ジョーヌ
その夜――
「白久兄おっ帰り~♪」
「彩桜、ゴキゲンだなっ♪
黒瑯はナンで頭抱えてるんだぁ?」
黒瑯と彩桜が食卓に並んでいるが、楽しそうな彩桜とは対照的に、黒瑯はテーブルに突っ伏して頭を抱えていた。
「今日ね♪
すっごくいい建物 見つけたんだ♪」
「どんな?」弟達と向かい合って座った。
「煉瓦の倉庫♪ カッコイイんだよ♪」
「黒瑯のレストランに、だろ?
で、借りるとか買うとかムリなのか?」
「借りられるよ♪
でもね、あと1年ホテル辞められないんだって~」
「ふぅん。場所は?」
「百合谷町の大通り側の端っこ♪」
「俺んトコの営業所の近くか?
支社とは離れてっから滅多に行かねぇが、すぐ裏にデッカイ煉瓦の倉庫があったと思うんだよなぁ?」
「うん♪ 裏の道挟んですぐだよ♪」
「そっか……だったら明日、行ってみっか。
あの営業所、近々建て直すんだ。
1階をショールーム、地下を駐車場にするんだよ。
だから、すぐ裏のを使わせてもらえるんなら皆 大喜びだ♪
けど、そこの会社は?
景気良さそうだったが?」
「借りてたんだって♪
東京に移転したって~♪」
「へぇ~♪
貸倉庫だとは知らなかったが、こりゃあナカナカにラッキーだなっ♪」
「うんっ♪」「って……?」黒瑯が顔を上げた。
「で、名刺とか貰ってねぇのか?」
「コレ~♪」
さっきまで黒瑯の下敷きになっていた名刺を白久の前に移動させた。
「お♪ 丑寅さんトコの専務さんかぁ♪」
「知り合いか!?」「さっすが~♪」
「黒瑯もガラス食器とか買ったらど~だ?
ウチは応接室とか玄関ホールとかの置物で世話になったんだよ♪
で、青生の病院を紹介したんだ♪」
「って、ナンかイロイロ職権乱用?」
「人聞き悪ぃコト言うなってぇ。
ったく~、ヒデぇ弟だなぁ。
ま、長く借りても年内だ。
そんくらいで丁度いいだろ?
内装工事も必要だしなっ♪」
「って……マジで、もう決まり?」ぱちくり。
「支社長ナメんなよ?」
「やっぱ職権乱――」「おい」ぺし。
「ツッコミ早っ!」
「で、内装工事はウチの住環境総合改善課に任せてくれよなっ♪」
「長っ! やっぱ職権乱用じゃねぇか!」
「あ~腹減ったな~」「俺も2回目~♪」
「あっ」慌てて立ち上がった。
「ありがとな白久兄。彩桜もな」
背を向けて用意しながら小声で言った。
―◦―
そして夜更け――
ぽすぽす、ぽすぽすぽす。
――と、彩桜の部屋の襖を叩く音がした。
「ん?」
『黒瑯、彩桜に夜更かしさせてはならぬのじゃ。早よ寝よぅぞ?』
「姫姉ちゃん♪ 開けていいよ~♪」
「およ? 黒瑯は寝ておったのか?」
「うん♪ このままにしとく?」
「彩桜は? 共に寝るのかの?」
「青生兄トコ行く~♪
姫姉ちゃんも俺トコで寝る?」
「そぅさせてもらおぅかの♪」
「ん♪ じゃあ おやすみなさ~い♪」
ぴょんぴょん出て行った。
「此の絵は……ふむ♪
レストランの中を考えておったのじゃな♪
オニキス、大丈夫かの?」
【大丈夫じゃねぇよ!
抱き枕じゃなくて上からホールドじゃねぇかよ!
潰れちまうだろっ!】
「しかし……我慢せよ♪」笑って出て行った。
【ガマンできっか! 待てシャイフレラ!】
―◦―
青生の部屋には紅火と藤慈も居た。
彩桜も加わり、4人で囲んで両手を翳している真ん中には、思い出そうと頑張っているフェレットが居た。
〈あのぅ……〉
〈ん? なんでも言って~♪〉
〈遠慮なんて要らないからね〉
紅火と藤慈も笑顔で頷く。
〈アーマル様とウンディ様って……ご存知ですか?〉
〈うん。俺達の龍神様の御子様だよ。
でも残念ながら、どちらも今お話し出来る状態じゃないんだよ〉
〈ええっと……たぶん、そんなにもは親しくなくて……なんとなくですが、、僕が一方的に知っていた? 憧れていた?
そんな気がするんです〉
〈もしかして……龍神様の近衛団の方?〉
〈近衛団……ああっ! 近衛団です!〉
〈ぱっか~ん♪〉
〈お名前は? 浮かびませんか?〉
〈それが……全く……〉
〈焦らず、ゆっくりでいいと思います。
自覚なさっただけで前進ですから〉
〈はい……すみません〉
〈元気だして~〉
〈そうですよ。
私達の龍神様も、つい最近お目覚めになられたばかりなのですから〉
〈未だ2/7は眠っている〉
〈うん、そうだね。
だから焦らないでくださいね〉
〈これからも抜け出して来てねっ♪〉
〈お庭の皆様とご一緒しても宜しいのですか?
