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イトコ共鳴とキョウダイ共鳴



 翌日の午後、黒瑯は勤め先からの帰宅途上、丑寅ガラス工房に立ち寄った。


「ごめんくださ――あ……」


「ヨォ♪ 遅かったな♪」

応接コーナーのパーティションの向こうで立ち上がって頭頂部だけを見せた白久が高く手を挙げて手招きした。



 黒瑯が行って覗き込むと、丑寅ガラス工房の専務・嶋崎(しまさき)と向かい合っており、話は順調に進んでいるようだった。


「白久兄、どーして眼鏡?

 んでオールバック? 別人すぎだろ」


「支社長とか常務とかン時は別人なんだよ♪

 営業ン時はフツーにしてるよ♪」


「金錦兄かと思ったよ」


「ずっとこうだから輝竜先生とご兄弟だと思ってなくて、昨日は思い浮かばなかったのよ~。

 今朝ご連絡頂いて、改めて名刺を見てビックリしたわ♪

 いったい何人兄弟なの?」嶋崎が笑っている。


「「7人です」」揃った。


「今時 珍しいわね♪」


「「よく言われます」」顔を見合わせた。


その時、白久と黒瑯の視界の隅、窓の向こうに彩桜の頭のてっぺんが見えた。


「おい」「うん」そっと窓の下に。


そろそろと上っている彩桜に合わせて、しゃがんでいる二人も上り――


『あ……』「「ヨォ♪」」ニヤッ。


――目を合わせた。『わわわっ!』逃げっ!


「どうぞ♪ 入っていいわよ♪」


「気になってるんだろ? 来いよ♪」

「しゃあねぇヤツだなぁ。ほら早く」


『うんっ♪』



 彩桜だけが入って来た。


「オニキスは?」


「モフと遊んでる~♪

 クッキーもあげたよ♪」


「また今日も病院に持ってく分がなくなっちまったじゃねぇかよ」


「力丸の分も焼くんでしょ?」


「焼くけどな」


「俺のは?♪」


「犬用でいいよな♪」「ぶぅ~」


嶋崎が笑う。

白久は弟達の頭をぽこぽこと叩いた。


「では話を纏めましょう。

 当社が年内お貸し頂いて、引き続き黒瑯が借りる。という事でよろしいですか?」


「ええ。此方としては願ったり叶ったりよ♪

 事務所としての改装も、レストランとしての改装もご自由にどうぞ♪」


「「ありがとうございます」!」



―・―*―・―



 休憩時間の きりゅう動物病院に、慌てた様子の若い女性が駆け込んだ。


青生が事務室から顔を出す。

「急患ですか? おや? 患者は?」


「あのっ、フェレットの!」


「ああ、飼い主さんですか。

 元気にしていますよ。どうぞ此方に」

入院室に案内し、ドアを開けた。


「ありがとうございます!」


その声で、見た目は眠っている風を装って瞑想していたジョーヌがピクリと頭を上げた。


「キィちゃんゴメンねぇ」


「はい、どうぞ」ケージから出して抱かせた。


「どこから出ちゃったの?

 危ないから出ちゃダメでしょ?」なでなで。


「出張か何かだったんですか?

 ご心配なら いつでもお預かりしますよ?」


「今回は研修で……主張も多いんですけど、本当にいいんですか?

 えっと、費用は?」


「ウチの庭でなら無料でお預かりしますよ。

 家の中が好きなコは勝手に入っています。

 病院でなら健康診断やトリミングの料金だけで。最安は爪切りかな?」

マンションから輝竜家への地図を描き、料金表と一緒に渡した。


「こんな安くて1泊?」


「何日でも。

 ただしペットホテルや他の動物病院の営業妨害になりますから内緒でお願いしますね。

 これは脱走常習犯なペットの飼い主さんだけにご案内しているんですよ。

 転落や交通事故で命を落とすよりずっといいですからね」


「常習犯……もしかして毎日出てたの?

