」
この睨みつけられる視線、まさか昼ごはんの店ですれ違ったやつか!?そして、あの時は見失ってわからなかったが、もしかして同い年くらいか?
「そうだ。お前、私と勝負しろ。」
なッ…!?こいつ、この試験の意味を理解していないのか!?それとも、個人的に僕に恨みがあったり…いや、僕はここまで恨まれるようなことはしてきていないはずだ。なら、何なんだ!?
「戦いは、断れないのがルールだろ?」
「そう、ですね。わかりました。やりましょう。」
この試験のルールは、「断ってはいけない」だ。カイルの試合を見てからにするくらいのことは提案しても良かった、とは思ったが、この試合が終わった後戦いを申し込まれるのは僕達の方だ。そうなれば、カイルの対戦相手に対戦を申し込みに行くより前に別の人に戦いを申し込まれてそれどころではなくなるだろう。ならここは潔く対戦を受けたほうがいいだろう。
「よし。ならリングに立て。早く始めるぞ。」
ここからは試験ではなく殺し合いの気持ちで望まないと負ける。理屈ではなく本能が、そう語りかけていた。
この試験では、事前に申告した種類の木製の武器が貸し出される。そして勝敗は相手を気絶させる、勝てないと判断し降参する、または場外に相手を出すかのどれかでしか決まらない。僕が選んだ武器は双剣。相手の攻撃を躱し、手数で攻めて気絶か降参を狙う…というのを考えている。西区でカイルと戦っていた時は特に範囲を決めていなかったので場外に押し出すという勝ち方をあまり知らないというのもある。
相手が選んだ武器は槍。リーチが長いが懐に入れば行ける…のではないか?カイルが長剣だったのもあり長剣以外の相手は慣れていない。そのため槍も先端が尖っておりリーチが長いくらいの情報しか知らない。ただ、相手の動き全てに気を配るくらいの気持ちで行こう。
「両者構え!試合…開始!」
「『緑突』!」
「ぐっ…!」
試合開始と同時に飛んできたそれを、間一髪のところで上体を後ろに反らして回避する。少し巻き込まれた上着が簡単に裂かれ、千切れた布が中に舞う。
今のは…緑の風?槍の突きと共にすごい勢いで飛んできた。今のがこの人の『色』か…!だが驚いている暇はない。すぐさま体を起こし、相手に向かって走る。相手の『色』はおそらく緑で、風を操るものだと見た。ならいろんなものに応用もできるはずだ。なら相手のペースに持ち込まれる前に自分の間合いに持ち込んでこの戦いの主導権を握る!
「やはり避けられるか。なら、避けられないようにするまでだ!『緑突・連』!」
さっきのよりも勢いはないが数が多い!放射状に広がっていることから、横に避けても当たるようにしたのだろう。しかもすでに次の構えに入っている。そこから考えて、さっきのように上体を反らしてもこの風に捉えられても次の一撃が確実に当たるようにしているのだろう。たださっきよりも勢いが無いのなら…!
「ハァッ!」
「ッ…!斬るか!」
斬れる!飛んできた風を右手の剣で切り上げる。そしてそのままスピードを殺さずに距離を詰めていく。後少しで剣が届く。一度でも剣が届けばそこから行ける!
「『緑突・閃』!」
「速ッ…!」
速い!一撃目よりも距離が近いし速い…そう咄嗟に判断すると、剣を交差させて受け止める。
「ぐっ…オォ!」
押し出されながらもなんとか風を横にそらす。すると、相手がなにか言ってきた。
「貴様…『色』を使わないとは私をなめているのか!」
「!?」
こいつ…最初に戦いを申し込んできたことと昼ごはんの時の視線から勝手に僕が『色』を発現していないことを知っているのかと思ったが、まさか知らない…?
「なら、『色』を使わないことを後悔させてやる!」
距離を詰めてきた!?遠距離技主体じゃないのか!?だが、詰めてきたのであればこちらもやりやすい!だがあれは…まさか踏み込みと同時に風を足から出して加速させているのか!
「フゥッ!」
なんとか横にズレて突きを回避するが、明らかに普通の人間が出せる速さの突きではない。どういうことだ?
「私の『緑』を甘く見るなよ!」
勝負はまだ、始まったばかりだ。
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