月に行きたい
陽が落ちてすぐの頃、輝竜家の庭では静香が堕神達に夕食を出していた。
【シャイフレラ♪ 皆さんの調子はどう?】
【およ。チェリー殿ではないか。
皆は順調じゃが如何したのじゃ?】
【ミルキィ来てない?
戻らないから捜しに来たのよぉ】
【然様か……見つけたぞ♪
ラピスリ殿の所じゃ。
修行しておるよぅじゃな】
【ソッチなのね~。
ね、シャイフレラは月で生まれたのよね?】
【如何にもじゃ♪
しかし然程も覚えておらぬのじゃ。
弟とも生まれて初めて会ぅたのじゃ】
【弟いたの!?】
【ワラワも知らなかったのじゃ。
オニキスはジョーヌを従弟じゃと知っておったそぅじゃが、ワラワとの繋がりは見えておらなんだと言ぅておった】
【そぉなのね~。でも会えて良かったわね♪
ね、その話し方って~、月語?
人世で暮らしてて変だとか面白いとか言われなかった?】
【月語とな? 龍の里の長老様と同じになってしもぅただけじゃ。
長老様に育てて頂いたからのぅ。
龍としての誇りある言葉じゃからの♪
しかしワラワとて人と話す時は、人らしゅう話しておったぞ。当然じゃろ。
努めておったのじゃが、黒瑯に見抜かれてのぅ、ありのままのワラワが良いと言ぅからの♪ 戻したのじゃ♪】
【ふ~ん。幸せそうねぇ……】
【この上無ぅ幸せじゃ♪】
【私達も幸せになりたいの。
だから月に行きたいのよぉ】
【月に幸せがあるのかの?
ワラワの父上様が喜ぶだけじゃぞ?】
【どぉして?】
【長老様が仰るには、父上様は楽をしとぅてワラワを生んだそぅなのじゃ。
じゃから神世に連れて行かれたのじゃ。
弟も同じであろぅよ】
【おじ様が どんな方なのかなんて知らないけど、私達はイーリスタ様の弟子になるの♪
だから関係ないわ♪】
【面白ぅて格好良いイーリスタ様ならば覚えておるぞ♪
他には狐様が居ったぞ♪】
【四獣神様なのよね? あとひとりは?】
【ワラワの父上様は双子なのじゃ。
双方、父上様なのじゃ】
【へ? じゃあ私とミルキィみたいなの?】
【然様じゃ♪
お祖父様が双子の生み方を確立なさり、ドラグーナ様に伝授なされたそぅなのじゃ♪】
【なんか……嬉しい♪
双子の先輩もいらっしゃるのなら尚更 早く行けるように頑張らなくちゃ♪
月の行き方、教えて♪】
【神世からじゃとワラワが通ったのとは逆じゃから……神世の果ての壁から岩ばかりの地を延々と飛び、猛吹雪の中を火山を避けながら ひたすら飛びに飛んで、宙に浮いておる門から続く道を行くのじゃ】
【人世からは? 行けないの?】
【さぁのぅ……ワラワは神世に連れて行かれたのじゃからのぅ。
しかしラピスリ殿ならば知っておろぅぞ♪
此処な兄弟を連れて行っておるからの♪】
【ありがと♪
じゃあラピスリに会いに行ってみるわね♪】
―◦―
【ラピスリ♪ ミルキィ♪】
診察室で外来待ちをしていた瑠璃の膝に現れた。
【チェリーまで来てしまったのか。
ウンディは?】
【ちゃんとリグーリに頼んだわよぉ】
【ミルキィもだが、まるで彩桜が話しているかのようだな。
彩桜自身は父様ではないのだが、真似ているのか?】
【【そぉなの? 気がつかなかったわ】】
【……ま、よいか】苦笑。
【ね♪ ラピスリは月に行ってるんでしょ?
どぉやって行くの?♪】
【あ♪ 私も聞きたい!♪】
【先ずは龍に戻る事だな。
一時的にではなく保てるように、だ。
猫のままでは弟子も何も無かろう?】
【それは頑張るわよぉ~】
【戻れたら連れてって♪】
【何をしに行くのだ?
弟子に、と言うのは本心ではなかろう?
