イーリスタとミルチェリ
《待てイーリスタ》《その前に、じゃ》
【【【え……?】】】
《身体を借りた私を誤魔化せるとでも思うたか。
矢が入っておらぬは流石だが何発受けた?
満身創痍ではないか》
淡く姿を成している朱雀が睨む。
【ちゃんと浄化したしっ!】
《全力で飛びながら、であろう?》
《お~い、嫁遺して死ぬ気かぁ?》
《皆に心配掛けまいとしてだよぉ》
《余計な気遣いじゃよイーリスタ》
【後で完全浄化するよぉ】
《お前なぁ、かえって迷惑なんだよ》
《其処で大人しくしててねぇ》
《お~いペンタクス、亀交代じゃ》【はい♪】
《オフォクス、頼む》【うっ……】
《鳥は他に居らぬじゃろ。早ぅせよ》移る。
【……はい】碧炎を纏う白銀の鳳凰に。
【色は如何とも――】《構わぬ》入る。
【オフォクスって……キレイだねっ♪】【ぐっ】
《言うとる余裕なんぞ無かろうが?》
《倒れる寸前だろーがよ》
《嫁達も一緒でいいからねぇ》
《始めるぞ》【イキナリ!?】炎に包まれた。
【オフォクスとドラグーナまでっ!?】
燃え盛る炎の中から声だけ。
【フン】【来る間、護ってもらったお礼だよ】
白碧炎と金桃炎が激しさを増す。
詠唱が終わると共に6色の炎がスッとイーリスタに吸い込まれた。
【乱暴な浄化だぁ~】へにゃ~ペタン。
【イーリスタ様?】【だいじょ~ぶ?】
小さな手がイーリスタの両頬を撫でる。
【な~んとかね~】んしょっ。
立ち上がって抱き直した。
【あっりがと~ございましたっ】ぺこっ。
《ではドラグーナ、まだ保てるかの?》
【はい】
《イーリスタ、ドラグーナに渡して離れよ》
【は~い♪ あ♪ ね、一緒に兎しない?】
【【兎するっ♪】】
【一緒にぴょんぴょんしたいんだ~♪
込めていいよねっ♪ ドラグーナ♪】
【ミルキィとチェリーが喜んでいるからいいですよ。
欠片が増えれば強く生きられますしね】
【ん♪ 娘で奥さんなのもドラグーナとラピスリと同じだからいいよねっ♪】
【イーリスタ様っ!!】
【ラピスリ真っ赤っか~♪】
ラピスリは逃げようとしたが兄弟に囲まれてしまった。
【あまり揶揄わないであげてよ】
【ドラグーナは平気?】
【うん。俺としては青生と結んだと思っているからね】
【そっか~♪ ちょっと違うんだねっ♪
でもいいでしょ?】
【どうぞ。
では大掛かりですので、真四獣神様、どうか御力をお願い致します】
【あ♪ その呼び方いいねっ♪
これからそ~しよ~ねっ♪】塊な龍と狐に。
【はい!♪】一斉。
そうしてミルキィとチェリーを『ひとり』にしてイーリスタが己の兎部分の命の欠片を込め、結婚の絆を結んでから双子に戻した。
【ドラグーナ♪ 目覚めさせて♪】
【もう少し落ち着いてからですよ】
【ふ~ん】なでなで♪
《ま、少々混ざろうが入れ換わろうが元が区別つかぬ程に よ~う似とるからのぅ、心配する程の問題は無かろぅよ》
【混ざっちゃうのっ!?】
【まず大丈夫ですよ。
これだけの御力を頂いたんですから。
玄武様に揶揄われているんですよ】
【よかったぁ~~】
《しっかしナンで そ~まで必死なんだぁ?》
《確かにねぇ。
彼奴を封じた時に初めて会ったんだよねぇ?》
【ん~~~と……僕、ずっとボッチで、結婚なんて諦めきってたんだ。
鳳凰の友達も、兎の友達もいなくて。
だから、どっちとも離れて隠れて生きてて、ヒマでしょ~がないから修行してて……。
そしたらオフォクスとドラグーナが一緒に四獣神しない? って誘いに来てくれて……きっと僕を探すの大変だったと思うのに。
だから初めての友達がオフォクスとドラグーナなんだ♪】
《では友の娘だから、なのか?》
【ソレもあるよ。
生まれて初めてオフォクスとドラグーナに必要とされたから、っての。
その『必要』とは別の『必要』をこのコ達は僕に向けてくれたんだ。
僕……こんなだから男としても、大人としても、ちゃんと見てもらえることってなかったし……神としても……ね】
【神としてならば尊敬しておるが?】
【俺も尊敬していますよ】
【ありがと。だから ふたりが大好き♪
僕ね、父様と母様が結婚した経緯 知らないんだ。聞けなかった。
聞いちゃダメな気がして……聞けないまま行方不明になっちゃったから。
でも、鳳凰の里からも兎の里からも追い出された、みたいな噂は聞いたよ。
理由なら解るよ。
僕も……兎には怖がられて、鳳凰からはバカにされてたから。
ただの獣な鳳凰が何を食べるのかなんて知らないけど、もしかしたら小動物を捕食するのかもね。
