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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第6章 ラピスラズリ
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ウィスタリアとナスタチウム



 5月に入り、連休が明けた日の午後、きりゅう動物病院の休診時間。

青生と彩桜は仮眠室のベッドに並んで瞑想しており、瑠璃は事務をしつつ、黒瑯が置いていってくれたサンドイッチを摘まんでいた。


【ラピスリ、少しよろしいですか?】

机の向こうに現れた藤龍が犬の姿になった。


【ウィスタリア兄様、如何なさいましたか?】


じっと瑠璃の瞳を見詰めていたが、

【ラピスラズリ……なのですよね?】

何か覚悟したとでもいうかのように言った。


瑠璃は微笑みを浮かべて頷いた。

【ですが……そうであって、そうではないのです。

 ラピスラズリ兄様とお話しなさいますか?】


【えっ? あ……はい。お願いします】


【では――】

(まと)う気が、ほんの(わず)かだけ変わった。

〖ウィスタリア、随分と力が戻ったのだな〗

男神らしく声を低くしただけとも捉えられるが、それは確かにウィスタリアが覚えている懐かしいラピスラズリの声だった。

ただその声はドラグーナと同じように反響していて聞き取り辛かった。


【再誕ではないのですか?】


〖再誕なのだが……呪を()ける為、僅かに私が残ってしまったのだ〗


【そうですか……会えて良かった……】


〖こうして保てるようになったのは、つい最近なのでな。

 明かせず、すまなかった〗


【いえ……私も ただの犬でしたし……とにかく無事で良かったです♪】


〖そうだな。互いに、な。

 ウィスタリアは……未だ万全とは言えないのだな?

 ラピスリ、また月に頼む〗

瑠璃の肩が小さく震えた。

入れ替わったらしい。

【説明も、なのですね?】〖頼む〗


【ウィスタリア兄様、月の四獣神様に塞がっている力を開いて頂きましょう。

 結婚等の絆も結んで頂けますが如何なさいますか?】


【結婚……?】ボッ! と赤くなった。


〖ナスタチウムでは?〗【ラピスラズリ!】


【そうですか。では】切り替え。

【オニキス、ナスタチウム姉様は滝にいらっしゃるか?】


【ええっ!? ラピスリ何を――】

【ああ、居るよ。

 ネモフィラ姉様達とよくツルんでたよ】


【そうか。ありがとう】また切り替え。

【ではウィスタリア兄様、参りましょう】


【えええっ!? いえあのそのっ――】


【龍にお戻りくださいね】ふふっ♪

龍に戻ったラピスリが手を取って瞬移した。



―・―*―・―



 その、月では――


『ナターダグラル様、お心を強くお持ちくださいね。

 私はナターダグラル様を取り戻せるよう修行に励みますので、申し訳御座いませんが、もう暫くお待ちくださいね。

 それでは明日また参ります』


ダグラナタンには何も見えないが、エーデラークが離れたとだけ感じた。


〈エーデ……〉


《また泣いておるのか。鬱陶しい》


〈私の事は放っておいてください〉


《彼奴は獣だと言った筈だ。

 お前が憎み嫌う獣なんぞに何故 涙を流す?

 獣を憎み続けよ。

 お前の存在意義は其処にしかないのだという事を忘れるな》


〈エーデは別なのです。

 たとえ獣神であろうともエーデだけは――〉


《黙れ! また封じるぞ!》


〈どうぞ。エーデの破邪で解けますので〉


《神力を全て吸い取ってくれようぞ!》


〈どうぞ。エーデが注いでくれますので〉


《全く! エーデ、エーデと鬱陶しい!》


〈罪を重ね続けてきた私の、今の存在意義は貴方を内に封じ続ける事のみ。

 エーデは分離をと修行してくれていますが、私は貴方を出すつもりはありませんよ。


 私は……貴方が感情や神力の一部を奪ってくれたからこそ目覚められました。

 生まれ変われたのです。

 神世から遠く離れた此処で貴方と共に永遠を生きると決めたのです〉


《ならば憎しみを返してやろう》


内で何かが膨らんだ。


〈要りません!〉

爆発寸前の『感情』を封じた。


《滅せぬか? 然うであろうな。

 神力不足では封じるのがやっとであろう?