力を開いて頂きたいのか?】
【【そんな事もできちゃうの!?】】
溜め息――【目的は?】
【【イーリスタ様に弟子入りするの!♪】】
【ふむ……ま、よいか。
月は弟子だらけだな】
【【ええっ!?】】
【私達の兄姉、オフォクス様の末弟様が弟子としていらっしゃる。
ディルムも行っている】
【お姉様も?】【おじ様の弟子?】
【古の四獣神様の弟子だな】
【【それならいいわ♪】】
【ふむ。やはりな。
つまりイーリスタ様だけが目的なのだな?】
【ハッキリ言わないでよぉ】
【恥ずかしいじゃないのぉ】真っ赤っか×2。
【イーリスタ様は月の四獣神を継いだならば嫁探しをなさるそうだ】
【独身なのね♪】【チャンスね♪】
【ま、頑張れ】
【【もっちろん♪】】
ノック音。『瑠璃、交替するよ』
「もうそんな時間か」
【続きは事務室で、だな】【【うん♪】】
カチャッ。「やっぱり話していたんだね」
「聞こえたのか?」
「話しているってだけ伝わったんだ。
内容は全くだから心配しないで」
「そうか。彩桜は?」
「まだ瞑想しているからお願い」
「解った」
瑠璃が立ち上がり際に2匹を抱こうとしたが、ぴょいっと青生の胸に跳んでしまい、青生が慌てて支えた。
【おい】
【やっぱり青生さんがイッチバン父様よね♪】
【うんうん♪ と~っても父様っぽいよね♪】
「行くぞ。ミルキィ、チェリー」摘まむ。
【【ラピスリ怒った~♪】】【煩い!】
―・―*―・―
【あ、フェネギ。帰ってたのか。
今回は東北だったか?】
庭木の枝に絡んでいた蛇が兄を見て狐に姿を変えて浮かんだ。
【ええ。社に向かう途中で寄ったのです。
ウンディの様子は?】
【今日は落ち着いてるよ。今は風呂だ】
【風呂上がりに飲まねばよいのですが……】
【昨日もサッサと寝たらしい。
この前ラピスリが家ごと最強の浄破邪で包んで以降、毎日そうらしいよ】
【そう……ラピスリ様が……】
【羨ましい、とか?】
【なっ――】
【知らぬはラピスリだけだよ。
けどフェネギも いい加減 諦めたらどうだ?
だがまぁ、ウンディには警戒なんぞ無用だ。
双子猫に呼ばれて破邪で包んだ時には『堪忍袋の緒なんぞ とうに切れている』と、毎夜毎夜 暴れていたアイツを睨んで呟いたらしい。
つまりラピスリにとってアイツは不出来な弟以外の何者でもなさそうだ】
湯音のする方を向いた。
【ですがウンディの方は……】
【ラピスリ大好きだが、それでも利幸は瑠璃の幸せを壊す気なんてサラサラない。
だから心配しなくていいんだよ。
ミルキィ チェリーも前に向かって進もうとしている。
フェネギも進んだらどうだ?】
【ミルキィとチェリーが?】
【早く龍に戻って、行きたいそうだ】
少し高くなった満月を指した。
【月に……? 何故?】
【弟子入りしたいそうだ】
【主様でしたら月に数日は戻りますよ?】
【じゃなくてイーリスタ様だよ】
【ああ……納得しました。
主様が尊敬なさっておられる鳳凰神様でしたら弟子入りしたくもなるでしょうね】
【ああそうか、フェネギは会ってなかったな。
マディアの延長線上にいらっしゃる大神様だよ♪】
【マディアの? どういう意味です?】
【幼く見えて物凄い、って意味だよ♪
その線好みなせいか、ふたりは彩桜君の話し方を真似てたよ♪
前から似ていたがソックリになってたよ♪】
【そう……前に進む、ね……】月を見上げた。
リグーリも兄の視線を追って月を見た。
【……エィムとチャムは?】
【相変わらずだよ】
無理矢理に話題を変えたな、と肩を竦めた。
【チャムは……修行していますか?】
【前よりは、と言ったところだが……まぁ、幼いから仕方ないよなぁ。
それでもエィムは見捨てない。
『妹』なのか……とにかく保護しているよ。
エィムは早く昇格してエーデラーク様の補佐になりたいそうだが……ターゲットがアーマルと一緒になってしまったからなぁ。
目覚めてから、どう手を打つかが問題だ】
【確かに、そうですね。
エィムがチャムと結婚すれば完璧に近い神と成れるのですが……】
【そこはまだ話していないが、チャムはエィムが好きだよ。
エィムも……無愛想だが優しいからな、受け入れるんじゃないか?】
【そうなれば獣神の希望と成れるでしょうね】
【希望を懐いて育てるよ】
【お願いしますね】
【チャムの悪戯や失敗も、突拍子もない言動も、オフォクス様の一面だと思えば何でも許してやれるからな♪】
一瞬だけ目を見開いて驚いていたフェネギだったが、すぐに吹き出した。
【確かに♪】ふふふっ♪
【だろ♪】あはははっ♪
兄弟は笑いながらオフォクスが居る月をもう一度 見上げた。
利幸は瑠璃に、狐儀はラピスリに、ミルキィとチェリーはイーリスタに片思い真っ最中です。
チャムもエィムに、ですが、この頃のエィムはどうなんでしょうね?
瑠璃は青生しか見ていませんので利幸と狐儀は実らぬ恋ですが……。
だからと言って幸せになれないなんて私の物語では有り得ませんので♪
まぁ、利幸は本編ラスト・外伝冒頭でシッカリ相手を見つけていましたけどね♪