だから兎は鳳凰を怖がるし、鳳凰は小動物を餌としてしか見てないのかも】
【確かに肉食獣の神は、多少その傾向があるよね。雑食でもね】
【でも他の獣神は こんなにもキツくないよ。
龍なんて と~っても優しいし。
だから僕、お嫁さんは龍がいいなって思ってたんだ♪】
《だからって大して知りもしねぇ娘と結婚かぁ?》
【たいしてどころか、ぜ~んぜん知らなかったんだけどね……この前 会った時も殆ど話してもないし。
ちゃんと知ったのは今日。
ミルキィとチェリーは、ただの猫に変わってってるの気づいてたんだ。
泣きたいの堪えて必死で抗ってたんだよ。
他の誰にも言えずに互いを励ましながら。
……僕に会いたい一心で、月に来たくて。
探ってて、そんな一生懸命な気持ちに触れちゃったら……一瞬で、僕の命なんかよりずっとずっとず~~っと! 大切な命になっちゃったんだよ】
【それ解ります!】マディアが飛んで来た。
【僕の場合は、エーデが向けてた必死な想いは父様と同代の兄様姉様に向けてのものでしたけど。
あ、あとグレイさんをとっても心配してて。
そんな想いの強さにギュッて捕まってしまって……】
【そ~ソレっ! 捕まっちゃったんだよ!】
《激烈爆発的な恋だなっ♪》
《落っこちちゃったねぇ♪》
《輝かんばかりの若さが羨ましいのぅ》
《己が命をも顧みず助けるに至るとは……。
ま、何にせよ安心した。
確かに夫婦だとな》
遥か格上の大神達の優しく包み込むような慈しみの眼差しが、親のもののように思えたイーリスタは、じんわり赤みを増していった。
《感動したのか?♪》
《恥ずかしくなったのかなぁ?》
《イーリスタの辞書に『恥ずかしい』はあるのかのぅ?》
《流石に在るのではないか?》
【ヒドいんだぁ~~~】とうとう真っ赤。
【【イーリスタ様……♡】】
【わわっ!? 目覚めてたのっ!?】
【寝てるフリ】【してなさいって……】
揃ってドラグーナを見上げた。
【もうっ! ドラグーナってば!】
【内緒にしておくつもりだった?
夫婦なのに】
【うううう~~】耳を押さえて丸まった。
《おっ♪
イーリスタが恥ずかしがってやがる♪》
《ちゃんと恥ずかしいって感情があったんだねぇ》
【白虎様っ! 青龍様っ! もうっ!
みんなも そんなに笑わないでよ!
……でも……なんだか とっても……】
座り直した。
【と~~~っても幸せ♪】あははっ♪
【イーリスタ様、娘達をよろしくね】
また両腕に抱かせた。
【ん♪ これからず~~っと一緒ねっ♪】
【【はいっ♪】】
【ミルキィ チェリー、兎になってごらん】
【うんうん♪ なって~♪】
【えっと~】【ど~すれば?】
【猫と龍を切り替えられたんだよね?】
【【あ♪ こぉかなっ?♪】】ぽんっ♪×2。
【おや?】【って、あれれ?】ぱちくり。
【【父様? イーリスタ様?】】
【えっとぉ~】困り顔。
【互いを見てね】苦笑。
【【ん? えええっ猫!?】】
バステートが寄って来た。
【命を保つ為に、欠片を大きくしてしまったの。
でも、イーリスタ様の欠片の方がずっと大きかった筈よ?】
【慣れた姿だから容易だったんだろうね。
もう一度やってみて】
【【はい!】】ん~~~ぽんっ!×2。
【今度は兎だね】【【やった~♪】】
【よかったぁ。
これで一緒にぴょんぴょんできるね♪
でも猫も見慣れちゃったし可愛いから時々なってねっ♪】
【【うんっ♪】】
イーリスタと笑い合っていたミルキィとチェリーは後ろから頭を撫でてくれている手にも笑顔を向けた。
【それじゃあ、またね……】
ドラグーナが薄れて消えた。
【父様!?】【待って!!】
〖俺も、もっと修行しないとね〗
【ありがとドラグーナ!】
【【父様ありがとう!】】
〖うん……お幸せに、ね……〗
龍と狐の集まりからラピスリが輝竜兄弟の方へと飛んだ。
人姿になり、半身を起こした5人と話した後、オフォクスの前に駆けて来た。
【彼等を人世に戻します。
皆様ありがとうございました。
それでは――】礼をし、踵を返す。
【後で……来てくれ】
【……畏まりました】
イーリスタとミルキィ&チェリー、ようやくめでたしめでたしです。
この世界の神は細胞分裂的に子を生みます。
つまり本来は親子そっくりなんです。
ドラグーナの子供達は『混ぜもの』が多いので、性格がいくつかのパターンになっていますよね。
性格や話し方から、第二第三の親が誰なのかも容易く想像できそうです。
そうなると……ですよね~。




