保護魂
【僕も一刻も早く加わらなければならないな】
《うん。鍛えるからねぇ》
【その前に絆でしょ♪】
《そうだよなっ♪》
【あれ? ウンディは?】
術をしていた筈の四獣神達の声がした事に驚いたマディアの声で皆が魔法円を見ると、中央には玄武が居り、甲羅の上にウンディが利幸のまま横たえられていた。
《どうにも解けなくてねぇ》
《亀爺様に魂を調べてもらってるんだよ》
《何やら通常の神魂ではなさそうだからな》
【な~んか混ざってそうなんだよね~】
【そうですか。
それで、ディルムは?】寝てる?
《連続だったからな、眠らせたんだ。
まだ続きそうだからなっ》
〖シアンスタ兄様、カーマイン兄様。
プレリーフ姉様、ネモフィラ姉様。
鍛えて頂いたのに……逃がして頂いたのに、死んでしまって すみません〗
古の青龍が身体から離れたので、瑠璃龍は兄姉の前に行き、頭を下げた。
【再誕、なのだね?】
〖はい。
エーデリリィ姉様、マディア。
気になっている筈。一緒に〗
【いいの?】
【隠したかったのよね?
来てしまって ごめんなさい】
〖いえ、機を見て明かすつもりでおりました。
今が その機と存じます。
私は3代の兄姉に逃がして頂いた後、ご忠告通り神力を僅かにしか使わぬよう小瞬移のみでマヌルの里に向かっておりました。
その途上、街道を外れた場所で禍に近付く人神を見付け、助けたのですが……私が禍に触れてしまったのです。
命を落とした私の魂を、滝の四獣神様、マヌルヌヌ様、カウベルル様が保持し、魂生してくださり、最終的には月にて再誕に至ったのです。
ただ、単純な再誕では済まず、禍の呪の影響が残る部分は私のままとして、ラピスリからは切り離さねばならず、こうして意識が残った状態となったのです。
男神の私が残った事に因り、呪の影響が伝わらぬよう、ラピスリは女神で固定される事となったのです〗
【そうか……しかし話せて良かった。
ラピスラズリが消えてしまう事なく、本当に良かった】
〖私も、お会いできて本当に良かったです〗
【と、纏まったトコで~、結婚式ねっ♪
新郎新婦を囲んでね~♪
あっ、シアンスタってば! どこ行くのっ】
【え?】【キミが新郎! 戻って!】
【カーマインとプレリーフなのでは?】
【も~っ、ソッチは新婚さんだよっ】
【そうなのか! おめでとう!】
【このコ大丈夫?】ネモフィラに。
【シアンスタは、そこだけが鈍くて……。
それに私も告白してなくて……】
【シアンスタってば~、早く来ないと僕が貰っちゃうよ?】
【【えっ!?】】
シアンスタ、大慌てでネモフィラと並ぶ。
【それじゃ向かい合って~♪
告白タ~イム♪
みんな~♪ 離れて見てよ~ねっ♪】
ぞろぞろ飛んで離れた。
【ね、ラピスラズリ♪】 〖はい?〗
白兎が ぴょ~んと瑠璃龍の背に乗った。
【魂生中って覚えてる?】〖僅かになら〗
【保護魂で包まれてた?】〖あ……〗
【やっぱり~♪ 浮遊感でしょ?】
〖はい。なんとなくですが……温かい何かに包まれて漂っていました〗
【やっぱりねっ♪
玄武様~♪ ウンディの半分は保護魂で~す♪】
《然様か。納得じゃわぃ》
古四獣神、集まって話し始めた。
【何か混ざってると思ってたんだよね~♪】
【保護魂って?】マディアが寄って来た。
【魂を再生する方法は、いくつかあるんだ。
保護魂を使うのも正当な方法のひとつ♪
消滅寸前とか~、欠片しか残ってないとか~、そ~ゆ~時に使うんだよ。
魂の養分にもなるからねっ♪
ん~とぉ、卵みたいなの想像してねっ♪
黄身が再生したい魂で~、白身が保護魂♪
で、保護魂は神魂を使わないの。
神魂で包んじゃうと混ざっちゃって元々の記憶とか消えちゃうから~。
でもね、他魂でも素材は同じだから~、長く放ったらかすと混ざってっちゃうんだ。
すっかり忘れてたんだけど~、最近の堕神魂って何かに似てるな~と思ってたんだよね~】
【それじゃあ堕神魂を作る方法って――】
【その方法を悪用したんじゃないかな~?
しかも解かずに再生域へ~でしょ?
そりゃあ混ざっちゃうよね~】
【私は……ウンディに包まれていた、と?
混ざっているのか……?】
【あれれ? 今度はラピスリ?
ウンディに、じゃないよ?