 困ったキィちゃんねぇ……」


「通勤途上で庭に放して、連れて帰って頂いていいですよ。

 家の者に声を掛けなくていいですし、餌も庭と家に居る動物を確かめてから与えていますので」


「キィちゃん、お庭で遊びたい?」


コクコクと頷いた。


「お返事するなんてお利口さんね♪

 それじゃあ……お願いします」ペコリ。


「はい。

 ジョーヌ、いつでも来てね」なでなで。


「ジョーヌ?」


「あ、勝手に呼んでいたんです。

 キィちゃん、でしたね」


「……ジョーヌ?」


青生を見ていたジョーヌが飼い主を見上げた。


「ジョーヌの方がいい?」


頷く。


「私も♪

 先生、『ジョーヌ』頂いちゃいます♪」


「いいんですか?」


「はい♪

 明日からジョーヌをお願いします♪」


【青生様、毎日 修行できるようにしてくださり、ありがとうございます♪

 僕、頑張ります!】



―・―*―・―



 白久は会社に、黒瑯は家に帰ったが、彩桜は煉瓦の倉庫裏で犬達を眺めていた。


〈彩桜くん――〉


〈え?〉

女性の声に驚いた彩桜が振り返ると、嶋崎が微笑んでいた。

〈あ~、反応しちゃったぁ〉


〈やっぱり話せるのね♪

 瑠璃さんが話していた義弟(おとうと)さんって彩桜くんなんでしょ?

 単刀直入だけど、祓い屋しない?〉


〈俺は早くなりたいんですけど、兄貴達から高校入るまでダメって言われてるんです。

 それまでは修行だ、って~〉


〈そう。それじゃあ予約ねっ♪

 待ってるから、いつでも来てね♪〉


〈うんっ♪〉




 そして帰る途中、事故以来初めて戌井家に寄り、塀の穴から庭を覗いてみた。


犬小屋はショウが居た頃のままで、庭に面した掃き出し窓にはピンクのランドセルが見えている。


【アーマル兄様は交差点だろ?

 まだ動けてねぇだろ?】


【そぉだけどぉ】


【紗ちゃんか?

 オレも協力するから護ってやろうぜ】


【でも……も~ちょい修行してから!】タッ!


【おいっ! イキナリ走るなって!】



「彩桜、どうした?」


「瑠璃姉……」


角を曲がった所でバッタリ会ってしまった。


「泣いているのか?」


「目にゴミ! お散歩してただけっ!」

走って逃げた。


〈飛翔の代わりに紗を護ってくれないか?〉


〈でも……俺、まだまだだからっ!〉


瑠璃も走るのが速いと知っているので、追いつかれまいとする彩桜が家と家の隙間にサッと入ると――


「十分 護れると思うのだが?」


――瑠璃が待っていた。


「どぉして……?」


「では種明かしをし、それを教えよう。

 自信が持てればよいのだろう?」


「種明かし?」


「瞬間移動だ。青生も練習中だ」


「青生兄と一緒……する! 俺も修行する!」


「ならば病院に行け。

 私は澪に用がある。

 待つ間、青生の真似をすればよい」


「うんっ♪」


瑠璃が彩桜の手を取ると、一瞬の浮遊感があり、戌井家の前に戻っていた。


「神眼は?」


「ちょっとできるよぉになったよ♪」


「神眼で場所を確かめ、周囲に人の目が無いと分かったならば瞬移する。

 それだけだ」


「ん♪ あ、嶋崎さん知ってるでしょ?」


「祓い屋の手伝いをしていたのでな」


「ん♪ スカウトされた~♪」


「そうか。

 私は彩桜なら祓い屋になってよいと思う」


「ありがと♪ 俺ガンバル~♪」

嬉しさが溢れるように駆けて行った。



【オニキス、ショウの代わりに飼われるか?】

瑠璃(ラピスリ)の声は笑いを含んでいる。


【カンベンしてくれよぉ】


【では彩桜を頼む】


【おう♪ 任せろ♪】



 彩桜を見送った瑠璃が戌井家の玄関に向かって踏み出した時――


【ね、ラピスリ♪】


――少し大きくなったが、まだまだ子猫な白っぽい縞猫が楽し気に寄って来た。


【ミルキィだけか?