 神力も返してやろうか?》


〈要りません。

 過去の私の力なんぞ不要です。

 今の私が、今の想いで高めて参りますので〉


《言うておれるのは今のうちだけだ》フンッ。


気配が消える直前、ほくそ笑んだ気もしたが、兎にも角にもザブダクルが静かになってくれたので、胸を撫で下ろしたダグラナタンは神力を高める修行を再開した。



―・―*―・―



 ラピスリとウィスタリアは禍の滝に着いた。


【ん?】【お♪】「ウィスタリア!」


 振り返った黄金龍(ゴルシャイン)白銀龍(シルバスノー)が言葉を発する前に、鮮やかな橙色の龍が飛んで来てウィスタリアに抱きついた。


「もうっ! 心配したんだからっ!」


「す、すみません……」



【ゴルシャイン兄様、シルバスノー兄様。

 おふたりの結婚式を月で、と考えているのですが、此処を離れられますか?】


【美女のお誘いなら何処へでも♪】【妹だ】

ゴルシャインがポコッと叩く。


【他に同代の方は?】


【いや……行方知れずだ。

 交替を少し早めるとしよう。

 オパール、ユーリィ、エメ――】


【いいよ兄様♪

 同代が見つかった喜ばしい時なんだから、堅っ苦しく考えずに行った行った♪】

サッと集まって笑っている。


【では頼む】【【【はい♪】】】


【あ……】


皆、声を出したシルバスノーの視線を追う。

【ぅゎ……】【あ~~】【羨ましいなぁ】


【見るな】ポコぽこポコぽこ。


 抱き合って鼻先を合わせていた2龍が大慌てで離れて背を向け合い、真っ赤に染まった顔を両手で覆った。


【心を確かめ合えたのならば、それでよい】

【大いに祝ってやっからなっ♪】


【【はい……】】


 同代4龍が集まった。

と言うか、ゴルシャインとシルバスノーがウィスタリアとナスタチウムを向かい合わせ、背を押して くっつけたのだった。



 にこにこ顔のエメルドとユーリィがラピスリに寄った。

【ラピスリ久し振り♪】

【10代上のオパール兄様だよ♪】


【オパール兄様、同代のラピスリです♪】

【人世で父様を護ってるんですよ♪】


【人な父様を?】【【そうです♪】】


【オニキスも行ったんだよね?