僕も神力を取り戻したいです!〉
〈うんうん♪ あ♪ ウィスタリア師匠♪
お帰りなさ~い♪〉
【はい♪ 只今戻りました】龍から犬に。
〈あ……それ…………獣神秘話法!〉
【当ったり~♪ 話せる?】
【はい♪ もう一歩 前進しました♪】
【良かったね~♪】
ウィスタリアが小首を傾げつつ寄った。
【兄弟ではありませんが……近い親族なのでしょうか?
少しだけ共鳴しています】
【ソレなぁに?】
【私達は親から命の欠片を頂いて生まれるのです。
ですので親子、兄弟など同じ欠片を持つ者が近づくと共鳴が起こるのです】
【へぇ~♪ 近衛団の龍神様なんだって♪】
【では近くて当然ですね。
父様は? ご存知だと思うのですが?】
【眠ったままなのぉ】
【そうですか……オニキスは――あ……。
オニキス?
耐えていないで抜け出たら如何です?
上に乗ってもよいのですよ?】
【そっか! 助かった~♪】
【此方にお願いします】【はいっ】
ちゃっちゃっと微かな足音が近づき、襖が開いてスルリと――犬のまま来た。
【オニキス師匠、フェレットくん食べちゃダメだよ?】
【だからっ! 犬じゃねぇつってるだろ!】
【どぉ見ても犬だよ?】【っせーよ!】
【それよりも、この方を知っていませんか?
オニキスも父様の近衛をしていたのですよね?】
【してましたけど……ん? 見覚えあるな。
エメルドんトコの伝令係じゃねぇか?
名前ナンつったかな~~~ジョーヌ?】
暫しフリーズ――【はいっ!】
【チョイチョイ黄色い従弟が来てたんだよな。
名前 当たって良かったぁ】
【従弟なのですね。良かったです♪】
【はい♪
ウィスタリア様、オニキス班長、ありがとうございます。
それで……エメルド班長は……?】
【オレの相棒は禍の滝に居るよ。
副長してたユーリィも一緒に元気してっから心配すんな♪】
【良かったぁ~】
ホッとしてペタンと伏せて伸びた。
【うんうん♪ 良かったねぇ♪
もぉ ゆっくり寝てね~♪】なでなで♪
【あっ! 青生様 紅火様 藤慈様 彩桜様!
ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します!】
―◦―
明け方近く、青生は彩桜とジョーヌを部屋に残して病院に戻った。
「夜が明けてからでよかったのだが?」
「そう言わないでよ。
ね、教えてほしいんだけど」
「ドラグーナ様が眠ったままなのだな?」
「うん。見えた?」
頷いた。
「私の龍神様もよく眠っておられる。
そういうものだと思っているが……お稲荷様が戻られている。
お確かめ頂くとしよう」
頷いた青生の手を取って、キツネの社前に瞬移した。
「失礼致します」『入れ』
「ありがとうございます」扉を開けて礼。
「ドラグーナは……よく眠っておるな」フッ。
「もう3日も全くお目覚めにならないんですけど……大丈夫なんでしょうか?」
「その状態は、ただ眠っておるのではない。
表面上の活動を全て止め、内に集中して神力を高めておるのだ。
然うでなく眠っておる場合はラピスリが警告するであろう。
兄弟各々が修行を怠らなければドラグーナも早く元に戻れる。
ドラグーナは残る兄弟の内の己を目覚めさせるべく修行しておるのだからな」
「白久兄さんと黒瑯の……そうですか。
お教えくださり、ありがとうございます」
「シアンスタが尾に記憶を留めたのならばドラグーナも同様であろうよ。
上半身四人と尾を繋ぐ腹部と足腰が目覚めれば、ドラグーナも動き易くなる。
少し手助けをしてやろう。瞑想せよ」
「ありがとうございます!」
【ラピスリ、兄弟だけで無自覚堕神を目覚めさせたのも前進。
ドラグーナの様子に気付けるようになったのも又、前進だ。
然う不安がるな。
ドラグーナは兄弟を消したりなんぞせぬ。
だからこその今の眠り状態なのだからな】
【……ありがとうございます】
見透かされていたと、恥ずかしくなった瑠璃は頬を染めて俯いた。
夕方、黒瑯を追っていた彩桜が隠れる為に身を寄せた煉瓦の倉庫前の大通り側のビルは、白久が勤める会社の営業所でした。
彩桜はそのビルの社名を見ていたようです。
白久が働いている支社は、大通りの突き当たりに在る駅の斜め前に建っている黒光りの大きなビルです。
地元の人なら知らないなんて有り得ないくらいの地域密着型な大企業です。
その社長の息子が、奏&響が加わったバンドの元ギター・タクヤです。
この頃はまだ父親とも揉めていなくて楽しくバンドしていますけどね。
入学式の帰りに拾ったフェレットは、オニキス達の従弟ジョーヌでした。
仲間が増えたと大喜びなオニキスです。