 利幸が来ているのか?】


【ウンディはチェリーが見てるわ♪

 私も一緒に修行していい?】


【オニキスが気に入っているのか?】


【あり得な~い!

 チェリーと交替しながら父様と一緒に修行して、早く月に行きたいの♪】


【月? 何故?】


【イーリスタ様の弟子になるの♪】


【そう、か……】


【それじゃ病院にお邪魔するわねっ♪

 オニキスの背に!】瞬移♪ 【うわっ!?】


瑠璃は苦笑しつつ戌井家の呼び鈴を押した。



―・―*―・―



 彩桜とミルキィが青生と共に瞑想を始めて少しして、ふと思いついたオニキスは、

【お~いシャイフレラ】

確かめようと声を掛けてみた。


【何じゃオニキス】


【さっきジョーヌとすれ違ったんだがな、お前ら姉弟なんじゃねぇのか?

 同じようなイトコ共鳴するな~って気づいたんだよ】


【イトコ共鳴は分かるのじゃが、ワラワは兄弟姉妹(きょうだい)と共に居った事が無いのじゃ。

 故にキョウダイ共鳴を知らぬのじゃ】


【イトコ共鳴よかずっと強い共鳴だ。

 近寄りゃイヤでも分かるよ】


【然様か。ならば寄ってみよぅかの♪

 およ? フェレットを抱いたオナゴが庭を見ておるのぅ】


【たぶんソレだ!

 そのフェレットがジョーヌ、シャイフレラの弟だよ!】




「ここかしら……?」


ジョーヌが嬉しそうに頷いた。


「ほんとにジョーヌはお利口さんね♪」


「やはり昨夜のジョーヌなのじゃな♪」


「えっ?」【これって共鳴!?】


「また いつでも預かるぞ♪」

【ワラワはシャイフレラ。

 父上様はシルバーンとコバルディ。

 月で生まれたのじゃ♪】


「明日から宜しくお願いします」ペコリ。

【僕の父様もシルバーンとコバルディです!

 姉様……なのですね?】


「宜しゅぅのぅ、ジョーヌ♪」撫で撫で♪

【弟とは嬉しぃものじゃな♪】


「では、これで」【僕も嬉しいです♪】


「うむ♪」

【明日、ゆるりと話そぅぞ♪】【はい♪】


ジョーヌを抱いた女性は去って行き、静香(シャイフレラ)は見えなくなるまで手を振り続けた。



【オニキス、弟じゃったぞ♪】


【そっか♪ ジョーヌが従弟だってのは随分前から知ってたんだ。

 人世に来てシャイフレラが従妹だってのもラピスリから聞いて共鳴も確かめたんだ。

 けどジョーヌとの繋がりは見えなかったんだよ。不思議なんだがな】


【然様か。じゃが、もぅよいのじゃ♪

 弟じゃと分かって嬉しぃのじゃからの♪

 感謝致すぞ♪】


【そっか♪ ま、良かったな♪】







本編でも登場しましたが、丑寅(うしとら)ガラス工房の専務・嶋崎(しまさき) (てる)丑寅 剛司(トウゴウジ)の娘です。


煉瓦造りの倉庫のお話では登場しませんが、暎の兄・丑寅 (さとし)は丑寅ガラス工房の社長でありガラス職人で、モーガオハイツの大家です。



シャイフレラは黒瑯の妻・静香(しずか)です。

輝竜兄弟からは『姫様』と呼ばれています。

オニキスより少しだけ歳下なんです。



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