 無事に着いたとは聞いたんだけど……】


【はい。ウィスタリア兄様と共に人世を護っております】


【じゃあ新しい相棒を決めないとな……】


【【僕達がなります♪】】


【ふたり一緒に?】【【はい♪】】

【ありがとう】



【エメルド。ジョーヌも無事だ。

 龍に戻れたならば連れて来る】


【そう♪ 良かった~♪

 それじゃ行ってらっしゃ~い♪】



―◦―



 そして月の神殿前――


【あ♪ また結婚式?♪】

ぴょぴょんぴょんぴょんタンッ♪

【僕が結んであげるからね~♪】


シアンスタ達も飛んで来た。


【滝は? 此処は――】

カーマインは続けて何か言おうとしていたがプレリーフが引っ張った。

【ちゃんとしてるわよ。ねっ?】


【はい。任せて参りました】


【ほらね♪

 同代の結婚式ですもの、来て当然よ♪】

【そうそう♪ 私達もお祝いしなきゃ♪】

ネモフィラも加勢した。【【ね~っ♪】】



 そうこうしている間に、シアンスタがラピスリを引っ張って神殿に入った。


【ラピスラズリ、同代なのだろう?】


〖ウィスタリアは知っています。

 来る途中、ゴルシャインにもバレました〗

【ですから兄様として参列してください】


〖しかし性別は固定されている筈だ〗


【偽装ならば見た目だけは変えられます】


〖偽装?〗


【術の名です。

 私が人になっているのも、オニキスが犬になっているのも偽装です】


〖あれか……〗【はい】


【ひとりで話しているかの様で面白いが、とにかくラピスリが言う様にラピスラズリとして参列すべきだと僕は思う】


『ほら』とでも言うかのような顔をした後、ラピスリは気を静め、ラピスラズリを前面に押し出した。

【偽装】


シアンスタは満足気な笑みを浮かべ、ラピスラズリを連れて兄弟の集まりに戻った。



 気づいた者達が笑みを深めた。


【ラピスラズリ!? マジかよ!?

 月で生きてたのかっ!?】


〖まぁ、な〗


【今日は めでたくて嬉しい事だらけだ!♪】

シルバスノーは、照れ苦笑しているラピスラズリに抱きついて泣き笑いの大喜び。



【それじゃあ~、みんな並んでね~♪】

一番嬉しそうなイーリスタが鳳凰になり、

【ウィスタリアとナスタチウムの結婚式♪

 始めるよ~♪】

大きく羽ばたいて祝福の炎を立ち昇らせた。



―・―*―・―



「それじゃ、時間なったから店番する~♪」

ぴょこんと立った彩桜は嬉しそうに帰って行った。


〈夜また来るの?〉


〈うんっ♪

 ショウ達トコ行ってから青生兄トコ♪〉


〈うん。それじゃあ店番も頑張ってね〉


〈うんっ♪〉


 瑠璃は……また遠くかな?

 早く一緒に行動できるようにならないと――



―・―*―・―



 響はガタガタギシッと店の戸を開けた。


「すみませ~ん、御札用の紙を――」


『いらっしゃ~い♪』


カウンター向こうの座敷の更に向こうから軽やかな足音が駆けて来て襖が開き――


「ええっ?」


「あ、兄貴が作った試作品 試してるの~♪

 変な格好でゴメンなさ~い♪」


「試作品? トートバッグ?」


「えっとね~、ユーレイの声が聞き易くなるモノの試作品♪

 まだ名前も付いてないの~。

 えっと、御札用の紙ねっ♪ はい♪」

袋を被ったまま3束 差し出した。


「今日は3束って、どうして分かったの?」


「なんとな~く♪

 あ♪ そ~だ♪

 お姉さんも試してもらえる?」


「トートバッグは被りたくないけど~」


「じゃなくてコレ♪」


「眼鏡? 私、目はいいんだけど?」


「矯正用じゃないの~♪

 ユーレイさんと視線が合わないよぉに霊光を偏光するの~♪

 俺が試すより、いっぱいユーレイさんと会うお姉さんの方がいいと思うんだ♪」


「そういうの欲しかったのよね♪

 試させてもらうね♪」


「あっりがと~♪ じゃあ紙はタダで♪」


「え?」


「モニターさん割り引き~♪

 眼鏡の感想は次のご来店で~♪」


「ホントに!?」


「ホントだよ~♪

 毎度あっりがと~ございま~す♪」







獣神秘話法は相手を特定して話せます。

他者が加われないように遮断もできます。


ですのでラピスリとオニキスの会話は、ラピスリがウィスタリアに聞かせてはいましたが、参加できていません。

つまりオニキスにはウィスタリアが騒いでいたのは聞こえていないんです。



ラピスラズリは77代ゴルシャインの代です。


1★ゴルシャイン(金)

2★ラピスラズリ(青)

3★ウィスタリア(藤)

7☆ナスタチウム(橙)

10★シルバスノー(銀)




そして、おまけ話的に、店番をする彩桜と、客として訪れる響を時々追加させていただきます。


他のお客さんは?


いるんですけどね~。

このお店のお話は、第二部、第三部でもっと詳しく書いていくつもりです。



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