ウンディになる前だから~、無垢な魂♪
ラピスリには影響ナシ♪
影響あるとしたら~、ウンディの方だね♪
ラピスリ大好きなんじゃない?】
【うっ……】
【たぶんね~、ドラグーナはラピスリを護らせようと考えてウンディ生んだんだと思うんだよね~♪
何が何でも護りたい命なんだから~、理屈も何もナシで、とにかく護るよ~に保護魂を使ってね~♪】
【私は間に合わなかったのに……】
【ちゃ~んとドラグーナを護ってるでしょ。
だから間に合ったんだよ♪
話、ウンディの魂に戻すけど~、保護魂は人魂だったんだろ~ね。
だから人魂じゃ封じられなかった。
方法的には最近じゃないから獣魂っての考えてなかったんじゃないかな~?
で、人魂混じりだから~、ウンディは『人』ってのスンナリ受け入れちゃってるんだろ~ね~♪】
【人魂は人魂では封じられないのですか?】
【可能だけど~、ソレは普通の人魂の場合。
ウンディくらい強い神化魂はムリ~♪
包むのに使った人魂、ウンディの強力保護魂部分が吸収しちゃうよ♪
たぶん何度か試したんだと思うよ~♪】
【何度か……吸収した結果、か……】
【時間が経つと混ざり合う……】
【マディアど~したの?】
【ダグラナタンとザブダクルを早く分離しないと!】
【あ、そっか~。確かにヤバいね~。
じゃあ あの2神、サッサと結んじゃお♪】
【ソッチが先!?】
【強い絆を結ぶと~、コッチも力貰えるんだよね~♪】
【あ……確かに そうね】
【言われてみれば、だね】
【だから古神様も どんどん元気になってってるんだよね~♪】
―◦―
そうして慌ただしくも楽しく賑やかにシアンスタとネモフィラの結婚式が行われ、落ち着くと、古の四獣神から声が掛かった。
《そろそろ再開するからねぇ》
《イーリスタ、ラピスリ、此方に》
《マディア、神殿の奥から賽子を見つけて来てくれるかの?
人の掌に易々と乗る程度の立方体の箱じゃ。
小さ過ぎてのぅ、儂には見えんのじゃよ。
マディアならば神眼が強いからのぅ》
【はいっ】
エーデリリィを連れて飛んで行った。
【ウンディは……解けるのですか?】
《無理じゃよ。現状ではのぅ。
神として弱まっておらぬ事だけが救いじゃが……人としての死を迎えて以降、そこからの修行が必要じゃろうのぅ。
じゃから賽子なんじゃよ》
《ただの賽子じゃないからねぇ。
外からの神力が及ばない、修行に最適の空間なんだよ~》
【つまりユーレイとなって後、その中で修行しなければ神には戻れないのですね?
神力が及ばぬという事は、其処に入っている限り死司神に連れて行かれる心配も無いのですね?】
《そういう事じゃよ》
《だがな、放っといたら人のまんまだ。
だから今からキッカケを与えておく。
そーゆーこった♪》
《何人分か吸収していなければ解けたんじゃないかと思うんだけどねぇ。
それでも、いずれは神には戻れるからねぇ》
《我々も力及ばぬなんぞと認めたくはない。
故に更に鍛える。
此奴が身体を失った後には必ずや神に戻す》
【ありがとうございます】
―・―*―・―
【オニキス――】
【あ、ウィスタリア兄様。
今、オフォクス様の社なんです】
【彩桜父様が出掛けたまま戻らず――あ、青生父様も此方でしたか】
キツネの社に現れたウィスタリアがスッと寄った。
【オフォクス様と出掛けてたらしいです。
もう夜が明けるけど……オフォクス様、何処行ったんだろーなぁ……】
「あ……龍神様?」【今度は青生父様が起きたっ】
「はい。まだ夜明け前ですので、ゆっくりなさってくださいね」
「はい、ありがとうございます。
おや? 瑠璃は……?」
気を消している真っ暗に真っ黒は見えていないらしく、淡い光を放つウィスタリアだけを見ている。
「お稲荷様と出掛けております」
【って! 知ってたんですか!?】【え?】
「そうですか。
まだ月なのかな?」【月って!?】
「そうなのかもしれませんね」
【本当にご一緒なのですか?】【さぁ……】
「なんだか……犬と一緒にするのは申し訳ありませんが、雰囲気がウィスタリアに似ていますね」
「獣神ですので……」
「話していると、藤慈が居るようにも思えます」
「嬉しい……です」
「藤慈は大喜びすると思います」「あ♪」
【兄様お願いしますっ!】既に居ない。
「彩桜も起きたの? それとも寝言?」
「俺、寝言なんて言わないよぉ。
ウィスタリア師匠♪ オニキス師匠は?」
「外に……出たようですね」
「また犬してるの?」「それはっ――」
「やはり、そうだったんですね。
俺達兄弟を見守ってくださっているんですね。
ありがとうございます」
「いえ……本当に犬だったのです。
拾ってくださり、ありがとうございます」
ラピスラズリが特別だというのは周りからの評価で、ドラグーナとしては千子どの子も大切で可愛いんです。
ややこしい状況で生まれたラピスリとウンディ。
それが判明しても弟でしかないと思うラピスリなのでした。
人世魂と神魂の大きな違いは精製度と大きさだそうです。
保護魂として使ったのは人魂なので神魂に混ぜるのには限界があるのだとか。
その残りの保護魂を使ったらしい同代の狐神様もいるような……?




