第十色 黒の邂逅
「これで終わりッ!」
ビクシスさんの『灰』はやはり相性が凄く良かった。僕が剣を振り下ろすタイミングに合わせて『灰』で剣を重くして確実にネズミを殺せている。そして早々に巣を見つけられていたのも良かった。正直もっと時間がかかると思っていたが、ビクシスさんが下調べをしてくれていたらしい。疑いたくなるレベルで用意がいい。僕も見習わないとな…
「お疲れ様です、ビクシスさん。」
「お疲れ様。よくそんな的確に『色』で振り下ろすタイミングに合わせられますね。」
「あ、あれは…昔からサダと特訓してたときに練習していたので。」
そういうことか。確かに僕もカイルの動きも大分理解できるようになってきたしこんど合わせる練習をするのもありかもしれないな…あ、それならワイドとルミアも誘ってみるか。合わせられる人は多いほうがいいしな。
「ところで、ジュークさんはなぜバルトを受験したんですか?」
「ん〜、やっぱり冒険者とか、他の職業でも成功してる人の出身校がだいたいここだからかなぁ。」
「そう…ですか。」
「うん。それにしてもこの学校ができてまだ20年だっけ。そんな短期間で成功してる人を多く出してるからっていうのもあるかな。よほど教え方とかが工夫されてるのかなって思ったね。」
実際、訓練場は広いし、聞いたらほとんど答えてくれるし、戦闘も座学もこれ以上の場所は無いんじゃないかってくらいにはすごいと思う。
「…ジュークさんは、この学校に何か違和感を感じたことはありますか?」
「違和感?」
違和感?あったかな…
『色』?
ここに来るまでに使えなかったのに、バルトに来てからは今までしづらかった『白』のイメージが鮮明にできた。あと、よく考えたら僕が先生達に何かを聞きに行くと既に質問の内容を知っているかのように「あぁ、それならあそこにあるよ」と、質問のあとに間をあけず答えてくれる。まるで質問の内容を知っていたかのように。
「確かに、よく考えてみたら気づくような違和感はたくさんあr」
「動かないでください。」
急に体が重くなった!?『色』か!しかも器用に重くする部分を倒れるまでに変えて武器を体から外して手の届かないところまで飛ばしている。ビクシスさん、相当慣れてる。
「ジュークさん。大人しくついてきてもらっていいですか?」
この質問の間に体を固められた。『白洗』で『灰』を取り除いても身動きが取れない。これは無理だな。
「あぁ、分かった。」
ここは大人しく言うことに従うか。
「隊長、連れてきました。」
「ありがとう。いまあそこに居て空いてるのが君しかいなかったからね。」
下水道の中を複雑に進んだ後に着いたのはとても広い部屋だった。しかもさらに扉があるってことはここ普通の家一軒分の広さは有るんじゃないか…?
「強引に連れてこさせて悪かったね。どうしても君とはあれの目に届かないところで話したくてね。座って?」
「あ、はい。」
言われるがまま座る。対面に座っている人物をよく見るが、フードを深く被っており、目元が見えない。体型もスラッとしていて性別が分かりづらい。だが、明らかに只者ではない感じがする。確実に今の僕では勝てない。まるであの時僕を助けてくれた人のような圧倒的な高みにいるような感覚。ただあの人と違うのは、あの人以上に得体が知れない。今は武器を持っていないが、そう見えるだけで本当は隠し持っているのではないか、ここまででなにか仕掛けられていてこの人の判断一つで殺されるんじゃないか。というような漠然とした不安。首に死神の鎌がかけられているように背筋が冷える。
「落ち着いていいよ。僕はまだ君を殺すつもりはないしね。」
「そう…ですか…」
落ち着けるか。考えを読まれたのか疑うレベルだ。
「先に自己紹介をしようか。まぁ…本名は隠してるから言えないけどね。とりあえず、黒、とでも名乗っておこうか。」
「僕は…」
「ジュークくんでしょ?知ってるよ。『色』が『白』ということもね。というより『白』だからここに呼んだ、という方が正しいかな。」
名前だけでなく『色』も知られている?本当にこの人、得体が知れないな。
「先に僕たちの目的を話しておこうか。」
「僕たちは黒冥。目的はバルトを潰すこと。君には、僕たちの仲間になってもらいたい。」
バルトを、潰す?なぜだ?理由が全くわからない。
「今すぐに仲間になってくれとは言わない。そうだな…一年。一年バルトで生活した上で決めてくれ。もちろん、一年以内に仲間になりたくなった場合は歓迎する。」
「なにか質問は?」
正直、質問したいことが多すぎる。だがまずは…
「なぜバルトを潰すんですか?潰すと言っても、どうやって?」
「まぁそこだろうね。いいよ。話そう。ただ、まだおおまかな話しかできない。」
「なぜですか?」
「まだ君が仲間になると決まったわけじゃないから。あと、君がバルト側のスパイという万が一にも備えてかな。」
なるほど。まぁわかる。話だけ聞いてやっぱり仲間にはなりませ〜んってなったら流石に酷いしな。
「じゃあ話そうか。まずなぜバルトを潰すかだけど、これが話せないことなんだよね。」
「いや、それが聞けないとどうしようもないと思うんですけど…」
「うん。ただこれに関しては君の目で見たほうがいいからね。」
僕の目で見る?
「バルトでAランクになると、その意味がわかるよ。まぁ、君ならAになるより速く見ることになるかもしれないけどね。」
「つまり、一年以内にAランクになれと。」
「うん。君なら不可能な話ではないと思ってるよ。」
随分高く見られてるな。普段なら嬉しいんだけどこの人が言うと何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまうな…
「そうだね。ここらかな。」
「なにがですか?」
「君が僕に質問したぶん君にはしてほしい事があるんだよ。」
目つきが変わった。見えないが、雰囲気でわかる。「しなかったら殺す」という雰囲気だ。
「君には、今ここで『白洗』を自分自身にかけてもらいたい。」
よりによって一番使いたくないものを選択してきた。ここで帰るといえば帰れるかもしれない。だが、帰れない。漠然と、その選択をすれば何かを失う気がした。
「わかり…ました。」
「じゃあ、こっちの部屋でしてもらっていいかな?」
大人しくついていく。いつの間にかビクシスさんがいない。先にバルトに戻ったのだろうか。
「どうぞ。やってくれ。」
「わかりました…」
正直に二回目の『白洗』をするかは迷っていた。だが、これをした時に次何を失うのかが怖かった。失うと確定もしていないのに。もう、やるしか無い。
「『白洗』」
体を『白』が駆け巡る。
『また会おうね!』
何か言われた気がしたが思い出せない。というより、前は何かが取り除かれた気がしただけだったが、今回ははっきりとわかる。
ある時期の記憶が綺麗に洗い流されて、思い出せなくなっている。




